地方の特色を活かした製品開発にチャレンジ

株式会社山田製パン工場  代表取締役

  山田 哲也 氏


 通産省の「工業統計表」によると、パン製造業の製造品出荷額は、平成5年に1兆3,394億円であったのに対し、平成8年には1兆3,633億円(1.7%増)。近年は少子化による児童数の減少、食生活の洋風化の一巡などから市場規模は伸び悩みが顕著である。加えて、全生産シェアの約6割を大手5企業で占めるなど、市場は大手の寡占状態となっている。
 しかし「パン」は私たちの生活に密着し、鮮度が重視されるものであることから、輸入品に対する競争力は強く安定した業界である。消費者ニーズは多種、多様であり、その幅広いマーケットに適合した独自性のある取組みによって、地方のメーカーにおいても将来的な展望が開けることは間違いない。



御社の業歴について……
山田
 昭和11年10月、父の哲太郎がここ能代で「山田栄進堂」を興したのが始まりです。その後、戦争から帰って、昭和23年に現在の(株)山田製パン工場を設立しました。
 創業時から製造、卸の業者だったのですが、当初は和菓子中心に製造していたと聞いています。それが、先代が戦時中ビルマに出征していた時、連合軍が残していった小麦粉を使ってパンを作ったのをキッカケに、復員してきてからパンの製造に力を入れはじめ、現在の形に至っております。
 ちなみに現在はパン6に対して、和洋菓子4くらいの製造割合となっています。


業界の動向は………
山田
 戦後から昭和30年代の中頃までは、物資不足ということもあり、パンは爆発的に売れました。
 こういう時代を経て、当社も含めて業界の各社は規模を拡大して来たわけですが、その後、様々な食べ物が出現してくると、業況は一転して厳しさを増してきました。
 私たちのメイン顧客である小売店も、大型店、コンビニの出現により、販売店舗数が減少するなど、販路も様変わりしてしまいましたし、卸売においても、今は極端な安売りを強いられ、厳しいコストダウンを余儀なくされています。
 こうして現在、パン製造と卸売の機能を兼ね備えた、いわゆる「パン屋さん」というのは、県内では非常に少なくなっていると思います。
 私たちの大きな失敗は、こうした状況になることを事前に知りながら、何の対策も打たなかったことに尽きると思います。今までは、作ればすぐに売れる時代でしたから、競争しているようで何もしてこなかった。「これから厳しくなるだろう」などと口では言って、何もアクションを起こしてこなかった。本当の厳しさを認識していなかったのです。


この度、新製品「白神パン」を発売されたそうですが………
山田
 業界を取り巻く、こうした厳しい現状に危機感を募らせ、当社独自の強みを持てる製品を模索して研究を続けてきました。以前から県の総合食品研究所と人的交流も含め関係を構築し、当社オリジナルの酵母開発に取組んできていたのですが、こうした縁もあって先方からお誘いをいただき、平成9年に発見された「白神こだま酵母」の製品化にむけた研究会に、六郷町の「六郷製パン」さんと業者では2社参加させていただくことができ、約半年間研究を重ねたうえで、去る4月23日に同時発売にこぎつけました。


「世界遺産白神パン工房」の製品群


「白神こだま酵母」とは……
山田
 「白神こだま酵母」は、一昨年、飯田川町の小玉健吉博士が発見。白神山地内の腐葉土から採取されたもので、マイナス50度でも凍らないという凍耐性にすぐれ、ほのかな芳香がありますが、通常の酵母より発酵力が約15%ほど弱いなどの特徴も持っていました。


製品化する際、苦労されたこと、こだわったことは……
山田
 市販のイースト菌よりも約50倍、一般の酵母よりも約10倍のコストがかかるため、製品化する際には頭を悩ませました。発酵力の弱さは、酵母の含有率を通常の3%程度から5%程度にアップさせたり、発酵時間を通常の約2倍にするなどしてカバーできました。ただ、価格の上昇を抑えることは非常に難しいものがありました。
 消費者に身近な「パン」ですから、なるべく価格は抑えたかったのですが、最高の酵母、小麦粉に、水も白神山系の湧き水「お殿水」を使用。製造するスタッフの技術力も一流だと考えていましたので「最高の製品」ができるという自負はありました。そこで、可能な限り価格の抑制をはかりながらも、ターゲットを「本物の味のわかる人」、「食文化を理解して楽しんでくれる人」に絞り、パンの本当のおいしさがわかる「焼きたて」をお届けすることにこだわることとしました。


今後の課題は……
山田
 発売開始から店頭での販売は一切せず、電話や当社の直営店である「ボストン」での予約注文に応じて製造、できたてを宅配する販売に徹しています。
 評判も上々で、各方面から引き合いが多いのですが、パンは焼き上げた直後から劣化が始まりますので、いつお客様の口に入るか分からない状況で販売することには抵抗があります。パンの持つ本当のおいしさを実感していただける製品なので、できてから長時間経過して食べたお客様に「なんだ、この程度」と思われるのがとても恐いのです。
 今後は、酵母培養ラインの拡充に伴い、コストの低減が可能になると思いますし、インターネットを活用した注文受付も展開したいと準備もしています。
 どのようにしたらこのパンの持つクオリティーを保ってお届けできるかが検討課題です。


手による安価大量販売に対し、地元の世界遺産白神山地で発見された酵母を活用。地の利を活かした製品開発で生き残りを模索する(株)山田製パン工場。今後、地方メーカーが選択すべき方向性を示していることは間違いなく、その成功が期待される。

経歴:
秋田経大付属高校を卒業後、菓子専門学校に進学。その後、東京の木村屋などへの研修を経て、昭和50年当社入社。製造、直営店管理者を歴任した後、常務。先代の死去に伴い平成8年、社長就任。
昭和28年生まれ。
株式会社山田製パン工場
能代市栄町11-3
電話:0185(52)6374

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