「良い建築を安く」CM方式で流通改革
(Construction Management)

新しい建築発注代行システム


株式会社小野建築研究所 代表取締役

  小野 泰太郎 氏


 国際化や規制緩和など社会構造が大きく変化している中で、あらゆる業界にコストダウンと流通改革の波が押し寄せている。官民を問わず建築投資意欲が低迷する中で、これまで保守的な性格の強かった建築業界でもこれらへの対応を迫られている。
 それに一石を投じる動きとしてCM方式が話題を呼んでいる。
 秋田市の(株)小野建築研究所は、「ユーザーの立場に立った建築」をモットーに、県内では初めてCM方式を実践している。ユーザーの満足度も高いうえ、建築費を30%も低減できるというCM方式について所長の小野泰太郎氏に話を聞いた。



CMシステムとは?……
小野
 これまでの建築は、元請け企業が受注し、下請け企業を使って建築するやり方が普通ですが、設計業者がその建物の性格、機能、コストなど、施主が求める条件を満足させられる対応力を持った施工業者を施工内容別に選択し、契約は施主と各施工業者が個別に行うという分離発注方式です。設計業者は、施主の立場に立って施工業者をコーディネイトするわけです。


今までこの方式はなかったのですか?………
小野
 ゼネコンが存在しないアメリカなどではこの方式が主流です。日本国内では、考え方としてはありましたが、私達が始めた平成10年7月時点で実践している例は、全国でもほんの数例程度だったと記憶します。


どうしてこの方式を始められたのですか?………
小野
 公共事業の減少や住宅着工件数の低迷など、建築業界も非常に厳しい環境に置かれています。また、社会構造が大きく変化し、比較的閉鎖的だった建築業界にも国際化による市場開放の圧力が高まっています。我々建築業界自体がグローバルスタンダードとしての体質改善を迫られている現実があります。
 日本の住宅建築コストは、欧米に較べて高いといわれていますが、その原因は何か、本当の意味でユーザーの立場に立った家作りは何かを考えようと、平成9年12月に市内の建築や設計業者の15社で「秋田すまい塾」を発足させました。
 その勉強会で、「日本の発注システムに問題がある」ということになったわけです。どうすればよいかと考えた結果、辿り着いたのがCM方式でした。


CMシステムのメリットは何ですか?……
小野
 一つは施主側のメリット。建築工事は多くの施工業者が関わり、多くの建築資材、ノウハウを注ぎ込んで完成させる労働集約型事業です。CM方式では、どんな人達が自分の家の建築に係わっているのか、施主と施工業者、お互いの顔が見えるので、意思疎通がし易く、施主の希望を反映した高品質な住宅ができます。
 また、どこにどれだけコストがかかるのか、どうしたらコストを抑えることができるのか、設計業者が施主に専門的なアドバイスを与え、工程管理など高度なマネジメントを行うことにより、コストが透明化され、同時に建築コストを30%程度低減できます。
 支払方法も完成検査確認後支払いが行われるので、工事途中での施工業者倒産事故などのリスク回避にもなります。
 もう一つは施工業者側のメリットです。これまでは、ゼネコンが受注し、実際の施工は下請け、孫受け業者が行うのが主流ですが、このやり方では管理コストが大きくなるため、施工業者段階での受注価格が非常に厳しいものになる傾向が強い。これが手抜き工事の原因ともなるし、若い人材が育たない原因にもなる。
 CM方式では施工業者が直接契約するので、いわゆる「下請け」故の無理な条件を押し付けられることがない。また、自分のやった仕事を直接評価されるので、職人としてもやり甲斐があり、より良い品質の仕事に繋がっていく可能性があるわけです。
 つまり、施主、施工業者双方にメリットがあるわけです。設計業者としてはきつい部分もありますが。


課題はありますか?……
小野
 CM方式はメリットも多いが、課題もあります。それは、今までの下請け業者が元請けになるわけですから、漫然と仕事をしているような下請け意識から脱却してもらわなければなりません。
 CM方式では、施主との信頼関係が非常に大切になります。建築に携わる社員一人ひとりが自覚を持って仕事をしてもらいたいのです。
 それと、CM方式はいってみれば建築業界における流通システムの改革ですから、当然軋轢もあると思います。これに参加したことを理由に、施工業者がゼネコンからの下請けをはずされることを心配する声もあります。ただ、CM方式が絶対的なものであると考えているわけではなく、あくまでも施主の選択肢の一つに過ぎない。従って、次第に棲み分けができ上がっていくことで解決すると思います。
 また、施主にもCM方式を理解したうえで契約していただくために、長い時間をかけてもらわなくてはなりません。


所長が考える理想の家作りとは?……
小野
 私は建築、特に家作りはいわゆる「産業」ではなく、家業の集まり、職人の集団など「人間くさい関わり」に基づいて行われる事業だと考えています。その意味で、物作りより物流に主眼を置いているような建築業界の状況には疑問を感じます。
 家を単なる製品とみるのではなく、「家は人の歴史であり、自然のサイクルに即した営みである」そんな精神性を大切にしたいのです。
 それは難しい理屈ではなくて、年輪を重ねた山の木を切って、製材し、多くの人が手を掛けて家一軒を作り上げる、その感動を感じることができる家作りを心掛けたいと思います。


、林業家と協力し、施主に山の立ち木を見せ、山から家一軒分の木を直売する試みを実行に移し始めたという。この取組みは、消費者主導で建築業界の流通改革を促すことになり、また、結果的に自然にも、人にも優しい家作りになる。
 そんな確信が、新しいことに挑戦する小野所長にみなぎるエネルギーを裏打ちしているようである。

経歴:
昭和19年12月5日生まれ、鶴岡市出身
能中央工学校卒業後、斉藤工業所入社、工事を担当、その後秋田ミサワホームに入社、設計を担当
昭和52年3月株式会社小野建築研究所設立、現在に至る
株式会社 小野建築研究所
 〒010-0923 秋田市旭北錦町3番14号
 電話:018-888-4551 FAX:018-888-4552

バックナンバー集へ戻る