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秋田県硬質工具材料研究会が目指すもの

 県内製造業は、少し前までは労働コストの安い国への生産移転のためにかなりの苦戦を強いられていたが、現在は一時の極端な不況から脱したと思われる。私は、大学を出てすぐに教員になったため、企業の置かれている状況を洞察し、将来を予見するような能力があるわけではないが、県内産業の基本的能力が根本的に変化して不況を脱したわけではないので、現在の状況が一時的なものになる可能性が考えられる。結論的には、県内製造業の技術力を常に高く維持し、製品の世界レベルでの高付加価値化に向かわないと、いずれ衰退に向かうことは自明で、最終的には県民の就業機会の減少にもつながる。
 本研究会は、金属あるいはセラミックスの機械加工のための超硬質工具材料の開発を主目的に、最新の工具材料や加工方法の紹介を行う団体として、平成17年5月に発足した。参加者の構成は、秋田県、企業、秋田大学である。
 機械加工は、高精度と低コストの両立、環境調和性が求められるようになってきている。このため、高速長時間加工、オイルレス化の方向に向かうと予想され、それに耐える工具の開発が急務である。これを実現するためには、工具材料に更なる高硬度、高ヤング率、高靱性、高耐食性が求められる。県内で機械加工に関連する業界は、分類として正しいかは別にして、金属製品製造業、電子部品製造業、機械工具製造業などである。推進しようとしている超硬質工具材料の開発および先端加工技術の普及は、付加価値の非常に高い高度な加工を要求される分野に対応してゆくためのものである。先にあげた産業が、高度加工技術の革新に素早く適応して発展し、さらに将来にわたって技術的な国際的優位性を獲得できるようになるための一助に研究会の活動がなればと考えている。

秋田県硬質工具材料研究会 会長 泰松 斉

秋田県硬質工具材料研究会 会長
秋田大学工学資源学部材料工学科教授
泰松 斉
 この研究会を立ち上げることになったのは、研究会の中心メンバーである秋田県産業技術総合研究センターの杉山重彰主任研究員と私の共同研究の成果が県内企業に役立つのではないかと考えたのがきっかけである。共同研究は、超硬質工具材料の開発を目指して平成8年から始まった。この間、7件の特許出願を行い、そのうち2件が特許として成立している。開発した材料の中で、WC−SiC系の超硬セラミックスは、実用化の可能性を秘めており、現在、性能の向上と製造方法の改善を行っているところである。この材料を実用化し、県内企業に役立てることも研究会の目的の1つではあるが、10年にわたる研究の結果蓄えた技術力と知識を広く県内企業に提供することもまた大きな目的である。
 高山に囲まれた内陸の小国であるスイスに、世界でも有数の高度な機械工業が存在していることはよく知られている。地政学的には不利であっても、他国に頼ることなく、長年にわたって自ずから技術力を高めてきたことと、参入者の少ない分野に常に注力してきたことの成果であろう。このことを念頭に置いて、産官学の連携を保ちながら活動を続けたいと考えている