経営探訪
秋田の“ひと”がつくる、世界水準の産業印刷機
株式会社ミヤコシ 株式会社宮腰デジタルシステムズ
宮腰精機株式会社 代表取締役社長 宮腰 巖

社名:株式会社ミヤコシ
本社:
〒275-0016
千葉県習志野市津田沼1-13-5
TEL.047-493-3854
FAX.047-493-3071
(株)宮腰デジタルシステムズ
〒013-0443
秋田県横手市大雄字高津野 111
TEL.0182-52-3854
FAX.0182-52-3702
宮腰精機(株)
国見工場:
〒019-1605
秋田県大仙市太田町国見字稲荷堂162
TEL.0187-88-1200
FAX.0187-88-2255
刈和野工場:
〒019-2111
秋田県大仙市土川字日渡花立野 3-15
TEL.0187-75-1567
FAX.0187-75-1568
URL:
http://www.miyakoshi.co.jp/

 ミヤコシという会社をご存知だろうか。秋田に開発・製造の拠点であるグループ会社を置くオンデマンド印刷産業機械の大手製造メーカーだ。顧客や市場から期待と需要を受ける最先端の技術者集団を、笑顔で率いる 代表取締役社長 宮腰巖 氏にお話を伺った。

“ひと”がなによりの経営資源
 「こんにちは。」宮腰デジタルシステムズ、宮腰精機の工場、事務室で働く青い作業服の従業員が次々とあいさつをしてくれる。とても気持ちがよく、社長にそれを伝えると、「そう言っていただけると、とても嬉しい。うちは“ひと”が付加価値だから」と笑った。経営のポイントについて伺っても「やはり“ひと”。人づくりですね」と、それからも何度も“ひと”“人材”“人間”という言葉を口にした。
 先代の榮太郎氏が印刷機の修理業を始めたのが昭和21年。巖氏は父の跡を継いで約35年、先頭に立って産業印刷機メーカー、ミヤコシを成長させてきた。「父は皆に慕われ頼られる人で、多くの優秀な人材が当社を支えてくれていました。跡を継いだ私は、経営者としてとても恵まれていましたね」と言う。
 「毎朝、全従業員で朝礼を行い、しっかりあいさつ出来るように取り組んでいます。ご家族が『息子がおはようって言うようになった』と喜んでくれたこともありました。私は、どんな人が作っている製品か、ということも商品のうちだと思っています。秋田の人たち(従業員)は本当によくやってくれて、立派なんですよ」。臆することなく社員を褒める言葉に自信が感じられる。技術者としての育成については、常に最新の技術・知識を維持し独自製品を開発するための研修や、技術者同士の定例勉強会、より深い経験とノウハウ習得のためのセル生産方式、部門間の活発な人材交流、費用対効果の意識を高めるCC50(コストカット50パーセント)活動など、多能工の育成を目指した取組と工夫の数々を実践している。


世界に羽ばたく“ミヤコシ”ブランド
 ミヤコシの製品は大きく分けて三つある。
 一つは、業界で長く主流となっている輪転フォーム印刷機。部品はグループの刈和野工場を中心にその他協力企業などから調達、主に国見工場で組立て、電気設備を取り付け完成・納品している。オプションとして、倍の作業を可能にするステップバック機能を独自開発し、現在、特許申請中である。
 二つ目は、主に宮腰デジタルシステムズで部品加工から組立・完成・納品までを行っているデジタルインクジェット印刷機。工場長曰く「水と空気以外、何にでも印刷できる」というミヤコシの高性能インクジェット印刷機は、世界最速の印刷速度を誇るラインナップ。高いものでは一台4億円、月に1〜2台の生産という一件一件が非常に大きい仕事だ。
 印刷機の良し悪しを決めるのは、印刷物の印刷品質と、スピード、損紙の少なさだそうだ。すべて世界最高レベルと評価されるミヤコシの仕事は、世界各国から取引先を集めていて、ここ数年は特に東南アジアからの発注が増加している。なにより、設計開発から始まり部品加工・組立・完成、アフターサービスまでの全てを秋田の工場で行っているということに注目したい。全ての部品がメイドインミヤコシの産業印刷機を秋田から世界へ。「自分たちの地元である秋田から、自分たちが作った印刷機が世界へと出荷される。このことを社員は大変誇りに思ってくれている」。
 同社は、生産製品の品質維持と同時に、アフターフォローにも力を入れ、製品を熟知した製造現場の社員を、納品やメンテナンスに積極的に参加させている。より良い製品とサービスの提供を追求する社長は「印刷機械のコンビニエンスストアでありたい」と考えている。

常に新しいことを求め、開発を続ける
 三つ目の製品は、現在開発中の電子写真印刷機。感光ドラムの巨大化・高速化により超高精度の産業印刷を実現する次世代の印刷機は、ドイツで来春開催される大規模な展示会に合わせた商品化に向け、現在調整中で、頼もしいことに、「すでに海外から発注予約が入っている」ということだ。
 この電子印刷機のほかにも、常に新しい製品や技術の開発を続けている同社。蓄積したノウハウを産業印刷機以外の分野にも広げようと様々な分野に挑戦し、すでに実績を上げているものもある。「通常の生産:新しい開発=6:4くらいのバランスが理想ですね。実際は、お陰様で通常の生産が忙しく、7:3くらいになっていますが、これまでも絶えず続けてきた開発に、もう少し力を入れ、通常の生産との相乗効果を高めていきたいです」。

愛される社員、愛される社長
“製品”と“ひと”を育てる社長と、自分たちの仕事に誇りを持つ社員。世界水準のモノ作りを追求する社長のマインドは、社内ネットワーク内の掲示板で発信され、千葉の本社からも、すぐ隣の部屋にいるのと変わらずリアルタイムで全社員に社長自身の言葉で伝えられる。「社員がより幸せになるために」、を大切にする社長。その志と人柄は社員の信頼を集め、秋田に来るたび社員が一緒にお酒を飲むのを楽しみにしているほど。「私も元は技術者ですから、技術者同士気が置けないというか、距離を感じずに話せていると感じます。嬉しいことだよね」。
「夢は広がりますね。ミヤコシの製品を世界中で使っていただきたい」。世界水準の製品を世界に送りながら、ほとんどが地元採用という秋田の社員を大切に思う、このバランス感覚が宮腰社長が人を惹きつける理由のようだ。
 業界への功績が評価され、宮腰社長は、(社)日本印刷産業機械工業会の創立70周年記念表彰で、経済産業大臣表彰を受けている。
(2007年11月 vol.316)