トータルサポートシステムを構築して地域の情報化に貢献

ADK富士システム株式会社 代表取締役社長

  近藤 和生 氏


 ソフトウェアハウスと呼ばれる企業は、全国に5000社から6000社あるといわれている。通産省の「特定サービス産業実態調査」によると、平成5年のソフトウェア業の事業者数は約3800社で従業者数は27万7000人となっており、最近ではいずれも減少傾向にある。これは、景気低迷による新規開設事業者数の減少の影響も考えられるが、技術力の裏づけに乏しい企業の倒産件数の増加の影響も大きいといえる。
 最近では、コンピュータの小型機の処理能力アップにより、ユーザーの中には大型汎用機を中心としたシステム開発からワークステーションやパソコンを中心とするネットワークシステムに切り替える動き(ダウンサイジング)が生じてきている。また、システムに画像や音声などを用いて利用度の向上をはかったマルチメディア市場が、爆発的に拡大することも予想されており、このような専門知識や経験を有するソフトウェアハウスへの期待が高まっている。
 秋田市に本社のあるADK富士システム(株)は、従業員数140名のほとんどがシステムエンジニアやプログラマーといった「技術者集団」であり、また毎年新規学卒者を積極的に採用するなど、地域の情報化や活性化に貢献している。
 今号では、同社代表取締役社長の近藤和生さんに話を聞いてみた。



−創業までの経緯について……
近藤
●当社の設立母体である秋田電気建設(ADK)は、富士通の販売会社で、OA機器の拡販を行うためにはそれを扱えるエンジニアを育成しなければなりませんでした。そこで、秋田電算機専門学校を設立した経緯があります。当時は、SE(システム・エンジニア)が数百万人足りなくなると言われた時代で、生徒がたくさん集まりました。
 しかしながら、当時ベンダー(ハードウェア・ソフトウェアの販売および維持管理のサービスを行う会社)として卒業生を受け入れてくれる企業が少なかったことや、テクノポリスの指定を受けるために先端的企業が求められていたこと。さらに富士通の販売会社としてソフト要員の確保が必要であったなどの要因が時期的に重なって、昭和59年に前身の(株)ADKソフト開発研究所が設立されました。
 平成5年には、富士電機から資本参加を受けて資本金を8000万円に増額し、社名もADK富士システム(株)に変更しました。



縦割り社会をフラットに

−御社の経営方針は……
近藤
●「技術が売れる、技術立脚型の企業になろう!」というのが、我が社の基本コンセプトです。仕事のベースとして、メーカー系列の制御ソフト開発を行っていますが、一方では地域の情報化に役立つようなR&D(研究開発)事業に取り組んでいます。
 特にハード面のインフラ投資と地域ニーズに合ったアプリケーション開発に力を入れています。今は公募型の事業に積極的に参加し、機械金属工業界全体として使えるような情報システムを開発しようと努力しています。
 製造業の技術的支援を行う窓口として、工業技術センターがあります。センターの役割は、資源材料の研究開発や製造業に対する技術的支援を行うことですが、今後コンピュータはものづくりの分野において非常に大事な道具となるので、その技術を支援する窓口も県の中に必要だと考え、提案しているところです。
 また、今後地域の情報化で必要となるものや、その道具だてはどういうものかを知るためには、地域との交わりが必要だと感じ、異業種交流に積極的に参加しています。


本社社屋と秋田電算機専門学

−地域の情報化はどうやって……
近藤
●地域のニーズをどう吸い上げて、どういう形につくりあげていけばよいのかを考えなければなりません。産学官連携のあり方を考えるときに、それぞれの枠組みをとりはらい、縦割り社会をフラットにして、組織の中の個人が個人の資格で参加し、個人の持っている様々な情報を出し合って、地域の中で何が必要かを考える。その必要なものにプロジェクトを立ちあげて、公費を投入していく。これはスマートバレー方式といいますが、これが秋田にも必要と考え、有志たちとADCC(秋田デジタルコミュニティ協議会)を設立しました。要は、地域のコミュニティをどう立ちあげていけばよいのかを考える場が必要なのです。



企業内の情報化教育が大事

−本当の情報化とは……
近藤
●人、物、金といった自分たちの資産を、コンピュータという道具を使ってどう活用すれば一番有効なのかを考えることが情報化の意味合いです。
 大きなまちがいは、コンピュータを持ってきて、一太郎やエクセルを使うことが情報化だと考えることです。企業にとっても個人にとっても、そのコンピュータを有効に使いこなすことが本当に便利になることで、この辺の誤解が非常に多いといえます。


−インターネット事業について……
近藤
●インターネットでは、実に幅広い層の人たちとお付き合いをしなければなりません。これまでの商売では、お互いプロ同士の専門用語の会話で済みましたが、インターネットではむしろ素人さんが多く、特に若い社員はそういう人たちと普通の会話ができないようです。人間としての幅が足りないことが原因と考えられます。
 このことから、地域のニーズに合った貢献を自分たちがやっていくためには、人間としての幅を広げる必要があり、単なる技術バカでは社会の役に立たないことを痛感しました。そこで社員教育の一環として、地域の行事に積極的に参加し、触れ合うことを進めています。そうすることで段々と地域との垣根が低くなり、地域のニーズが見えてきます。そうやっていっしょに取り組むことで会話ができるようになるのです。本当に社会に貢献しているという実感が感じとれるはずです。
 プロバイダー事業そのものについては、まだインフラ整備の真最中であり、企業PRにとって有効だとはいえない状況なので、今のところ無料でサービスをしています。


−今後の展開は……
近藤
●多くの企業で情報化が進まない原因は、やはり人材の問題といえます。
 特に中小企業では、情報化を取り入れる際に完全にコンピュータを使いきれる人材を育成していません。ハードウェアのインフラはお金をかければできますが、人材育成はお金と時間がかかります。
 これまで電算機学校では、18歳年齢を対象に人材教育を行ってきましたが、急速に進む情報化社会の中で、地域の中小企業が情報化をうまく取り入れるためには企業内で実際にその業務を担当している者の情報化教育が急務だと痛感しています。
 そういう理由から平成10年11月にアプロス・コンピュータリング・ラボラトリ(ACL)秋田校を開校しました。ここでは、人・知識・技術・環境にわたるトータル的な情報化に取り組んでいる県内企業などへの支援を目指し、情報化教育サービスの提供を行います。これからの企業経営では情報化が一番大事な基盤といえます。コンピュータの使い方はもちろん、情報化の考え方などをこの事業でサポートし、少しでも企業の情報化のお手伝いができれば、この積み重ねが地域の活性化につながると考えています。


 ソフトベンダーには、ユーザーの事業を最も効率的に支援する情報システムを開発し、最適なハードウェアとソフトウェアを提供、その運用や保守まで一括してサポートすることが求められている。
 「情報システムそのものがインフラ産業」という近藤さんの構築したトータルサポートシステムが、地域の情報化にどのように貢献していくのか注目したい。


■アプロス・コンピュータリング・ラボラトリ(ACL)秋田校/Microsoft University/ウチダ人材開発センタ/マイクロソフト社

ADK富士システム株式会社
 秋田市手形新栄町2-58 TEL:018(835)5404
 URL http://www.adf.co.jp

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