タイトル-ITコラム
IT購入時点で整理すること 〜車と注文住宅を買う時に同じやり方でいいのでしょうか〜 有限会社ASTコンサルタント ITコーディネータ 大澤  昌

 平成18年度のITコラムのテーマを振り返ってみると、ITを活用するためのポイントやIT経営の必要性が多く述べられておりました。今回は、ITを調達(購入)するということを異なる視点から考えてみようと思っています。

ホームセンターで電動ドリルを購入する

 ホームセンターで電動ドリルを探している人がいるとします。その人は何を買いに来ているのでしょうか?当然のことながら買っていく物は電動ドリルです。ただし、その人が欲しいのは電動ドリル本体ではなく、「電動ドリルで空く穴」が必要だと考えているはずです。鉱山で使うのであれば、岩石に発破を入れる穴が欲しいし、建設現場で使うのであれば、ボルト止めの穴が欲しいと考えているはずです。いくら高性能・高品質であっても、0.5mmの穴を空けるために150mmまで対応できる電動ドリルは必要ないことは明確です。

自動車を購入する

 自動車を購入する場合には、メーカーや車種、型式、予算等でおおよその絞り込みができるので、全メーカーの全車種から選定を始める必要は無いかと考えます。好きなブランドやスタイル、要求したい性能を特定するとある程度の車種は絞り込めます。検討段階ではグレードや装備の検討はしますが、エンジンが付いているか、ハンドルは有るか、走るのか、曲がるのか、止まるのかという検討は必要ありません。
 前提として、自動車は走って、曲がって、止まるという基本機能を有しています。また、四角いタイヤの自動車が欲しいと思う人がいるとします。この場合は、どんなに本人が納得しようとも、その要求は受け入れられません。どうしても欲しい場合は、自分で作るしかありませんが自動車としての役割を果たせることはないでしょう。

料理を作るために必要な物を購入する

 今日の夕飯のカレーのために必要なものを購入しましょう。一般的にはカレーを作るために必要な食材をスーパーに買いに行きます。前提として、家にはガスまたは電気があり、コンロがあり、鍋や包丁などの調理器具がある場合は、スーパーに行くだけで足ります。ここで、その前提を変えて、キャンプ場でカレーを作ることにします。まずは火をどうするか考えます。薪や炭にするのか、カセットコンロにするのか、ガス管をどこから引いてくるのかで労力やコストが変わります。
 調理器具に関してもナイフと鍋だけで作るのか、その他調理器具一式を調達するのかで労力やコスト、さらに後片づけにまで影響を与えます。 前提条件を変えることで同じことをするにしても、労力やコストに多大な影響を与えることとなります。

注文住宅を購入する

 注文住宅を購入する場合は、業者選定→設計→基礎工事→木工事→内装工事→設備工事→外構工事→完成・引き渡しのような工程があります。「5LDKで白い壁の出窓がある家」という要求に対して、出来上がる家のイメージは十人十色で、施工業者によって完成品が異なることは想像できます。設計図面である程度の合意ができたとしても、施工業者の見え方と初めて家を建てる発注者の見え方は異なります。紙のイメージと出来上がった住宅にギャップがあると、当然直しの要求が出るはずです。見えない基礎部分や柱、梁に対する変更要求は無いにしても、建具や浴槽、キッチンなど目に見える部分の変更要求は出てくるようです。
 内装、設備工事の段階で大幅な変更があった場合に、木工事や基礎工事まで遡って変更しなければならないとすると、誰かがコスト負担して直さなければならなくなります。そのようにならないために要求を明確にして完成型をイメージすることが重要になります。

ITシステムを購入する

 ITシステムを購入する場合には、ITシステムに何を求めるかを明確にする必要があります。パソコンやサーバー機器が必要なのではなく、それらで実現する経営に与える効果を購入することが重要です。ITシステムは、車のように基本機能の標準化が進んでいませんので購入者側の判断が必要になります。さらにITシステムが動く環境や範囲が不明確であれば、導入しても稼働しないおそれもありますので、稼働環境や利用者、既存システムや設備との連携などの前提条件を明確にする必要があります。前提条件が明確になった時点で購入するITシステムの要求を明確にして、本稼働間際になってシステム範囲や仕様変更が無いようにする必要があります。

 要求を明確にしないままITシステムを調達することは、発注者にも受注者にも不幸な結果をもたらします。政府では「上げ潮政策」を執り経済成長を進めていくことを目指しています。ITは経営に大きなインパクトを与えることは実証されていますが、その陰で多くの失敗があるのも事実です。
 ITシステムの導入に失敗しないよう、購入前に「目的」、「前提条件」、「要求」を整理してみることが大切です。