経営探訪
大きい・小さい・面倒臭いを迅速に!一歩先行く職人集団を目指す。
三共光学工業株式会社 代表取締役社長 萩原達俊

社名:三共光学工業株式会社
本社:〒116-0012
東京都荒川区東尾久5-20-3
TEL.03-3893-9541
FAX.03-3893-9544
秋田事業所:〒019-1302
仙北郡美郷町金沢字長岡森8-8
TEL.0182-37-2180
FAX.0182-37-2174
URL:http://www.sankyou-kogaku.co.jp/

 光学機器用レンズを作り続けて今年で78年目を迎え、ニーズは映像用・産業用から宇宙開発分野まで、多岐に亘っている。レンズは人間で言えば“目”であり、その精度は非常に重要である。その重要な“目”ともいえるレンズづくりがきっかけとなって、この度、三共光学工業(株)が宇宙航空研究開発機構(JAXA)から感謝状を授与された。
 レンズづくりに対する考えについて代表取締役社長 萩原達俊氏にお話を伺った。

「大きい・小さい・面倒臭い」を迅速に!
 三共光学工業(株)は、1929年3月に光学レンズ研磨を家業として創業、当時は潜水艦等軍用部品などを主に手掛けていた。そして、1967年には秋田県の誘致企業として美郷町に現在の工場を開設し、レンズの大量生産を主力に県内で4箇所の工場を展開した。1990年頃にはコスト削減の要請が厳しく、海外へシフトした企業も多く、同社も取引先から海外シフトの誘いを受けたが、最終的には秋田県内で生産活動を行うことに決めた。
「国内でどのようにしたら生き残れるか、限界のある製造コストの削減に対応するには如何にしたら良いのか、自問自答の繰り返しの中で、コストの低い量産品のほか、『「大きい・小さい・面倒臭い」を迅速に!』をモットーに、ロット数が少なくても付加価値の高い製品を製造する方向への展開を図ってきました。取引先から「この会社でなければ、この製品は出来ない」と言われ、安心して任せてもらうためには、創業以来培ってきた技術力と研究開発力の維持・継承が最大の課題となります。そこで当社では最新の検査機器による厳しい検査・品質管理によりノウハウを蓄積するとともに、職人となるべき人材の育成に力を入れています」。
 

この太陽観測衛星「ひので」は、@11年周期で変動する磁場の生成・消滅の解明A太陽磁場の変動のメカニズムと総放射量の変動の相関を調査B磁気リコネクションや波動エネルギーの散逸現象の研究C太陽大気中の磁場分布や電流分布、速度分布の精密な観測により、太陽での爆発原因の調査活動を行っている。同社の製作した補正レンズを搭載した可視光磁場望遠鏡では、人間の目で見える波長で高空間分解能の撮影を行い、太陽大気の様子を観測している。
※「ひので」及び観測写真は国立天文台及び宇宙航空研究開発機構からの提供です。

試験中の可視光磁場望遠鏡(国立天文台クリーンルーム)
 
高精度なレンズへのチャレンジ!
 昨年の9月23日、日本・アメリカ・イギリスにより共同開発された太陽観測衛星「ひので(SOLAR-B)」が、内之浦宇宙空間観測所(鹿児島県)から打ち上げられた。この「ひので」には可視光磁場望遠鏡、X線望遠鏡、極端紫外線撮像分光装置の3種類の望遠鏡が搭載されており、そのうち宇宙航空研究開発機構(JAXA)と国立天文台がアメリカ航空宇宙局(NASA)と共同で製作した可視光磁場望遠鏡の中に、同社で製作した補正レンズが使用された。
 当初、国立天文台で可視光磁場望遠鏡を組み立てた際、「非点収差」(レンズを通った光が、完全に1点に集まらないこと)や「歪曲」(直線が曲線となって写るレンズの収差のこと)の発生により、鮮明な観測が出来ない状態だったそうだ。そこで、国立天文台が「非点収差」、「歪曲」を補正するためのレンズについて、以前からの協力関係にあった光学システム開発企業の(株)ジェネシア(東京都)に相談したところ、「秋田県にある三共光学工業(株)だったら絶対に出来る」と太鼓判を押して推薦してくれたということだ。
 「2004年3月、(株)ジェネシアから仕様書を見せられたとき、技術的にかなり厳しいものであったため思案しましたが、『「大きい・小さい・面倒臭い」を迅速に!』をモットーとしている当社としては、創業以来培ってきたノウハウを活かし、チャレンジを決意しました。そして試行錯誤の結果、2004年7月にレンズを完成させ、納品することが出来ました。この時点においても、このレンズが何に使用されるかは解らないままでの納品でしたが」、と萩原社長は言う。
 その後、2007年5月に宇宙航空研究開発機構から感謝状を授与され、初めて、3年前に作ったものが人工衛星に使用されたことを知った。
 「太陽観測衛星「ひので」プロジェクトにほんの僅か一部分ですが参加することができ、宇宙航空研究開発機構から感謝状を頂いたことは、当社の技術力の確かさが世界的に認められたことの証明であり、今後への大きな弾みになると共に、社員全員への励みになりました」と、萩原社長は感謝状を授与された心境を語ってくれた。
(2007年7月 vol.312)