経営探訪
なんでも屋は好きじゃないから専門特化。そのためには常にチャレンジしていく。
東光鉄工株式会社 代表取締役 虻川東雄(あぶかわさきお)



社名:東光鉄工株式会社
本社:
〒017-0012
大館市釈迦内字稲荷山下19-1
TEL.0186-48-3234
FAX.0186-48-5922
URL http://www.toko-akita.co.jp/

 南極の昭和基地に曲げ加工された大型デッキプレートによるドーム式保管庫等として3棟が採用され、その製品の加工技術では平成19年度の「元気なモノ作り中小企業300社」と「第2回ものづくり日本大賞」に選ばれた東光鉄工株式会社。関連グループ10社とともに東光グループ全体を統率するほか、大館商工会議所会頭としても多忙を極める虻川東雄氏にお話を伺った。

鉱山への製品納入技術が今日の礎
 創業は、父の東吉が東京都亀戸の地で東光製作所を開業した1938年に遡ります。1944年に大館市に疎開して以来今日まで続いているわけです。大館では鉱山向けの機械加工から出発し、その後、(資)東光商会を設立して建設資材や機械設備を納入しておりました。更に鉱山向けの鉄枠の加工・納入部門を分社化して東光鉄工(株)としたのです。
 当社は鉱山への製品納入という業務の中で技術革新を続けたお陰で今日に至り、鉱山関連の技術で育ってきたと言えます。例えば、今回の受賞対象となった曲げ加工された大型デッキプレートによるドーム製作技術などは、鉱山の坑道を保持する坑枠を製作する際の曲げ技術が元になっています。
 この技術は、道路などのトンネル工事で使われる支保工の製作にも生かされ、東北地区ではそのシェアの半分近くを占めるまでになっています。また、鉱石を砕く技術は採石場のプラント製造に生かされましたし、鉱滓を水処理する技術は上下水道の処理設備に通じています。
 このように、技術が時代の要請の中で必然的に革新され、大きな事業の柱として成長することが出来たのです。当初は事業部制を布いていたのですが、それぞれの製造・販売部門が大きなウエイトを持つようになったので、それぞれが専門特化し責任を持った経営を出来るようにと分社化したわけです。私は、“なんでも屋”は好きではないんです。あくまでも得意分野に特化した結果です。
 また、この分社化は、社員教育の成果とも言えます。当社では、人材育成に力を入れ、特に、社員の資格・ライセンスの取得を積極的に奨励しています。このことが、グループ各社が水準の高い分野に進出する際の原動力にもなると考えたからで、事実その通りでした。
 グループの中では、最近、コンピューター部門である東光コンピュータ.サービス(株)と金型を製造する東光精密(株)の業績が伸びております。
 東光コンピュータ.サービスでは、医療関連や自治体向けのシステムなど広範な分野のシステム開発を行っています。個人情報を扱う上ではコンプライアンスの遵守が大切ですが、このための(財)日本情報処理開発協会認定の適合証明書であるプライバシーマーク(PM)※を、2006年に改正された新JIS規格を秋田県第1号でクリアし取得しています。第1号を取ろうとする社員がすばらしいですね。
 また、IT製品向けの金型を専門に製造する東光精密(株)は、金型のみを専門に製造するので珍しい経営かと思います。弱電向けのフィルム粘着材抜き用を主力に頑張っていますので、今後の一層の飛躍が期待できると思います。
※プライバシーマーク制度とは、(財)日本情報処理開発協会(JIPDEC)が1998年より行っている個人情報保護に関する事業者認定制度。2005年4月の「個人情報保護に関する法律」施行に伴い要求事項がJIS Q 15001:2006「個人情報保護に関するマネジメントシステム−要求事項」(新JIS)に改正された。
ベンディングマシン曲げ作業

グループ経営では情報の共有化が必然
 グループ各社には、それぞれの経営方針書を責任を持って作らせていますが、これが大切です。個々の会社が強烈な個性を持って活動することに繋がるからです。
 また、情報の共有化が必然ですね。毎週月曜日の午前中にグループ各社の代表者が一堂に会して情報交換を行っています。更に、月1回はグループとしての経営会議を開催し、業績の検討や重要事項の意志決定などを行っています。グループ全体の取締役会に匹敵するものとお考えいただけば良いと思います。もともと関連事業部門を分社化したのですから、各社の事業展開にはグループ内で相互に補完対応できる案件が少なくないのです。どんな営業案件に対してもグループが一丸となって支援体制をとれることが強みになります。
 ところで、業績が拡大し社会に対する影響も大きくなり、グループとしても経営の透明性、コンプライアンスの遵守がより重要になってきています。そのため、有言実行型のガラス張り経営を行うように努めています。四半期毎の業績内容等の発表会や、年に1回のお得意先企業や仕入れ先企業、金融機関や行政関係者を招いての経営方針発表会の実施は欠かせないものになっています。

みんなで一緒に頑張っていきたい
 前述したように「ものづくり日本大賞」をいただいたわけですが、この受賞では10年以上も前の実績・成果で貰ったというところに面がゆいものを感じます。しかし、大変名誉なことであると思っています。県内企業には是非次に続くよう頑張ってもらいたいと思います。技術を生むことは簡単であるとも言えますし、県内企業にはそれなりの技術があります。難しいのは、その技術を応用し事業として育てることです。当グループとして応援できる面がありましたらどんどん応援したいですね。
 また、大館商工会議所会頭としても県北地区経済の底上げが重要と考えていますが、そのためには1社1社の活性化が課題と思っています。行政にも「育てる」という視点での施策の展開を望みたいです。
 グループ各社の経営では、「高い生産性」「広い社会性」「深い人間性」のある企業でありたいと思い、地域貢献や社員の福利厚生の充実にも力を入れて頑張っておりますが、肝心の「高い生産性」がなかなか実現しがたいところです。これは、グループ企業各社に共通することなのですが、下請けの受注がまだまだ多いことによります。元請比率を高めることが大切で、そのためには自社独自製品の開発などに一層取り組める体質改善が必要です。当グループも頑張ります。行政や(財)あきた企業活性化センターには、これまで同様に側面から援助をお願いしたいと思います。
(2007年9月 vol.314)