高齢化時代に「福祉」と「住宅」の融合化を目指して

株式会社かんきょう 代表取締役

  佐藤 久男 氏


 老人介護用品業界の市場規模は1,500億円前後とまだ小さいが、高齢者数の増加に伴う寝たきり老人や痴呆性老人の増加と行政主導による在宅介護の推進などを背景に、年率20%の急成長を遂げている。
 経済企画庁の資料によると2000年には、寝たきり老人数は約100万人、痴呆性老人数は約150万人。2010年には同じく約140万人と200万人で、今後急速な増加が予想される。さらに、核家族化の進行や女性の社会進出の拡大などを背景に、高齢者の介護ニーズが増加する一方、在宅介護を推進するための家庭における介護力が不足している。そのために家庭の介護力を補う介護用品の開発・普及が社会的に強く要請されており、業界の果たす役割や市場性はきわめて大きいといえる。



−創業までの経緯について……
佐藤
●高校を卒業後、県職員を6年経験し、昭和44年の7月に県庁を円満退職しました。県庁では大変に楽しく、有意義に仕事をさせていただき、とても感謝をしております。退職理由は、自分の性格的なもので、事務作業が得意でなかったことと何よりも独立精神が強かったことです。大きな組織では自分の仕事の成果がはっきりしない傾向があり、小さい会社でも自分のやりたいこと、直接自分に結果が返ってくるような仕事をしたいと思いました。
 県庁を退職して、縁あって不動産鑑定事務所にしばらく勤務した後、昭和53年に(株)秋田県不動産情報センターを創業し、次いで58年に(株)かんきょうを設立しました。
 現在この2つの会社を経営しています。


−(株)かんきょうを設立した理由は……
佐藤
●最初の職場が福祉事務所で、身体障害者相手の仕事だったので、全く抵抗感がなかったことと、今後は福祉ビジネスの時代がくることを確信していたからです。


ゆうゆう介護プラザを併設した本社社


施設から在宅介護へ

−業界の動向について……
佐藤
●昭和58年の創業当時、県内には福祉機器や介護用品を取扱う会社は1社もなく、当社が第1号でした。現在では5年ほど前から、病院の薬局や製薬会社の福祉部門を始め、県外からの新規参入も見られます。
 今後の業界の動向しては、高齢化の進展による要介護高齢者の増加は必至であり、老人介護施設などの設置が間に合わない状況が続いています。これは地価の高騰や介護ヘルパーの不足による影響も大きいのですが「施設より自宅で老後を過ごす方が幸せ」とするノーマライゼイション(一般の人々と平等に、かつ一般の社会で普通の生活を送れること)の考え方もあります。このことは肉親や近親者など、いわば素人の方が、病弱な高齢者を在宅で介護しやすくするための、安価で使いやすい介護用品の開発と普及を緊急の課題としています。
 政府方針も建物から在宅介護へとシフトしてきており、平成12年に始まる公的介護保険制度の実施で、老人介護用品市場が一気に拡大することが期待されています。
 また、業務的にはこれまでの介護用品販売やレンタル事業のほか、在宅介護・ホームヘルプ・入浴サービスなどのマンパワー事業、バリアフリー(障壁のない)を取り入れた住宅建設・リフォーム事業というように、業務ごとに住み分けが進むと考えています。


−(株)かんきょうの事業内容について……
佐藤
●福祉機器・介護用品の販売を行っています。具体的には、介護用ベッド、車いす、特殊浴槽、ポータブルトイレ、紙おむつなどを取扱っています。
 主な販売先は、各市町村や社会福祉協議会、特別養護老人ホームなどで、特に市町村では要介護高齢者とその世帯に対して、無料で介護用品のレンタル・給付・貸与を行う「老人日常生活給付事業」を実施しているので、大切な顧客となっています。


−これまでで最も苦労したことは……
佐藤
●何といっても販路開拓でした。創業当時、当社以外に福祉機器や介護用品の販売会社はなく、市場も全くない状況でした。そこで、各市町村で文化祭や収穫祭が催されるときに、無料で展示会を開催するなどの啓蒙普及活動を年間100回以上、10数年にわたり実施してきました。採算は度外視し、将来性にかけてきたかいがあり、最近では知名度も上がり、多くの方の支持を得ることができたことは、この地道な努力の賜といえます。


−今後の課題は……
佐藤
●今年4月から介護用品のレンタル業務を始める予定で、介護保険の対象にもなります。レンタル業務を行うには、消毒のための設備と在庫のための倉庫を確保する問題があり、県内で実施しているところはまだありません。
 特に高齢者用介護用品は、2〜3年の使用で終わるケースが多く、また介護ベッドなどは価格が高いこともあり、レンタルを利用する割合が高いといえます。



シルバーマーケットは無限

−御社の将来展望は……
佐藤
●別に不動産情報センターという会社も経営していますが、現在この会社は、不動産取引きからバリアフリーの高齢者向け住宅建設に方向転換しています。最近の住宅会社はどこもバリアフリーを唱えていますが、本当のノウハウが蓄積されているとはいえません。どうしても住宅メーカーは、ハード中心となり形だけの印象があります。
 その点で、かんきょうには福祉事業に関与してきたノウハウがあり、高齢者や要介護者の生の声を生かした住宅づくりに反映させることができます。
 私の企業経営のキーワードは「高齢化時代」で、「福祉」と「住宅」の融合化を目指しています。
 また、高齢化時代といっても病人は高齢者の7%程度で、残りの93%は健常者です。これをマーケットにしない手はありません。病気になってから治療するのではなく、病気にならないような仕掛けづくりが必要です。例えば、体にやさしい住宅づくりや快適な暮らしの提案。病気ではないが、除雪などのマンパワーを必要とするケースもでてきます。高齢化社会のマーケットは無限の広がりを見せています。


 高齢者の約5%が要介護者で介護用品潜在需要者である。一方、安価で使いやすい在宅介護用品の開発、販売促進、コンサルティングサービスなどの供給面が遅れている。行政への要望として「産学共同でもよいから、市場開拓や新製品開発のための研究機関の設置や研究予算が欲しい」と話す佐藤さん。在宅福祉を推進するためには、業界の健全育成が不可欠であり、行政による規制緩和、展示場の提供、商品等の基準ガイドづくり、民間企業への委託、補助金、税制上の優遇、情報提供などが望まれている。


秋田県社会福祉会館の福祉展示コーナー

株式会社かんきょう
ゆうゆう介護プラザ
 秋田市泉字菅野1-23  TEL:018(824)5588
 秋田県社会福祉会館・福祉展示コーナー
 秋田市旭北栄町1-5  TEL:018(864)2709

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