三世代同居の高性能住宅を目指して

株式会社松美 代表取締役

  佐藤 正義 氏


 平成9年版「建設白書」によると、平成8年度の新設住宅着工戸数は消費税引き上げに伴なう駆け込み需要が大きく163万戸で、前年比9.8%増であった。しかし、9年度はその反動で134万戸と大きく落ち込み、10年度も減少傾向が続くことが予想されている。
 11年度には政府の景気対策として2年間の住宅減税が実施され、着工件数の回復が期待されるが長期的な低落傾向は避けられない状況にある。
 また、わが国の住宅事情は、今や住宅戸数が全世帯数を上回り、ストック(既存住宅)重視の時代を迎えている。我が国の住宅寿命はきわめて短く、平均25年程度といわれている。先進諸国の住宅平均寿命が80〜100年に比べると異常なほど短命である。
 そこでロングライフ(耐久性の高い)住宅を始めとして、省エネルギー住宅やバリアフリー(障壁のない)住宅といった、人や環境にやさしい住宅づくりが求められている。
 秋田市に本社のある(株)松美は、県内で最初に省エネルギー住宅の開発に取り組み、これまで高い実績と評価を得ている。最近では秋田市御所野地区に「住宅資料館」や「温熱環境住宅の実験棟」を建設するなど、よりよい住宅づくりを目指して積極的にチャレンジしている。
 今号では、同社代表取締役である佐藤正義さんに話を聞いてみた。



−御社の経営理念について……
佐藤
●昭和48年、高田市政の時代に「秋田市に緑を」という運動が起こり、それをきっかけに住宅と緑は密接な関係にあると思うようになりました。それ以来、住宅と庭(緑)が一体化した家づくりを心掛けてきました。
 また、建物は家と庭があってはじめて「家庭」という言葉になります。わが社ではこの「家庭」をテーマとして、これまで家づくりに取り組んでまいりました。



木造住宅の寿命は50年

−住宅建設業界について……
佐藤
●戦前の住宅の寿命は、50〜60年が当たり前でした。現在の住宅では、早くて15〜20年ほどで解体され、どんどん建て替ええられています。その結果、諸外国の森林を大量に伐採して「白蟻」と非難されている状況です。
 木造住宅は、少なくとも50年は持つものです。それが20年くらいで駄目になるのはなぜでしょうか。その理由として、1970年代に入り日本の住宅はファッション感覚によるデザイン優先の住宅づくりが行われ、しかも低価格志向できたために根本的な対策をおろそかにしてきました。つまり、アルミサッシや断熱材といった新素材が入ってきたとき、確かに断熱効果は良かったものの、それらの持つ欠点に気づきませんでした。いわゆる壁内結露の問題が発生したのです。戦前は、断熱材という考え方がなく、土壁や砂といった自然素材を使ったので躯体が腐ったりしませんでした。
 これからの住宅づくりは、高耐久性が問われる時代です。


住宅資料館

−壁内結露とその防止策について……
佐藤
●壁内結露とは、内外の気温差により断熱材として壁内に詰め込んだグラスウールなどを部屋内の水蒸気が貫通して、外壁の内側が結露することです。壁内で発生した水分は、どこにも抜け出ることができないので、木材や鉄骨といった建物の躯体を腐らせてしまいます。
 そこで結露防止策として有効なのが、当社で開発したシートバリアーです。これは内壁の内側にシートを張ることで、部屋にある水蒸気が外壁に伝わらないようにするものです。
 また、完全に乾燥した木材を使用することも結露対策として重要です。生材を使うと発生した水分が断熱材に浸入したり、経年変化によりヒビやねじれが発生し、多くの弊害が生じています。耐久性のある住宅づくりには見逃せない点といえます。



省エネには高断熱・高気密

−松美の考える「高性能住宅」とは……
佐藤
●当社の考える「高性能住宅」とは、快適な室内居住環境を有し、省エネルギーで耐久性のある住宅のことです。それを実現するために、数々の研究開発を行ってきました。
 昭和51年に省エネ住宅(北国向け住宅)の研究を開始しました。先進地である北海道の高断熱・高気密住宅の視察をはじめ、多くの調査・研究を行った結果、高気密・高断熱でないと暖房効果が上がらず、省エネ住宅にならないことがわかりました。微量の熱で暖房しようということです。
 暖房方法としては、蓄熱式床暖房システムを開発しました。これは従来の個室暖房の弊害(暖かい部屋から寒い部屋へ移動する際の脳卒中などの多発)を考慮した全室暖房で、輻射熱による健康的なシステムといえます。ランニングコストは、ボイラー1台で済むので、約40坪の住宅で1日(24時間使用)当り310〜320円という実験結果が出ており、大変な省エネ効果となっています。
 また、高断熱・高気密住宅と切り離して考えられないのが換気です。汚れた空気の排出や湿度調整のため計画換気システムを採用し、安全で快適な居住空間を確保しています。


−現在取り組んでいる課題は……
佐藤
●全国室内気候研究会という組織があり、北海道から九州まで網羅した36社で構成する、いわば技術者集団です。当社はその秋田支部となっており、この会ではそれぞれの地域で培った技術を公開して、よりよい住宅づくりのために各地で勉強会を開催しています。
 現在取り組んでいるテーマは「冬季室内温熱環境」の研究です。当社では、住宅資料館の隣に公開実験棟を建設し、本物の高断熱・高気密・計画換気・高耐久を実現した住宅がどのようなものであるのか、実際にお客様の目で確かめることができます。
 これからは環境を無視して仕事をすることはできません。建設省の住宅省エネ基準を決定する委員の方たちが、この研究会でのデータを分析して基準値決定の参考としています。
 その基準値をクリアすることは、住宅メーカーとして当たり前のことです。


室内温湿度測定中

−将来展望について……
佐藤
●2世代、3世代がいっしょに住める住宅づくりを目指しています。そのためには、オープンスペースで間仕切りのない住宅をつくり、家族構成に合わせて自由に間仕切りができるようにしたいと考えています。
 これからは、ますます省エネ志向が進み、一定の建築年数を経過しない住宅は自由に建て替えられなくなる時代になります。国の方針も建築基準を設けて、良質な住宅に長く住んでもらう方向に変りつつあります。そのためにも3世代の同居が可能で、住宅ローン返済のためにあくせく働かなくてすむような住環境整備が望まれます。この3世代同居は、核家族化を防ぐとともに世代間のコミュニケーションを図ることが可能となり、子供の教育にも重要な役割を果たすと考えています。


 「省エネ住宅のパイオニア」として、数々の研究成果に基づいて開発されたシステムは、その一つひとつが確実に実績を築きあげ、多くの人に快適な住宅を提供し続けている。「もっとシステムを簡略化したい、もっとコストダウンを図りたい」と、よりよい住宅づくりに旺盛な意欲をみせる佐藤さんの次なる快適システムに注目したい。

株式会社 松美

秋田市楢山山本町2-3   TEL:018(835)1433
〈住宅資料館〉秋田市御所野地蔵田2-2-1

TEL:018(839)8600

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