伝統の味と風味
通信販売で全国へ展開


株式会社安藤商店

代表取締役専 安藤 大輔 氏


 年間140万人の観光客が訪れる県内屈指の観光のまち角館。秋田新幹線「こまち」の開業効果もあり、今年のゴールデンウィークの観光客数は全国9位にランクインした。
 駅周辺は蔵をイメージさせる建物群で構成され、大正ロマンが漂う独特な雰囲気で演出されている。
 武家屋敷や枝垂れ桜の陰に隠れて目立たない存在だが、城下町・角館は「蔵の町」というもう1つの顔を持つ。外町の旧家を中心に大小優に200を超える蔵が存在する。味噌、醤油の醸造元、(株)安藤商店のシンボルともいえる煉瓦造りの蔵は、この類としては東北最古の蔵として町の文化財にも指定されている。
 今号では、当社の代表取締役専務 安藤大輔さんに話を聞いてみた。


創業はいつごろになりますか…
安藤
●当家は江戸時代中期に地主として角館に居を構え、嘉永6年(1853年)より味噌・醤油の醸造を始めました。醸造は昔ながらの仕込蔵で行われており、140余年の技と心をかけた伝統の味を醸し出しています。


新たに会社を設立されていますが…
安藤
●町の中にある本社工場が手狭になりましたので、漬物工場を分離するとともに子会社「マルジョウ」を設立しました。平成8年10月には物販の拠点となる「北浦本館」を国道46号線沿いにオープンし、その運営にあたっています。安藤醸造元の全商品や特産品など秋田ならではの味わいを取り揃えています。
 また国道46号線沿いは、休憩できる場所が少ないため、乗用車64台・大型バス7台が収容できる駐車場と建物内には広い休憩コーナーを設けました。


北浦本館

 


北浦本館ではめずらしい商品も販売しているそうですね…
安藤
●当醸造元の味噌、醤油を材料に用い、湯沢市の菓子の老舗「くらた」が、菓子の実演販売を行っています。「しょうゆだんご」や「みそまんじゅう」そして全国的にもめずらしい「しょうゆソフトクリーム」など、ユニークな味を楽しむことができます。

 


マスコミにも取り上げられかなりの反響があったそうですが…
安藤
●朝の民放番組で、「しょうゆソフトクリーム」が紹介された時は、その日のうちに東京から何組かのお客さんがいらしてくれました。これもこまち効果ですかね。さらにお盆の頃は、1日で1,700本も売れた日がありました。30分待ちの行列ができたほどです。

好評のソフトクリームだが、開発するまで約半年の期間を要し、オープンしてからも試行錯誤の連続だったという。


本業の味噌、醤油に加えて、漬物の売上げも好調のようですが…
安藤
●北浦産の新鮮な野菜を使い、酒どころ秋田の酒粕で漬けた「粕漬」、当店の味噌でじっくり漬け込んだ「2年みそ漬」など、すべて伝統的手法でつくっています。地場産の材料を使い、地元の方に喜んでもらえる商品づくりを心がけています。また味噌、醤油もすべて昔ながらの天然醸造で、添加物は一切使っていません。さらに当店は直売方式ですので、コストも低廉に抑えています。


最近は地方発送の比率が高まっているようですね…
安藤●
ご来店いただいた観光客の方々を対象とした通信販売でリピーターの確保に努めています。パソコンで顧客管理をしていますが、通信販売による固定客は2万人を超え、当社売上げの約50%のウェイトを占めるまでになりました。最近ではお中元やお歳暮にも利用されていています。


ところで、“蔵”を前面に押し出して、角館に新たな観光スポットを築く計画が浮上しているようですが…
安藤●
私を含め5人が発起人となり、武家屋敷「西宮家」を観光物産館として活用する計画を進めています。新幹線開業という追い風を生かすためには新たな観光スポットが必要であり、今回の構想につながりました。町と仲間に呼びかけて第三セクターを 設立し、来年3月をメドにオープンさせます。

西宮家は江戸時代に秋田県のほぼ全域を治めていた佐竹藩本家の直臣の家。明治時代に焼失したが、大正時代に再建され、現在は町が所有している。母屋と庭園を囲むように並ぶ4つの蔵は、それぞれのテーマの連続性を持った観光、商業施設の形成にはまさに打って付けである。


安藤●“大正ロマン”をコンセプトに、集客手段として「買う・食べる」を全面に出し蔵を利用して、かつてこの地区の特産品だった木綿製品を販売したり、大正時代の内装にしてミルクやお酒などの飲食品を販売します。

運営会社となる株式会社西宮家(仮称)は今年10月に発足を予定している。資本金4,500万円は、町が3,000万円、残りは個人30人が50万円づつ出資する。


安藤●第三セクターというと、町や銀行などが出資する例が多いのですが、我々の会社は個人が集まっているのが特徴です。それだけ街づくりに意欲的に取り組んでいるということでしょうか。


経済効果も期待できそうですね…
安藤●
西宮家に隣接する田町周辺地区商店街は町の中核商店街とはいえ、郊外型店舗の出店により空洞化現象が進んでいます。蔵の整備活用により誘客を図り、観光客を回遊させて、商店街が地域住民と観光客の「交流の場」となることにより、かなりの経済効果が出てくるはずです。なにより商店街の活性化につながってくれればと思っています。

街づくりや観光資源の開発にも熱心な安藤さん。「案内人」というボランティア活動も行っている。


安藤●昨年4月「かくのだて歴史案内人組合」を設立し、副組合長としてお手伝いしています。ボランティアの歴史案内人が、ガイドブックからは知り得ない町の魅力を90分にわたって案内するもので、設立以来この8月までに約3,300人の観光客の方々をご案内しました。4〜5人のグループの利用が多いようです。

現在登録されている案内人は53名。主婦・自営業・退職者など多彩で、年齢も20〜70代と幅広い。


安藤商店の今後について…
安藤●
これからも140年の歴史と技術を受け継ぎ、伝統を忠実に守りながらも、時代の嗜好にマッチした角館の味を醸し出し、お客様に、わざわざ買いに来てよかったと思われる商品づくりを目指していきたい。それがリピーターの確保につながっていくはずです。

「今後も商売は得意な分野で勝負する。」と話す安藤さん。“みちのくの小京都”角館の味、歴史を守りながら、新たなる魅力を発掘し続ける。

安藤醸造元

 本  店 秋田県仙北郡角館町下新町27
TEL 0187-53-2008
 北浦本館 秋田県仙北郡角館町雲然字山崎42-1
TEL 0187-55-2200

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