進行する高齢化社会を睨み
痴呆の予測・予防システムを開発

株式会社エルグ

代表取締役 山陰 徳郎 氏


 起業家精神に富み、創造的な事業活動に取り組むいわゆるベンチャー企業が全国的に注目を集めているが、経済発展がより求められている本県でも社会経済活性化の切り札として、ベンチャー企業の輩出が真に求められている。
 県は、そうしたベンチャーに対して、金融、技術、経営等、多様な面から30以上の施策を実施するなど支援制度は手厚い。
 秋田市に本社のある株式会社エルグは、創業以来、意欲的に新製品開発に取り組んでおり、このたび中小企業創造法の認定を受けて、医療分野で世界初となる痴呆(ボケ)の予測・予防システム「Able Brain System(エイブル・ブレイン・システム)」を開発した。
 昨年12月に開催された、ベンチャー企業と投資家やパートナー企業とのビジネスマッチングを行う「ベンチャープラザ東北'97」(東北通産局主催)でプランを発表し、好評を博した。
 今号では、当社の代表取締役である山陰徳郎さんに話を聞いてみた。


御社の生い立ちについて…
山陰
●親会社である(株)秋田県不動産鑑定事務所の固定資産評価の調査部門として、平成6年10月に開設しました。その後システム開発室を設けて業務をシステム化する一方で、新規事業にも取り組み、これまでに3つの研究・開発テーマで中小企業創造法の認定を受けています。


このたび開発された「Able Brain System」とはどのようなシステムなのですか…
山陰
●このシステムは、秋田大学医学部助教授苗村育郎医学博士が、MRI(核磁気共鳴診断装置)の導入から約10年間にわたり収集してきた4,000例以上の痴呆患者のデータ(脳障害の種類と成人病の状態、生活習慣)をもとに、阿部清子工学博士が、その関係を解析プログラムとして組んだもので、成人病検診のデータと生活習慣の入力によって、現在の脳の健康状態を統計学的に予測するものです。結果として、脳障害の存在が高い確率で予測された場合は、その種類、予測される脳状態のMRI画像の顕著なサンプル、専門医の生活改善アドバイスが得られます。


交流から生み出されたニュービジネス

 このシステムの開発・研究にあたっては、県工業技術センターの開放研究室を利用し、センターの支援を受けており、まさしく「産・学・官」の交流から生み出されたニュービジネスといえる。


開発するにいたった背景は…
山陰
●長生きをしますと殆どの人が痴呆の状態を迎えます。80代で50%、90代では75%と、長生きされている方々の多くは、痴呆老人の状態にあることが公表されています。
 痴呆は限られた人の問題ではなく、万人に訪れる人生のプロセスです。進行する高齢化社会においては、このようなシステムを早くから利用し、脳障害が原因の痴呆を予防することによって、個人が明るく充実した老後を送ること、家族や地域社会の介護負担を減らすことが可能になります。「寝たきり寿命ではなく、健康寿命」。願わくばそうありたいですからね。


30年後には、全人口に対する
痴呆老人の割合が全国1位に…

 昨年、厚生省の付属機関「国立社会保障・人口問題研究所」は、都道府県別将来推計人口の中で、「2025年、秋田県の老年人口割合は、33.4%で全国一」というデータを発表している。単純に考えただけでも、あと30年後には、全人口に対する痴呆老人の割合が全国1位ということになる。


このシステムのメリットは何でしょうか…
山陰
●脳の健康診断は、すでにMRIの画像診断と種々の診断を組み合わせた「脳ドック」や「痴呆ドック」が全国各地で行われていますが、希望者に対して施設が足りないために受診が非常に困難(1年待ち等)であることや、金額も3〜5万円という高額な費用負担がネックになって一般化されていません。
 しかし本システムは、本人や近親者が記入したシートをもとに解析し脳障害の発生率を予測しますので、低料金で待ち時間もなく気軽に脳の健康診断を受けることができます。

 


販売ターゲットは…
山陰
●まず、利用が見込まれているのは、経営トップの方々です。責任ある地位において正確な判断力を自分がどこまで維持できるのか、後進に道を譲るのはいつが適切なのか。
 トップの交代の失敗で転落の道を辿る会社は沢山あります。そのような失敗を避け、次代の繁栄を願う経営者には、このようなシステムの利用が奨められます。また、脳は成長が遅い臓器であることから、40代にそのピークを迎えるといわれています。成人病が発生しやすいのもこの時期ですので、40代からの中高年の方々にも利用を勧めていくつもりです。さらには、肥満からくる高脂血症のために、中年女性が痴呆になる確率は、男性よりも多いことが既に報告されており、女性にとってもこのシステムの利用は有効と考えられます。


サービスの提供はいつ頃からですか…
山陰
●今年4月からのサービス開始に向け、準備を進めています。1回の利用料金は3,000円を予定しています。このシステムが本格稼動し軌道に乗った暁には、国内だけでなく、英文で海外にもインターネットを利用してネットワーク上で完結するサービスを展開しようと考えています。今のところ世界中を見回しても同じ視点に立った研究をしている専門医や研究者がいないという点から非常にオリジナリティが高いシステムといえます。したがって、現在、特許の申請を準備中です。


治療以前の予防サービス

 「ベンチャープラザ」でプランを発表して以来、パートナーを希望する企業が続出しており、既に大手の健康支援ビジネス会社との業務提携も決まっている。患者に負担増を迫る医療保険改革や医療制度改革に対応した「治療以前の予防サービス」としてニーズの高まりが期待されている。


御社の今後の展開について…
山陰
●高齢者とパソコンを結び付けた、高齢者の役割創出という構想があります。高齢者には地元に残る貴重な有形、無形の文化を受け継いでいる方がたくさんおります。これらの文化財といっていいものを、パソコンをツールとして高齢者の手によってデジタル化し、この情報を後世に継承するとともに、いま広く利活用できるよう資料構築を図るという試みです。


パソコンは苦手という高齢者が多いと思いますが…
山陰
●簡単な画像処理システムが開発されたことが、引き金になっています。東京にある業者が開発したこのシステムは、パソコンの知識が無い人でも、手持ちの資料をボタン操作だけで高精細デジタル画像にでき、加工やEメールの送信まで簡単に行うことができますので、心配ありません。この業者と業務提携を結び、事業化を進めていく予定です。

 生涯現役で社会参加できるようにと、パソコンを操作した経験が全く無い、60才以上の高齢者に絞り参加を呼びかけていくという。

山陰●このシステムを利用することにより、地元の文化や暮らしに詳しい高齢者が、その知識と経験を生かす場が生まれます。また、地元の文化財の資料、古くなってボロボロになった古文書や地図、個人で保管する昔の写真、町の自慢の風景、特産品などのデータをハイビジョン化し、電子美術館として情報化したり、商品開発のヒントとして提供したりすることができるようになります。


 「新しい情報の組み合せと複合化・合成化の妙を得て、新しい仕組み、新しいビジネスをつくる」と話す山陰さん。県内でも数少ない不動産鑑定士として多忙をきわめながら、60才を超えるという年齢を感じさせない若々しさで“情報収集力”と“スピード”をモットーに、起業家として新分野へ果敢に挑戦し続ける。

株式会社 エルグ
秋田市山王6―1―1 山王ビル4F
TEL:0188-62-3033  FAX:0188-62-4623

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