昨年11月、樺細工製造卸の有限会社冨岡商店が、仙北市角館町に『アート&クラフトかづき』をオープンし、「和」のクラフト好きの注目を集めている。和風で瀟洒な佇まいの店舗は、武家屋敷通りから小路を少し入ったところにあり、少々分かりづらいが、見つけた時は、探し求めていた宝物を発見したかのように心躍る。
当店では、樺細工をはじめ、川連漆器や大館曲げわっぱなど秋田の伝統的工芸品のほか、あけびつる細工や南部鉄器、ガラス細工など、北東北を中心とした全国の優れたクラフト、中でも、なかなか入手の難しい逸品を取り揃えている。特に力を入れているのが当社オリジナルの製品で、外側が漆細工で中が樺細工という、川連漆器と樺細工のコラボレーションを実現した茶筒、樺細工のカバンや掛時計のフレームなど、馴染み深い樺細工でありながら斬新なデザインのものが多く、新鮮な驚きを感じる。「既存のデザインも大事に、そして同時に伝統的工芸品に興味を持ってもらえるよう、樺細工の概念を覆すような新しいデザインもどんどん生み出していきたい」と、自身も作り手である冨岡専務は意気込む。また、県外のクラフトは、専務自ら全国各地を歩いて探し、自社製品と同じように斬新かつ伝統の技を感じさせるものを仕入れている。
こうしたこだわりと地道な努力が実を結び、「ここにしかないもの」を求め来店する人が増え、一度購入した人はほぼリピーターになるという。中には隣県から週に3回も通う人もいるらしい。「お客様との会話を大切にしています。お客様との会話が新しいアイデアを生み出すヒントになることが多いのです。お客様と一体でないと、新しい良いものはなかなか生まれません」と、作り手と商売人の二つの顔を持つ冨岡専務は、恥ずかしそうに、しかしきっぱりと話す。
当店オープンには、北東北の優れた伝統的工芸品を広める目的のほかに、もうひとつの狙いがある。それは後継者難の問題を解消することだ。現在、伝統的工芸品産業は、その主要工程が手作りで高度の技術習得に長い年月を要するため、後継者が育ちにくい状況となっている。また、『本物』の減少とともに見る目を養う機会も減ってきている。この店の出店によって、伝統工芸士を目指す若き後継者が『本物』を見て目を肥やす機会を得、腕を磨くことは、延いては伝統の継承につながると考えてのことだ。それに、自然にやさしい伝統的工芸品産業の発展は森林の整備にもつながり、循環型社会の形成にも一役買うことになる。
今後は、当店オリジナルのクラフトを全国のギャラリーで紹介したいという冨岡専務。「10年はかかると思いますが」と控えめながら、自信のある様子だ。伝統的技術・技法に裏打ちされた伝統的工芸品は、斬新であってもどこか懐かしい。当店は、改めて日本人であること、伝統の重み、手作りの温かさを思い出させてくれる、そんなステキな場所だ。
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