山アダイカスト株式会社


 電子部品製造において高い技術力を有する山アダイカスト株式会社が、国内機械メーカーが新たに開発したアルミホットチャンバーダイカストマシンを導入し、自動車部分品業界への参入を果たした。この同社の取り組みは、低迷する本県経済活性化の側面からも注目を浴びている。今号では、自慢のアイデアと技術で新分野へ進出した同社代表取締役社長の山ア博次氏と取締役海外事業部長兼秋田工場総務部長の山ア裕子氏にお話を伺った。

代表取締役社長 山ア 博次 取締役海外事業部長兼秋田工場総務部長 山ア 裕子
代表取締役社長
山ア  博次
取締役海外事業部長
兼秋田工場総務部長
山ア  裕子

■ 素人集団から「世界の山ア」へ
同社は昭和40年に埼玉県戸田市で創業。43年には本社を横浜市に移し、51年には現在の秋田工場が完成し操業を開始した。当時はテープレコーダー用磁気ヘッドの製造を主力としていたが、時代の流れとともにカメラ・ビデオ部品、パソコン部品などの製造も手がけるようになった。特に近年は、CDやDVDなどの光ピックアップ(CD等の情報を読み取るための重要部品)製造をメーンに高い技術力・品質を誇り、光ピックアップ業界では「世界の山ア」と呼ばれるまでになった。
山アダイカスト株式会社  しかし、ここまでの道のりは決して楽なものではなかった。秋田工場開設当時、社員のほとんどはダイカストの経験はなく、いわば素人集団。しかも山ア社長の専門は設計だった。「当時は機械が故障しても首都圏のように修理可能なメーカー工場が近くになく、機械修理の知識がない自分たちで何でもやらなければならなかった。しかし、その時の経験が今日の山アの技術力に結びついている。全て自分たちでやらなければならなかったことが“秋田の強み”」と当時の思い出とともに技術力の秘密を語る。

■ 「誠実なる技術と信用」の経営
同社では、亜鉛合金、アルミニウム合金、マグネシウム合金の3種類の合金から用途に応じた小型精密ダイカストの製造が可能であり、また、高精度・高品質・低コストをモットーに金型の設計・製作から試作品加工、鋳造、加工、検査、組立まで一貫生産を行っている。
 さらに、ローコストオートメーションを主眼とした自社製ファクトリーオートメーションシステム(作業の自動化)を構築し安全性の向上、合理化・納期短縮に大きな成果を上げている。「金型から製品加工、組立まで一貫生産しているダイカスト工場はありませんね。設計段階から携われるからこそ、顧客ニーズにきめ細かに対応できるんです。」と自信に満ちた表情で山ア部長は説明してくれた。40年培われた同社の小型精密無加工技術の高さと信用は、今日の産業界を影で支えてきたといえる。
山アダイカスト株式会社 山アダイカスト株式会社

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■ アイデアと技術で勝負!  自動車部分品への挑戦
 今まで同社には経営の転機が何度かあった。一度目は磁気ヘッドから光ピックアップ製造に乗り出したとき。二度目は中国に進出したとき。そして今回、自動車部分品産業に参入したことが三度目の転機となった。
山アダイカスト株式会社  きっかけは、自動車用小型アルミニウム部品を取り巻く状況だった。現在、自動車用小型アルミニウム部品の多くは、冷間鍛造と呼ばれる手法により製造されている。この手法は、金属素材(非鉄金属、ステンレス鋼、合金鋼等)室温で金型を用いて圧縮成形するもので、強度を得ることができる反面、内部にひずみが生じるため、その除去などの加工サイクルが増加しコスト高にならざるを得ない問題を抱えている。「ダイカストで製造できないか…」しかし、アルミニウムダイカストで一般的なコールドチャンバー技術による機械の構造的特性から、冷間鍛造を上回る製品を生み出すことは困難だった。ところが近年、“ホットチャンバー”と呼ばれる技術を可能にする、アルミニウムダイカストマシンの開発に国内機械メーカーが成功したことが状況を変えた。 山アダイカスト株式会社  この技術は、溶けたアルミニウムを外気に触れることなく直接金型に射出することが可能であるため、コールドチャンバーの問題点であった溶けたアルミニウムを炉から射出装置に移す際に生じる温度低下が固相形成を促し、品質低下・鋳ばりを発生させる問題を解決し、高精度・無加工化による生産を可能とした。そこにいち早く注目したのが同社だった。「大手自動車メーカーは、小型部分品のダイカスト製造は得意ではない。そこにこそビジネスチャンスがある。新しい機械が開発されたことも大きいが、新分野進出への社員の理解と協力が何よりも重要。」と山ア社長は参入の経緯を語った。既に国内大手自動車メーカー部分品の商談も成立し、量産体制に向け取り組んでいる。

■ 人材づくりの必要性
山アダイカスト株式会社 「ダイカストは溶けた金属が相手の仕事。技術者のセンスが求められる。図面どおりにつくっても納得できる製品を得ることは難しい。コンピューターや産業用ロボットが普及しても、最後は人の手による1/1000ミリメートル単位の調整が必要。」とダイカスト歴49年目の山ア社長はダイカストの難しさを教えてくれた。そして、「経験や技術を若い社員に継承し、将来も“技術の山ア”でありたい」と“技術者魂”に衰えはない。

 電気機器業界を取り巻く情勢は、海外への生産シフト、コスト競争、製品サイクルの短期化など厳しい経営環境にさらされている。このような中、現状に甘んじることなく新たな分野へ積極的にチャレンジする同社への期待は大きい。

CORPORATION DATA
山アダイカスト株式会社
代表取締役社長 山ア博次
<本 社> 神奈川県横浜市港北区綱島東3-6-5
TEL:045-542-8818 FAX:045-540-1373
<秋田工場> 秋田県仙北郡美郷町中野字川原59
TEL:0187-85-3200 FAX:0187-87-6001
URL:http://www.yamazaki-dc.co.jp/