山と都市を結ぶ
「杉・ヒューマンネットワーク」


モクネット事業協同組合 代表理事     加藤 長光  氏

= 経歴 =

大阪・船場にあるインテリア用品の製造卸問屋で5年間勤務した後、二ツ井町に戻り、24歳のときにカトー装飾を創業。カーテン、ジュータンなどを中心に内装業を営む。昭和63年、秋田杉を活かした製品づくりを目的に株式会社木創(もくそう)を設立し、代表取締役に就任。平成2年、地域おこしネットワークシステムの開発のためモクネット事業協同組合を設立し、代表理事に就任。46歳。


 今年の環境白書は、大量生産・大量消費・大量廃棄の社会から、今のライフスタイルを見直し、自然と共生した循環型社会経済システムの構築を呼びかけている。
 森林破壊の原因の一つは、自然のサイクルが循環しなかったことである。統計によると、日本の木造住宅は16年で取り壊されている。これは50年かかって育てられた樹を16年で捨ててしまうことで、まさに一方的な山の破壊である。50年の樹を使って建てた家は、50年住まなければこのサイクルはうまく循環しないことになる。
 山本郡二ツ井町に事務所を置くモクネット事業協同組合の試み「モクネット21二ツ井システム」は、森林を育成し資源のストックを図りながら、良質の秋田杉を提供することで、「都市」(住宅の施主、建設業者、建築設計事務所)と「山」(二ツ井町:モクネット事業協同組合―材料供給部門、住宅施工部門)を有機的に結びつけていく住宅建設システムである。現在、このネットワークは都市部を中心に全国的な広がりを見せ、このシステムで建てられた家は150棟を数える。
 今号では、当組合の代表理事である加藤長光さんに話を聞いてみた。


−「山」と「都市」とのネットワークはどのようにしてできたのですか……
加藤
●二ツ井町と埼玉県狭山市の「森林問題を考える会―ネットワーク21」という市民運動との交流の中から生まれたものです。
 この「ネットワーク21」は、昭和62年に生活クラブ生協の組合員グループと地元の設計事務所や大工のグループが集まり、「生活の中から日本の森林について考えてみよう」をテーマに結成されたものです。私がこの集会に、秋田から参加していたことがきっかけとなり「モクネット21二ツ井システム」の試みが始まりました。

 


−そのシステムはどのように形成されたのですか……
加藤
●このシステムは、杉を産地から都市へ直接手渡しする新しいシステムをつくり出そうという試みです。
 当初「ネットワーク21」に集まった人たちは、大きく3つに分けることができます。自分たちの育てた木を大事に使ってもらいたいと願っている、産地の人たち。都市に住みながら木に興味があって、木の住宅に住みたいと考えている人たち。そして木造住宅に愛着があり木の特性を活かせるような木造住宅をつくりたいと考えている、つくり手たちです。
 それらの人たちが、どのようにしたら山を守りながら木造住宅をつくり、住むことができるのかを基本テーマに集まっていました。
 この3者を具体的に結び付けるシステムづくり、すなわちモクネットの歩みがここから始まったのです。


協同組合でシステム開発
−システムづくりはスムーズに進んだのでしょうか……
加藤
●モクネットのメンバーは、林業や製材業に直接携わっている人が誰もいない素人集団でした。山に行けば木が有るのだから、注文すれば何とかなると簡単に考えていました。
 ところが実際にやってみると、都市部の工務店が材木の加工場を持っていなかったり、秋田の杉が二間の長さで切られているので、梁としては短く、柱としては長すぎて無駄が出ることなど、思いもしなかった問題にも悩まされました。
 このような問題を一つひとつ解決する繰り返しが、モクネットのシステムを築き上げる手段となりました。このシステムづくりをより本格的に実行するため、平成2年に木創のメンバーの有志5人でモクネット事業協同組合を設立しました。
 組合のメリットは、なんといっても国や県の事業を活用できることです。


−この時点で一番の課題は何でしたか……
加藤
●モクネットの運動に協力してくれる製材所を探すことと木の乾燥の問題です。もともと産地には乾燥という意識がなく、製材所にとっては桟積みする手間、乾燥による変形、修正挽き、歩留まりの低下など、乾燥によって生じる手間やリスクをコストに反映することはほとんど不可能です。ましてや、節のある並材となれば誰も相手にしてくれません。
 そこで考えたのが規格化です。極めて単純な規格で、使い回しがきくこと。これで乾燥による製材所の負担は随分と軽減されたはずです。
 現在では、二ツ井町を中心にして秋田市、能代市、鷹巣町、藤里町、阿仁町などの製材所、木工所、工務店、運送会社のネットワークで運営されています。


−モクネットの杉と住宅の特徴は……
加藤●モクネットの杉は、天然秋田杉とは違い、米代川流域で植林、育成、製材された杉です。樹齢45年〜75年前後で、すべて節のある並材が主力です。規格は単純で造作材、構造材の区別がなく、杉の持つ調湿作用と断熱作用を最大限に活かすために、ボリュームある寸法体系になっています。板材はプレーナー仕上げですべて見せて使うことを前提としています。
 モクネットの住宅は、柱や梁を見せる真壁構法の家です。そのような家を、山や林業の見える家と位置づけています。調湿・断熱効果により、断熱材に頼らない省エネルギーの住まいであるとともに、土壁・ゼオライト・珪藻土など自然の素材を組み合わせた健康住宅です。
 伝統的技術に基づいて建てられた家は、伐採した杉と同じくらいの年数住み続けることができます。

 


もくねっとハウスで大工塾
−埼玉県朝霞市に秋田杉のモデルハウスができたそうですが……
加藤
●国・県の「ふるさとの木で住宅を」普及推進事業を導入して建設したもので、「もくねっとハウス」の名で都市部の常設展示場として一般開放し、好評を得ています。また、大工塾も開催しています。
 大工塾は5月から1年間、毎月第4土・日曜日に集まり、より良い木造住宅づくりをトータルに研修する予定で、受講者は50代のベテランから20代の女性を含む総勢24人。
 遠くは長崎、大阪からも参加しています。


−今後の課題は……
加藤
●これまでは都市向けの活動が主でしたが、これからは地元、とくに米代川流域をベースにした事業展開を図りたい。

 「これからは中央依存から脱却し、地域が自立・自活しなければ生きていけない時代です。地域が自給自足していくためのネットワークをつくり、その中で自分たちの役割をどう果たしていくのかが大切です。ひとり勝ちを目指す時代から、リスクを分散した共存共栄の時代であると考えています。」と話す加藤さん。ネットワークが重層的に形成され、それがモクネットの原動力となっている。モクネットの輪がどこまでも広がっていくことを期待したい。

 

モクネット事業協同組合
秋田県山本郡二ツ井町字太田面12番地3
TEL:0185-73-5660

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