変貌する物流ニーズに対応し、全くの異業種に進出

横手運送株式会社

代表取締役社長 塩田 謙三  氏


 貨物自動車運送業、いわゆるトラック運送業は、戸口間輸送という利便性や機動性といった特性を強みとして、経済成長に伴う輸送需要の増大、自動車工業の発展、道路網の整備などにより、大きな発展を遂げてきた。
 しかし環境保全のための排ガス規制や安全運行のための過積載規制の強化など、運送業界に対する社会的規制は、次第に強化される傾向にあり、運送事業者がこうした社会的規制の強化に対応していくことは、大きな成長制約要因になっているといえる。「運輸白書」(平成9年版)によると、平成7年度の貨物自動車の輸送量は、60億1,700万トンで前年比3.6%増と、伸び率は低水準にとどまっている。
 横手市卸町に本社がある横手運送はこのような環境の中で、本業とは全くの異分野にチャレンジするなどして積極的に経営の多角化を図っている。
 そこで今号は、当社の代表取締役社長塩田謙三さんに話を聞いてみた。


御社の創業はいつ頃ですか……
塩田
●明治のはじめ、初代が塩田運送店として創業しました。昭和26年2月に法人化し、現在は貨物運送のほか倉庫業、自動車整備業、ガソリンスタンド、保険代理業などを手掛けています。


企業間の競争はかなり厳しいようですね……
塩田
●輸送量が伸び悩むなか、規制緩和(参入基準の緩和、事業区分の見直し、運賃規制の緩和)により、新規参入業者が増加しているうえに、高速道の開通で他県の業者が県内に進出してきており、この傾向はさらに強まるものと考えられます。荷主からの物流コスト削減要請などもあり、業者間の競争は激化しており、運送業界は非常に厳しい局面を迎えています。


取扱っている品目はどのようなものですか……
塩田
●創業以来、米などの第一次産業の物資輸送が主体でしたが、産業経済の変貌に伴い取扱い品目にも大きな変遷を見ています。現在は建設資材のセメントを筆頭に、食品、雑貨など広範囲な物資の輸送業務を行っています。

ニーズに応え、
良質なサービスを提供


 「荷主のニーズ」に応えて、「より良質なサービス」を提供するのが同社のモットー。輸送形態も様々だ。


塩田●昭和57年12月から、輸送及び保管業務の拡大と施設等の有効活用を図るため、横手市に工場がある大手自動車用部品メーカー(本社:神奈川県厚木市)の納品代行業務を開始しました。平成2年、正式に輸送契約を交わし、同社及び関連企業に関する調達物流・納品代行及び製品輸送などをジャスト・イン・タイムによるサービスで行っています。

  横手運送では秋田港からの国際コンテナ定期航路が開設されたのに伴い、内陸部で輸出貨物の通関手続きを行える「保税蔵置場」の許可も受けている。


塩田●メーカーの海外輸出製品の保管や、秋田港への輸送も請け負っています。保税蔵置場で通関手続きした荷物はその時点で外国貨物扱いとなり、港までの輸送費に消費税がかからないなど輸送コスト面でのメリットがあります。

労務管理はきわめて
難しいのが現状


 ところで、労働集約型産業である運送業は、いわゆる3K業種のひとつとされ、一般に労働条件は厳しく、若年層の労働力不足が懸念されている。また、従業員の就労時間の多くは社外なので、労務管理はきわめて難しいのが現状だ。


塩田●同業他社との差別化を図るためにCIを導入し、若年ドライバーの確保に努めています。従業員の高齢化は進んでいますが、当社の平均年齢は41才(従業員数270名)ですので、この業界では比較的若い方ではないでしょうか。また合理的な経営管理システムの構築を進めていますが、平成10年4月から、各営業車ごとに労務や経費節減が管理できる「車載コンピュータシステム」を本格稼動させる予定です。その日に費やした輸送時間やアイドリング、急ブレーキの状況など数十項目のデータが一目でわかるので、輸送コスト節減のほか、ドライバーの安全運転や輸送品質の向上にもつながる筈です。


さて、昨年進出した新事業についてですが……
塩田
●昨年10月に自動改札機や現金自動預け払い機(ATM)などの精密機器の部品組み立てを請け負う製造業に新たに参入しました。この事業に参入するため、秋田市御所野にある秋田南営業所内に「マーシャリングセンター」(約2千平方メートル)を新設しました。東京に本社のある大手電気メーカーからATMなどの各部品をマーシャリングセンターに運搬し、組み立ての大部分を行なっています。その後、法定検査が必要な部分についての組み立てを同メーカーの秋田工場で行い、完成品を保管、梱包して全国の各駅、金融機関に配送しています。


新事業に踏み切ったそもそものきっかけは何だったのですか……
塩田
●荷主である同メーカーの秋田工場からの働きかけで、導入に踏み切りました。これも荷主ニーズに対応した商売であり、流通加工のひとつとして捉えています。


スタートしてから約半年が経過しましたが……
塩田
●組み立てた製品に対し、クレームがつくこともあり、まだまだ課題は山積しています。20名を数える作業スタッフの教育や管理者の養成を徹底し、作業精度の向上を図りながら、事業を軌道に乗せたいと考えています。


東京にある秋田ビジネスサポートセンター(BSC)にも入居されていますね……
塩田
●他県の荷主が6割を占めており、特に東京、神奈川、千葉等の関東圏に荷主先が多く、営業活動を行う上にも、不便を感じていました。平成8年7月に東京・有楽町の秋田BSCに入居し、東京営業所を開設すると同時に、関東圏に取扱事業の許可を得、ここを足場として営業活動を展開しています。


活用されてみていかがですか……
塩田
●東京は情報の源であり、私自身も月に何度か上京し、BSCを拠点にして情報収集等を行っています。センター内には、1坪ほどの専用ブースの他に共有の会議室があり、そこで商談や打ち合せができますし、また何よりも東京の一等地に営業拠点を構えたことで、相手先に対するイメージアップにつながりました。


御社の今後の展開について……
塩田
●国際的な分業や交流が急速に進むボーダーレス時代の中で、新たに目標にしているのが輸出入業です。現在、通関業務の免許申請を準備中です。将来的には、県内において需要が見込まれる商品をアジア各国から輸入し、販売していく方針です。  また製造の分野でも、早く1人立ちできるよう人材教育の充実を図りながら、輸送のみならず、保管、荷役、流通加工、情報といった物流システム全般についてサービスを提供する“総合物流事業者”として、地域社会に貢献していきたいと思っています。

"総合物流事業者"として
地域社会に貢献


 「し烈な業者間競争の中で生き残っていくためには、他社と同じようなことをしていては駄目。何事にもトライして、まずは前へ進まなければ企業の発展などありえない」と話す塩田さん。横手運送は業容拡大の新たな節目にあるが、当社の挑戦に終止符は無い。今後のさらなる飛躍を見守りたい。

横手運送(株)
本社:秋田県横手市卸町8-14
TEL:0182-32-3667  FAX:0182-32-5672

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