中小企業に徹し、従業員の能力を最大限に生かし、経営に参加してもらう

北斗通信工業株式会社  代表取締役

  森 博美 氏


 電気機器産業は、秋田県の平成9年度工業統計によると、製造品出荷額で6,748億円、全業種に占める割合が38.9%で、2位の木材・木製品の5倍とダントツのリーディング産業である。しかし、平成元年度に比較すると製品出荷額で62%の増加でありながら、事業所数では369社で8.9%の減少、従業者数は26,948人で9,5%の減少を示し、電気機器業界でも再編が進んでいる。
 県内景気にも少し明るさが見えてきたとは言うものの海外との競争は激化の一途で、経営内容は厳しさを増し企業間格差が顕著になっている。
 その中で小規模ながら堅実な経営で業界をリードする北斗通信工業(株)森博美代表取締役に話を聞いた。



自動部品装着機械で満杯ですね……
 今生産している製品はパソコンやカーナビなどに使われるCD−ROMドライブやフロッピーディスクドライブなど完成品で月産10万台、プリント基板ベースでは25万台位です。最近は製品の小型化、高密度化が進み、使用される電子部品も数ミリ程度のものが多くなってプリント基板の組立はとても手作業ではできません。平均的なプリント基板1シート(複数の集合体)で1,000〜1,500点の部品をこのチップマウンター(自動電子部品装着機)は1秒間に10個の部品を1/100ミリ精度で装着します。この他異形部品の装着までほとんど自動で行なっています。
 本社工場で電子部品の装着を終えたプリント基板は、六郷工場で完成品となり出荷されます。


海外展開が進む弱電業界ですが………
 大手メーカーが自社工場を製造経費の安い海外に移したり、外注先を海外に求めたりする時代です。国内メーカーは必然的にそれら発展途上国との競争になるわけで、なにかしら国内メーカーに発注するメリットがなければなりません。
 コスト競争ではおのずと限界がありますから、少ロットへの対応力と絶対的な技術力がポイントと考え、極力機械化し製造コストを抑えつつ高精度で信頼性の高い製品を短い納期で供給することに努めています。今後もこの厳しい環境が変わることはないと思われることから、業界の再編が更に進むと予想しています。その波に飲み込まれないためにも常に目標意識を持って「今何をなすべきか」を自分に問い続けなくてはなりません。


事業が飛躍するきっかけは何でしたか………
 始めは単純な手作業でしたが、次第に高度な仕事に転化してゆきました。その過程で少ロット生産や技術レベルの向上等、取引先に育てていただいた部分が多いと思います。それと要求されるレベルを達成しようとする従業員の努力は見逃せない要素です。これといった特別なきっかけがあったわけではありませんが、現在大手メーカーから確固たる信頼を寄せられるまでになれたのは、そんな努力の積み重ねが評価されたのだと思います。


一度失敗した経験もおありですね……
 平成3年に親類と共同で関連会社を設立しましたが、バブル崩壊の影響を受け倒産の憂き目にあいました。実際考え方に甘さがあったと思います。従業員にも迷惑をかけることになってしまいました。でも、その従業員達が「自分達といっしょに再建しましょう。」と言ってくれました。嬉しかったですね。苦しい中から資金を出し合い、細々と営業を継続していたこの会社を再建すべく動き出しました。
 ですから、私は従業員を一番大切に思いますし、会社は代表者個人のものではなくて、株主を含めた従業員全員のものと認識しております。


社内の空気がアットホームなのはそのためですか……
 そんな経緯からか組織がオープンなので意思疎通がし易いのです。また、従業員にも「経営参加」の認識をもってもらうため、財務等数値管理を含めた経営者レベルの考えのできる人材育成にも力を入れています。当社では営業担当者に相手先との交渉では即決権限を与えています。時間との闘いにおいて、逡巡している間に仕事は逃げてゆくからです。当然失敗することもありますが、失敗を受け入れて次の成功への糧とすることでより多くの成果を得ることは私自身が身を持って経験しましたからね。この従業員達が当社のこれからを築いてゆきます。


北斗通信工業株式会社(本社工場)



これからの課題は……
 来年の3月を目標にISO9002シリーズを取得したいと考えています。海外を相手の商売では避けて通れません。
 また、インターネットをはじめとする通信メディアの発達で瞬時に情報が世界中を駆け巡る現在、情報の重要性が益々高まっています。為替変動等の不確定要素の影響は避けられず、ただ単に物を作っていればよいという時代は過ぎたように思います。これからは広い視野で世界を見つめ、情報をどう生かしてゆくか、主体性を持って判断する力をつけなければなりません。これは企業の危機管理にも通じると思います。
 それと高齢化する従業員の雇用をいかに確保してゆくかという問題も重要な課題です。


「私は特に何をしたということはないんですよ」と言う森社長であるが、過去の失敗経験が逆に社長と従業員の間にゆるぎない信頼関係を醸成している。それがこの企業の最良「品質」なのであろう。厳しい中にも柔らかい空気の漂う工場であった。

経歴:
昭和49年東京農業大学畜産学部を卒業。昭和26年生まれ。
仙北町在住。
北斗通信工業株式会社
  仙北郡太田町中里字二十町239-1
  電話:0187-88-1634

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