経営探訪

▲(左から)
発芽玄米酒、GABAPower、
たっぷりぶどうGABAリキュール
社名:秋田銘醸株式会社
所在地〈本社〉:
〒012-0814
湯沢市大工町4-23
TEL.0183-73-3161
FAX.018-886-3062
HPアドレス
http://www.ranman.co.jp/

酒の国、あきた。日本酒の消費量が年々減少する中、県内の日本酒メーカーもそれぞれ独自の経営改革、商品開発に取り組んでいる。新たな成分を研究し商品化に繋げた、秋田銘醸株式会社代表取締役社長京野勉氏にお話を伺った。

爛漫が作ったGABA

 秋田銘醸(株)は、大正11年創業の酒造メーカー。全国的に知られる「爛漫」ブランドを掲げ、現在まで秋田の日本酒業界を牽引してきた。創業当時から「秋田の酒を県外に売る」ことを意識し、早くから設備を近代化し秋田の酒の量産を続けてきたという。
 酒を仕込む工程のうち、まず最初に行うのが精米である。同社では、玄米から酒づくりに余分な部分を排除するこの精米作業のほとんどを自社の設備で行っているが、この際大量に発生するのが“米糠”である。同社の研究で、近年注目を集めている健康成分、γ−アミノ酪酸(Gamma-Amino Butyric Acid 略称:GABA)がこの米糠に含まれていることが分かった。ギャバは、もともと生物の脳や脊髄に存在するアミノ酸の一種で、主に抑制性の神経伝達物質として機能しているといわれるもの。血圧上昇抑制や精神安定に作用することが確認されているそうだ。
 同社では、秋田県農林水産技術センター食品総合研究所と共同研究を行い、米糠に含まれるギャバを日本酒の生産で培った発酵技術を活用した乳酸発酵で抽出し、高濃度のギャバを含む米糠発酵液の開発に成功。食品素材「爛漫ギャバ液GBX」として商品化するに至った。
 さらに、この「爛漫ギャバ液GBX」を添加した発芽玄米を原料として、通常の発芽玄米の約2倍(100gあたり40mg)のギャバを含む「発芽玄米酒」を商品化。ワインのような飲みやすい風味が日本酒党以外の方に評判を呼んでいる。続けて、ぶどう果汁にこのギャバ液を合わせたノンアルコール濃縮ぶどうジュース「GABA Power」、ぶどうで作ったリキュールに合わせた「たっぷりぶどうGABAリキュール」を商品化し、販売している。いずれも、ギャバの機能を手軽に摂れる形に商品化したもので、いままでとは違った客層にアピールできている。
 また、「爛漫ギャバ液GBX」を食品素材として、今まで清酒販売では交流のなかった秋田県内の食品企業を中心に販売。ギャバ含有の製品化による異業種企業同士のコラボレーションが生まれた。さらに、湯沢市小中学校の学校給食にギャバ入りパンが導入され、そのリラックス効果によって、キレ易いといわれる現代の子供達のすこやかな成長を期待しているところだそうだ。

環境負荷を考える

「日本酒の生産販売だけでは厳しい状況の中、新しい価値を持つ商品開発の必要性は以前から感じていました。GABAという成分を活用し、消費者の健康志向に応えることができる日本酒メーカーならではの機能性食品が開発できました」と京野社長は話す。なにより、日本酒の生産過程で必ず発生する米糠(玄米外側から15%部分)を活用できたことが大きな収穫だという。同社では、このほかにも、米粉を原料とした焼酎の生産販売を行うなど、今ある素材から新しい価値を創造する取り組みを進めており、コストや環境の面でも効果が期待されている。
 商品開発を担当する製造部主任研究員の大友理宣さんは「いままで廃棄するしかなかったものの、新しい利活用の方法を見いだすことができれば、環境負荷の低減にもつながります。日本酒をつくるうえで、そのまま捨てるものがないというくらい副産物の活用をすすめ、環境循環型社会を形成する一部になれれば」と話してくれた。

小さな改善の積み重ね

 この大友さんの発想は、実は京野社長の経営に通じるものがある。「あるものを使わないと。社員を簡単に減らせません。なら、使い方を変える。今までお金をかけて他に頼んでいた仕事を自社の社員でやるように業務改善したり、管理業務を見直して前日までの営業利益を把握できるようにし、社員がその数字を意識するようにしました。自分の会社がどんな状況にあるのか、その為に自分は何をしなければいけないのか、社員が考えるようになり、残業や光熱水費の削減など徐々にその効果が現われているところです」。
 また、約8年前から「美酒倶楽部」という顧客のファンクラブを作り、季節毎に酒造りの状況を伝える会報誌や新商品情報のダイレクトメールを送付し、直接注文にも対応している。4000件を超える顧客の、生の反応を知ることができるようになったそうだ。「卸に売ればいいという時代もありましたが、今は売りっぱなしでは良くない。品質を維持することはもちろん、いろいろな要望に応えることが大事です」。

日本酒メーカーとして

「経営が多角化しても、本業はおろそかにしません。毎年、多くの品評会で最高位の賞をいただいています」という社長。同社が酒造りを行う雄勝蔵と御嶽蔵。コンピュータ管理の設備を有する御嶽蔵では、9月から翌5月まで休みなく仕込みが行われている。オートメーション化された風景を想像しがちだが、実際は職人の長年の経験に基づく判断によって作業がすすんでおり、6人もの杜氏資格者が工程を分担し目を光らせている。大量生産するからこそ、品質、味の保持に一層気が抜けないのだという。
 伝統の酒造りを守りながら、真摯に新分野に挑戦している秋田銘醸。平成18年度には(財)あきた企業活性化センターの「産学官技術開発促進事業」の補助対象事業に採択され、ギャバの更なる機能性について研究が進められた。機能性食品として、さらに新しい可能性が発見できるなど大きな収穫が得られたそうだ。今後一層、環境と人に優しい、価値ある商品づくりに期待したい。

(2007年5月 vol.310)