こまち効果を追い風に老舗の“あじ”で需要を拡大

(株)旅館栄太楼

代表取締役社長 小国 輝也 氏


 秋田新幹線の開業に続き、高速道の開通で本県の高速交通体系の整備はさらに前進したが、その効果が顕著なのは観光面と言われている。ホテル・旅館の宿泊者数やお土産品の売上げが昨年比5割強も伸びているところもある。今年3月の新幹線開業に標準をあわせた秋田大型観光キャンペーンも正念場を迎え、この好機をいかに生かすかが今後の秋田観光のカギになる。
 第48代横綱大鵬直伝の「ちゃんこ鍋」と「トロン温泉」が観光客に好評の秋田市の老舗旅館「栄太楼」は今年で創業50周年を迎えた。昭和36年の国体開催時には皇族関係者も宿泊した名旅館だが、現在は都市型総合旅館として新しいスタイルを模索し客層を広げている。
 今号では、当社の代表取締役社長小国輝也さんに話を聞いてみた。


会社員生活がおありとのことですが…
小国
●東京の大学を卒業後、JTB(日本交通公社)に入社しました。家業のことを考えると、どこか別の店でお菓子の修行をしなくてはだめだ、という意見も社内にはあったのですが、最終的には私自身の意思で仕事を選びました。JTBでは、神戸の三宮支店に配属され、国内・海外旅行の営業や添乗員の仕事をこなしていました。3年半の勤務の後Uターンし、家業を継ぎました。

 同館の創業は昭和22年だが、本業は明治16年創業の菓子製造業である。平成3年2月、27歳の若さで旅館栄太楼の代表取締役社長に就任した小国さんは、同年11月に菓子舗栄太楼の代表取締役社長にも就任。旅館業3代目、菓子製造業7代目として、2足のわらじを履きながらのスタートとなった。

小国●イメージ的に旅館の方が古いと思われていますが、実はそうではないんです。私の16歳上の姉が旅館を継ごうと、YMCAのホテル学校に進学したのですが、大鵬親方に見初められて嫁いでしまったものですから、私が旅館と菓子の両方を継ぐことになりました。


JTBでの経験は現在のお仕事にどのような影響がありましたか…
小国
●お客の立場でものを見る眼を養うことが出来ましたし、たくさんの人達と知り合うことが出来、旅館経営やお菓子の仕事にとっては一石二鳥でした。そのうえセールスマンとしての意識、特に売上げに対する見方や売上げ達成のためになすべきことを学んだことは大きかったですね。


創業して50年、「老舗旅館」としてのスタイルにも変化が見られるようですが…
小国
●創業以来、政治家や財界人が集う社交場として、吉田氏や田中角栄氏といった歴代の総理にもお泊りいただきましたし、大鵬親方の関係もありましたから、角界関係者や芸能人のご利用も多かったようです。しかし、偉い方ばかりを相手にしたところで、実際にお金を落としてくれる人が地方にはいません。現在は宿泊や宴会のみならず、温泉入浴客や会議などの昼間の営業強化と地域密着型戦略で間口を広げ、リピーターの確保にも努めています。


こまち人気による影響は…
小国
●3月の開業以来、宿泊客数は昨年より30%以上増えています。こまち効果は予想より大きいですね。秋田市を宿泊拠点として、男鹿半島や角館・田沢湖などの観光地を回る、個人客の需要が伸びています。

 菓子部門も、山ぶどうのジュースをゼリー状に固めて作った銘菓「さなづら」、県産米を原料とする「あきたこまち」を中心にお土産用として駅ビルなどで売り上げが伸びているという。
 


お菓子に対する消費者の趣向も変わってきているようですが…
小国
●核家族化に伴って、商品もかつての2,3千円のものから今は千円台が増え、好みの多様化から、箱詰めでなく一つひとつの菓子をバラで買うお客様が多くなりましたね。販売方法も、単品でも気兼ねなく買える「買いやすさ」が大切になってきています。秋田市内の大型店内に今年開いた直営店では、若い客層をターゲットに、パイやワッフルを焼きながらの実演販売もしています。

 ところで、好調が続いている観光だが先行き懸念の声も広がっている。長野新幹線というライバルの出現と二年目の反動だ。「こまち効果」をいかに継続させるかが重要な課題となる。小国さんはこまち開業に続く観光の目玉として秋田市出身の歌手、東海林太郎の生誕百年祭を企画、実行委事務局長として準備に追われている。

小国●昨年、岩手県で開催された宮沢賢治生誕百年祭を見学し、全国から観光客が集まってきているのを目の当たりにしました。秋田新幹線の開業や高速道の開通で秋田県も観光アクセスが随分整備されましたが、その効果を継続させる為には、恵まれた自然だけでなく全国から人が集まるイベントも必要です。秋田高校の先輩でもある昭和の流行歌手、東海林太郎さん(1972年没)が来年生誕百年を迎えることに気付いたのは昨年の暮れのこと。百年祭を開いて観光客を呼び込み、秋田をもう1度盛り上げようと思い立ったのが、そもそもの始まりです。


製実行委員会が結成されたのは…
小国
●何をどう進めるのか全く手探りの状況だったので、とりあえず地元の関心のありそうな人に声をかけ、計画を説明していきました。そして今年6月に、実行委員会が発足しました。実行委は、県や市、JR、マスコミ、旅行会社、東海林太郎顕彰会や俳優・藤田まことさん、女優・浅利香津代さんら82人の委員で組織しています。


イベントの概要について…
小国●
知り合いの作詞家、東海林良さんと一緒に歌手の田端義夫さん、島倉千代子さんらを口説きまして、今年12月、前年祭を開催するメドをつけました。また来年は、そっくりさん大会やゆかりの地を歩くウォーキングラリーなどを催しながら、生誕百年に当たる12月11日の本祭に持っていく予定です。このほかにも記念銘菓や記念酒、キャラクターグッズの販売などを検討。新人歌手登竜門としての東海林太郎賞の設立計画も持ち上がっています。

 本業の合間をぬっての準備だけに多忙を極めるが、ぜひ成功させ、新たな観光の起爆剤にしたいと意気込んでいる。


御社の今後の展開について…
小国●
旅館の売上げ比率は、婚礼を含む地元宴会6割に対して宿泊は4割と、ここにきて両者の比率は逆転しています。旅館としての質の良さは残していかなければなりませんが、バラエティーに富んだ旅館というか、都市の立地をいかした都市型総合旅館というのがこれからの栄太楼のあり方ではないかと考えています。秋田らしさのある、地元に愛される旅館を目指していきたいと思っています。
 また菓子部門では、県外進出を視野に入れています。仙台市などを候補地に考えていますが、中国で和菓子が好調なことからアジアにも目を向けています。そのためには、県内の足固めが重要と考え、生産ラインの見直しなどを検討しながら“体力作り”に努めていく方針です。

「秋田ではいろんな事をやっているというイメージを全国に定着させたい。」と話す小国さん。その人脈と行動力で“花まるっ秋田”の盛り上げに情熱を注ぎ続ける。

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