県産大豆で商品づくり
 目指すは豆腐王国秋田


臨海食品協業組合

理事長 矢吹 達夫 氏


 これからの季節、食卓の主役となるのは何といっても鍋料理。その具の代表格でもあり、日本人の食生活に欠かせない伝統食品のひとつが豆腐である。植物性たんぱく質を豊富に含み、血栓の溶解、コレステロール値の抑制、成人病の予防等の効能など健康食品として根強い人気がある。
 豆腐製造の主原料である大豆は、国産大豆のほか、輸入大豆が使用されているが、90%以上がアメリカ、中国などの外国産である。平成7年の秋田県産大豆の収穫量は約5千7百トンで全国第3位だが、そのシェアは5%にすぎない。しかし、香りや味といった品質の面では、昔から高い評価を得ている。
 今号では秋田産の大豆を使用して統一ブランド豆腐を開発した「あきた豆腐研究会」会長であり、臨海食品協業組合の理事長でもある矢吹達夫さんに話をきいてみた。


御社と組合の創業はいつ頃ですか…
矢吹
●昭和24年に秋田市土崎にて先代が矢吹豆腐店を開業しました。昭和42年に豆腐製造業が中小企業近代化促進法の指定業種となったのを契機に、土崎地区の同業者で完全協業による組合設立の気運が高まり、昭和46年1月に組合を設立しました。


最近の業界の動向は…
矢吹
●豆腐の製造は、作るのに美味しい水が不可欠で、商品は日持ちがしないという性格上、地場の小規模メーカーが市場を支えてきました。しかし、流通・技術の進歩や規制緩和の影響もあって大手食品メーカーなどが業界に参入し、地場メーカーは苦しい状況に置かれています。8年前には200軒をかぞえていた業者数も、現在は120軒ほどに減少し、県外メーカーの県内におけるシェアは6割を超えました。地場業者間の「敵はとなりの豆腐屋」という意識を早く払拭する必要があるのですが…。


販売面にも変化はありますか…
矢吹
●ショッピングセンター(SC)など量販店が進出し、物流に変化が生じてきているのは全国的な傾向であり、大量生産の豆腐の取扱いも増大しています。さらには、SC同士の競合が低価格化に拍車をかけています。

 このような背景のなかで、高品質の県内産大豆を見直し「豆腐王国秋田をつくろう」と、矢吹さんが先頭に立ち「あきた豆腐研究会」を発足した。

矢吹●同研究会は、県内5つの豆腐製造業者と大豆の卸業者、生産農家、JA大潟村の8者で組織され、平成7年8月に発足しました。県総合食品研究所から技術的なサポートを受けながら市場調査等を行い、統一ブランド商品の開発を進めてきました。


商品開発にあたってのコンセプトは…
矢吹
●県産の優良大豆のみを使用すること、研究会が定めた商品規格に適合すること、統一デザインのパッケージを使用することといった厳しい統一基準のもとで、安全でおいしい豆腐、従来の商品との差別化、県外向けに「あきた」を強調することを基本コンセプトにしました。

 


開発された商品について…
矢吹
●2年間の研究の末、今年の6月10日から順次、参加メーカーが発売を開始し、現在は全メーカーで製造・販売しています。新しい豆腐のブランド名は「秋田の大豆」と「青大豆」の2種類で、それぞれ木綿と絹ごしを用意しました。黄大豆使用の「秋田の大豆」は、同研究所のアドバイスを基に、豆乳の濃度や凝固剤の配合割合を工夫しました。一方の「青大豆」は、豆腐に適する品種として県農業試験場が開発した県の認定品種「秋試緑1号」が原料。さわやかなうぐいす色で自然の甘み、大豆本来の香りが楽しめます。原料はいずれも大潟村と八森町産です。

県産加工食品開発を目指す県総合食品研究所の「3Aフーズ事業」、いわゆる「秋田・安心・味の国」をキャッチフレーズとする商品化第1号で、メーカー、卸、原料生産者が手を組んだ統一ブランドも初めてだ。

矢吹●我々の豆腐は一丁180円から280円。一般の豆腐と比べると確かに高いかもしれませんが、実際に口に入れて頂ければ、それ以上の満足感が得られるものと確信しています。


ところで、昨年、実演販売のお店を開店しましたね…
矢吹
●SCでは、仕入商品としての豆腐ではなく、手づくり豆腐コーナーを設置して、できたての豆腐を消費者に提供しているところが増えています。当組合でも以前土崎のSCにインショップの形態で手作りコーナーを設け、販売していました。昨年5月、その頃のノウハウを活かし、町のパン屋というスタイルで秋田市泉に手作り店「豆腐庵小町」をオープンさせました。これもこの業界で生き残るためのひとつの試みでした。


大変好評のようですが…
矢吹●
消費者の“食”への関心も「安全」、「本物」志向へと移りつつあります。この店の豆腐は糖度の高い大潟村産大豆と塩の産地である兵庫県赤穂の塩田にがりを使用しています。価格も高めの設定ですが、高品質にこだわった商品が消費者に受け入れられたのは自信につながりました。

「豆腐庵小町」では、ヘルシーな「おからどーなっつ」を目玉商品として開発。なじみ客に加えて若いお客を増やし、客層の若返りも図っている。

矢吹●豆腐は10月から4月までが需要期。一般に夏場は2割ぐらい需要が落ち込みますが、このお店に関しては夏と冬が逆転しています。味にこだわった分、冷やっこでそのまま召し上がるお客さんが多いせいです。


今後の展開については…
矢吹●
首都圏を中心に県外で秋田のおいしい豆腐を食べてもらい、「秋田は豆腐のおいしい所」と評判になるよう頑張っていくつもりです。豆腐のギフト化も推進しており、今年7月に地元土崎のコメ屋、酒小売店と手を組んで「湊倶留目会(みなとぐるめかい)」を結成。今冬は豆腐と地酒をセットにしたふるさと宅配便“「秋田の大豆」湯豆腐セット”の販路拡大を図っていく方針です。また今後も、例えば比内鶏スープが入った豆腐であるとか、地場の特産品を原料とした新製品を開発していきたいと思っています。

「コメや酒と並び、豆腐といえば秋田というイメージを確立したい」と話す矢吹さん。加速する過当競争のなかで、地場の味にこだわり続ける。


臨海食品協業組合
秋田市飯島字砂田105-3
TEL 0188-45-4875

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