経営さぷりメント −タイトル−

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65歳までの雇用延長と賃金設計

 高年齢者雇用安定法が改正され、事業主は、平成18年度から特別支給老齢厚生年金開始年齢65歳への段階的引上げに対応し、平成25年度までに段階的に雇用延長の年齢を引上げていくことになりました。65歳雇用延長義務違反に対する罰則等は特に設けられていませんが、雇用延長制度は法律で義務づけられている制度であることから、違反している企業に対してはハローワークから指導・助言を受けることになります。
 今号では、65歳雇用延長と賃金設計をテーマに社会保険労務士 渡部喜政氏にお話をうかがいました。

65歳までの雇用延長の方法
社会保険労務士 渡部 喜政
○65歳までの雇用確保措置
 65歳未満の定年制を定めている事業主は、高年齢者雇用確保措置として次のいずれかの措置を講じる必要があります(改正法第9条)。
(1) 定年年齢の引上げ(65歳までの引上げ)
(2) 継続雇用制度の導入(65歳までの再雇用制度または勤務延長制度)
(3) 定年の定めの廃止
 65歳までの年齢は、厚生年金支給開始年齢の引上げに合わせ、雇用年齢を平成25年4月1日まで、次のとおり段階的に引上げられます。
改正高齢法における雇用延長義務スケジュール
  平成18年4月1日 〜 平成19年3月31日62歳
  平成19年4月1日 〜 平成22年3月31日63歳
  平成22年4月1日 〜 平成25年3月31日64歳
  平成25年4月1日 〜65歳
(注)60歳定年企業における継続雇用制度等の雇用終了年齢は、以下のとおりです。
  平成18年4月1日 〜 平成19年3月31日60歳定年到達者63歳
  平成19年4月1日 〜 平成21年3月31日60歳定年到達者64歳
  平成21年4月1日 〜          60歳定年到達者65歳
○労使協定等による継続雇用制度対象
 高年齢者基準

 継続雇用制度について、原則は希望者全員を対象とする制度の導入が求められていますが、各企業では制度の対象となる従業員を限定されているケースが多くなっています。
 継続雇用制度の対象となる高年齢者の基準の定めは、次のとおりです。
  (1) 従業員の過半数代表と労使協定により基準を定め、その基準に基づく制度を導入する。
  (2) 事業主が、(1) の労使協定のために努力したにもかかわらず労使間の合意が得られない場合は、就業規則等により基準を定め、常時10人以上の労働者を使用する事業場においては、労働基準監督署長に届け出なければなりません。
就業規則等で基準を定められる期間
 常時使用する従業員数が300人以下の中小企業平成23年3月31日までの間
 上記以外の大企業平成21年3月31日までの間
雇用延長に伴う賃金設計事例
 65歳定年延長の最大の課題は、給与体系の見直し(厚労省雇用管理調査)であり、企業が雇用延長を実施する場合、最大の障害は賃金・退職金問題です。
 雇用延長を実現するためには、高齢者の生産力と賃金のバランスをいかに調整するのかが避けて通れない課題です。具体的な賃金設計は、60歳以降の適切な賃金調整、60歳以前からの賃金カーブの下方修正、管理職給与の見直しや昇給抑制等がありますが、就業規則の改正については、合理的な変更内容に注意し、特に不利益変更には合理性が求められるため、個々の従業員からの同意等に留意する必要があります。
賃金設計事例
A社(再雇用制度)の場合
 同社は、60歳定年で一度退職させ、以後、フルタイマーまたはパートタイマーとして1年ごとの雇用契約(賃金等はその都度個々に決定する)を締結する。
B社(等級・資格制度の改善)の場合
 同社は、従来の職能資格制度を廃止し、新たな役割等級制度を導入した。これまでの硬直した人事システムからの脱却により、柔軟な賃金体系による雇用延長が図られ、総人件費の抑制が実現した。
雇用状況(賃金)関係規程等
(1) 再雇用後の賃金は、1年ごとの契約更改により個別に決定する就業規則
(2) フルタイマーの給与水準は、59歳到達時基本給の60%とする再雇用規程
(3) パートタイマーの勤務時間と賃金は、契約更改毎に減少させる再雇用規程
(4) 賞与はフルタイマーのみに支給する(職務内容、成果を考慮)再雇用規程
(5) 退職金は不支給とし、社員分退職金は再雇用終了後に支給する退職金規程
雇用状況(賃金)関係規程等
(1) これまでの、定員なしに昇格が行われる職能資格制度を廃止した就業規則
(2) 50歳代から賃金カーブを緩やかにする役割等級制度を新設した就業規則
(3) 55歳代から賃金カーブを緩やかにする年齢制限事項を新設した役割等級規程
(4) 評価のやりやすい役職基準に連動した等級別賃金表を作成した等級別賃金表
(5) 賃金改正時の既得権者に対する措置は60歳定年まで延長した
 高齢者賃金設計に当たっては、在職老齢年金と高年齢雇用継続給付を併給することから、60歳到達時賃金の61%が最大給付額となることに注目。また、退職金の支払いについては、再雇用満了日に支払うのかを明記する。  雇用延長制度導入を機に、これまでの職能資格制度を改め、年功型高資格等級、高賃金の構造を改善し、役割等級制度を新設して総人件費のコスト減を図った。
 なお、50歳代既得権者を保持し不利益変更を回避した。