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地域活性化を目指したアケビ種子抽出油脂研究会の活動

 秋田は食資源が豊富で、これまで酵母や麹菌を活用した発酵食品や醸造、キノコなどの真菌類を用いた特徴的な加工食品が開発されてきた実績があります。一方で、まだあまり知られていない有用な素材が豊富に存在します。アケビ種子抽出油脂(アケビ油)もそのひとつであり、本会はこれを食用油として事業化するという目的に特化した研究会です。
 今の食用油の主流は菜種油と大豆油で、サラダ油の大半はこれらの混合油です。これらは大規模農場で生産された輸入原料から搾油工場で製造されたものであり、非常に安価です。しかし、昔は食用油は高価で貴重な食材でした。秋田郷土史によると、戦前までは各家庭・農家で様々な天然植物から食用油が搾られていました。
 アケビは野生果実で、子供の頃に白くて甘い実を食べた記憶があります。しかし、実の中に種が多すぎて、食べにくいのが難点でした。旧西木村(現仙北市西木町)では、この種を捨てずに食用油を搾る材料にしていた歴史がありました。江戸時代には、角館の油問屋がアケビ油を買い集め、特産品として江戸の料亭に売っていたことや、北佐竹家の当主が京の寺院に贈っていたことなどが記録に残っています。「最高級の食用油」、「食用油の王様」と呼ばれ、大変美味しく、当時主流のゴマ油の5倍の値段で取り引きされていました。しかし、大量製造された安価な食用油に押され、昭和初期には完全に消滅してしまいました。
 旧西木村ではアケビ油の復活に挑戦し、平成15年秋の村祭りで製造に成功しました。同時に村からサンプルの提供を受け、秋田大学で研究を開始しました。通常の食用油は全てグリセロールに脂肪酸が3分子結合したトリアシルグリセロールが主成分なのですが、驚いたことに、アケビ油はこれとは異なった新規物質が主成分でした。アケビ油をマウスに与えた実験の結果、通常の食用油と比較して太りにくく、体脂肪がつきにくいという特徴を持つことが分かりました。新規主成分は脂質消化酵素であるリパーゼの反応を受けにくく、消化吸収率が低い食物繊維のような油脂であることが判明しました。通常の食用油とは異なり、アケビ油は肥満症や生活習慣病の予防に大変有効であるといえます。

アケビ種子抽出油脂研究会 代表 池本 敦

アケビ種子抽出油脂研究会 代表 
秋田大学教育文化学部生活者科学講座助教授

池本 敦
 日本では食生活の欧米化に伴って脂質摂取量が増大し、肥満や生活習慣病が増加しました。これらを背景に、花王(株)の健康エコナに代表される、健康志向の食用油が開発されてきました。ジアシルグリセロールが主成分で、「体に脂肪がつきにくい油」として特定保健用食品に認定され、年間売上が約300億円と大ヒット商品となっています。アケビ油には健康エコナ以上の効果が期待できますが、事業化に当たっては課題が山積みです。天然アケビでは量的に不十分で、コストも菜種や大豆にはかないません。しかし、これらの現状は逆に新規事業のチャンスにもなると考えています。アケビを栽培化できれば地域農業振興にも役立つはずです。
 平成17年度より、秋田大学と西木村総合公社、仙北市農林課、地元農家や食品加工会社が共同で研究会を組織し、あきた企業活性化センターの支援を受けながら活動を開始しました。仙北市農林課を中心に農家を募集し、アケビ栽培を開始しています。一方で、事業としての採算を考えると、種から食用油を製造するだけでなく、残った果実や果皮の加工食品としての利用を拡大してくことが重要な課題になってくることが分かりました。これらについても研究を進めています。
 本研究会はこのような事業に特化していますが、地方自治体の立場からの地域振興や伝統文化の継承、農業振興による団塊世代の高齢者労働力の活用、大学の研究成果の活用と食品加工会社との連携、食育・地産地消や健康増進などの様々な課題があり、参加者が共通目標に向かって活動しています。まだ小さな活動ですが、ひとつの有用な素材を多くの関係者の協力によってゼロから事業化して地域活性化に貢献するモデルケースになると考えており、成功事例になれるよう着実に活動していきたいと思います。