タイトル-経営さぷりメント
クレームは顧客づくりのチャンス 中小企業診断士 古木 智
●クレーム対応は危機管理の柱
 商品・サービスに対する消費者からのクレームは増加の傾向にあるといわれている。 消費者の目が厳しくなっていることと、製造物責任法や消費者契約法などの消費者保護立法が近年相次ぎ消費者の権利意識が高まっていることなどが背景にあるとみられる。最近は、携帯電話やインターネット掲示板など新たなクレームの伝達・表現手段によるものも増加している。
 企業にとっては、対応を誤れば企業イメージや業績に大きな影響を及ぼすことになる。大きな危機も実は小さなクレームが発端となる場合もある。クレームは危機の発生源でもあり、クレーム対応はいまや企業の危機管理の柱でもある。
※クレーム(Claim)には、「(権利としての)要求」「請求」「(当然の)権利」などの意味がある。これに対して、苦情は商品・サービス、応対などに対する顧客の不満や不快感の表明である。わが国ではクレームは「顧客からの苦情」の意味で使われることが多い。ここでは、両者を合わせてクレームということにする。
●クレームに感謝しよう
 一方で、クレームは、顧客からの「願望」「要望」であり、場合によっては「期待」や「励まし」であることもある。消費者が持つ情報量が格段に増え、期待する品質・サービスなどの水準が高まっているのに、企業の意識・レベルが追いついていない、そのギャップがクレームにつながっている。
 商品・サービスに対する顧客のクレームをひとつひとつ解決していけば、顧客の要望に沿った品質へ着実に向上し、顧客から愛される商品・サービスへと進化させることができる。「期待していたのに裏切られた」という思いを理解して対応すれば、クレームの相手が自社のコアな顧客に変わることもある。厳しい指摘を有り難いと受け止めるか、嫌なものと受け止めるかでは大きな違いがある。クレームは顧客づくりのチャンスである。
●クレーム対応の心構え
 クレーム対応の基本的な流れは下図《クレーム対応の基本的な流れ》のとおりである。クレーム対応の心構えとしては、(1) 顧客の立場や気持ちを理解する。(2) 誠意を持って対応する。(3) 迅速な対応・解決を心がける。(4) 組織的な対応をする(担当者だけで処理しようとしない)。(5) 再発防止策を考える。といったことが上げられるが、誠意+スピードで対応することが最も大切である。
 そして、初期対応の段階では、「顧客の要求」を確認することと、クレーム発生にいたった事実関係をはっきりさせることが重要なポイントとなる。
《クレーム対応の基本的な流れ》
●社内体制と組織風土の確立を
 顧客からの「要望」「要求」に対しては、会社の上層部が関与して迅速的確な対応により早期解決を図ることが重要である。そして、同じクレームを繰り返さないように再発防止策を考えて現場にフィードバックすることが必要である。会社全体の問題として抜本的な対策を考え、実行に移さなければならない。
 トップが参加して組織横断的なクレーム案件を徹底協議する場を定期的に設けることや、トップ直属の対応担当者(チーム)を設けるなど、組織的な対応が求められる。ただし、組織的な対応をするにしても、現場で発生したクレームが組織やトップに伝わらなければ意味がない。現場で起こっているクレームやトラブルがキチンと報告され組織の中でトップにまで伝わる仕組みづくりが必要である。そのためには、クレームをマイナス評価にしないことが大事である。クレームをマイナス評価にすると隠したり報告しなくなる。クレームを組織の共通資産と認識し、報告しなければペナルティを課すという意識の転換が必要である。改善策を社内に周知徹底し、改善成果を上げた社員や部門を表彰する制度の構築も改善効果を高める方策となる。

 近年の数々の企業不祥事件をみると、クレームを軽視したことがひとつの要因となっている。 「顧客第一主義」「顧客中心主義」を掲げる企業が多いが、建前だけに終わっていないか改めて考えてみる必要がある。最近では、CSR(企業の社会的責任)、コンプライアンス(法令遵守)といったことも求められてきている。これらを実践していく上で、企業のトップがこだわりを持つことが重要な要素となる。
 クレームは危機管理の端緒であるとともに顧客づくりのチャンスであることを意識し、日頃からトップをはじめ社員ひとりひとりが顧客のちょっとしたクレームにも敏感に反応し、企業にとって大切な情報であると感じる気持ちを持つことが重要である。 クレームに限らず、日頃から「報告」「連絡」「相談」(ホウレンソウ)の徹底が図られ、情報が迅速にトップまで伝わる風土の会社は顧客に愛される企業となることであろう。