特集1 株式公開企業創出セミナー開催報告
 財団法人あきた企業活性化センターでは、県内企業の株式公開(IPO)を支援する取り組みの一つとして、平成19年10月12日(金)、秋田市において「株式公開企業創出セミナー」を開催しました。その概要をご紹介いたします。援

第一部
講演『我が社がIPOを実現するまで』〜Nice Day, Nice Dream〜
講  師:エヌ・デーソフトウェア株式会社
     代表取締役社長 佐藤廣志 氏
企業概要:山形県南陽市漆山1306-7
     TEL.0238-47-3483
     FAX.0238-47-3506
 昭和51年事業開始。昭和58年、エヌ・デーソフトウェア株式会社となり、介護・福祉・医療分野の業務支援ソフトウェアの開発・販売・運用・保守を通して誰もが健康で豊かに暮らせる社会の実現に貢献できるよう努めている。平成18年2月ジャスダック市場に山形県から9社目となる上場を果たした。資本金6億8775万円、従業員数単体211人、連結248人(H19.3.31現在)。売上高39億1600万円、経常利益7億2100万円(連結H19年3月期)。グループ会社には、株式会社日本ケアコミュニケーションズ(持株比率66.6%)、株式会社ネットウィン(持株比率100%)。

【抜粋・要旨】
 IPOには光の部分と陰の部分があるのではないかと思いますが、手前どもは上場して良かったと思っております。
 個人的には、IPO後、サラリーマン社長になって給料と配当で食べているんだという意識に大きく変わりました。上場後、サッカーJ2リーグ所属のモンテディオ山形ホームグラウンドのネーミングライツを取得したところ(エヌ・デーソフトスタジアム山形)特に山形県内における認知度が高まり、株主の県内比率が高まりました。地元の株主に叱咤激励されながら成長したいという思いがありますので嬉しい結果でした。良いビジネスモデルを持つことが上場への道を大きく開くと思います。ビジネスモデルも、顧客や市場の変化によって次第に陳腐化が進んでしまうので、当社ではこの対策として通常のメンテナンスの他に、最近ではマーケティングフォースの新設とシニア世代の情報ウェブサイト「シニアすまいる」のオープンを実施しております。
 当社の前進である日東電子時代は、主に磁気ヘッドの製造下請けを行っていましたが、経営は厳しく、「下請けから脱却し、自社開発・自社販売を目指し全国市場で勝負しよう」という願望を持ったときIPOを意識し始めました。2000年の介護保険制度を契機に具体的な準備を始め、各専門家による助言によって願望が明確化し、独自のビジネスモデルを確立させることができ、IPOの準備を進めることができました。
 東北地域の人には、一生懸命真面目に考えて諦めずに頑張れる性質があると思います。それが私たちの強みですし、それに合ったビジネスをやるべきではないかなと考えています。上場すると、売り上げを定期的に公表し、その都度マーケットの敏感な反応に晒されるので、将来を見据え、足下をよりしっかりとさせなければいけません。また、外部評価がより一層重要となってきます。当社は今年度、業界紙の「居宅介護支援事業所アンケート ソフト編」で、「ほのぼの」シリーズが顧客満足度調査全国1位という結果をいただきました。コールセンターやアフターサービスなどの職員のきめ細かくねばり強い対応がこの結果につながったと思っており、これこそ東北の県民性によるものと考えております。
 秋田の企業にもIPOを実現していただきたい。社員の士気も上がり、いい人材も集まり、より良い事業が可能になります。1社でも多く、IPOを目指し実現する企業が生まれますことを期待したいと思います。どうもありがとうございました。
当社にとっての上場とは?
〈当初の上場目的〉
・知名度アップ
・優秀な人材の確保
・資金調達手段の多様化
〈結果として〉
・知名度アップ
・優秀な人材の確保
・資金調達手段の多様化
・社員のモチベーションのアップ
・質量ともに豊富な情報が集まるようになった
〈上場後の感想〉
●ビジネスモデルの重要性
 〜地方の差は経営能力、技術力の差ではない〜
 独自性を持った企業はどこにいても上場できる
●適時開示のための内部統制の確立
●社会の公器たる存在としての責任(CSRなど)

第二部
パネルディスカッション『企業の成長・発展とIPOについて』
パネラー
●エヌ・デーソフトウェア株式会社
 代表取締役社長 佐藤廣志
●株式会社ソユー
 代表取締役社長 今野 創
●株式会社秋田銀行
 営業本部営業支援部 主査 野中健吾
●野村證券株式会社
 仙台支店企業金融課 課長 上野伸二
●大和証券株式会社
 秋田支店法人課 上席次長 相澤広隆
コーディネータ
●監査法人トーマツ
 パートナー・公認会計士 谷藤雅俊
【抜粋・要旨】
谷藤
   
さっそく、『企業の成長・発展とIPOについて』上野さんはいかがお考えでしょうか。
上野
 
儲かる仕組みをいかに構築していくかというビジネスモデルを作ることがIPOを目指す基本でもあります。企業のどの成長段階においても、経営者が企業の実情を把握し、組織で方針を共有することが重要で、その手段としてもIPOは有効な選択の一つではないかと思います。
谷藤
 
企業の成長段階ごとに、マザーズ、ジャスダック、2部、1部への上場という選択ができますね。
今野
 
我が社は、約14年前、大型アミューズメント施設の企画・運営を成功させたことをきっかけに大きな仕事が入るようになり、オペレーター業務をメインに全国へ出店するようになりました。平成12年にあきた21企業育成プロジェクト事業に採択され、本社移転、平成14年に東京本部開設し、今では業界第10位にまでなりました。今後、IPOが我が社の3つめのターニングポイントになるのではないかと思います。
谷藤
 
そもそもIPOとはどういうことなのでしょうか。
相澤
 
IPOはInitial Public Offeringの略で、会社の株式を不特定多数の人の前に市場公開することです。上場には一定の要件がありますのでこれをクリアすることが必要です。支配証券、物的証券、利潤証券という証券の3つの側面のうち、市場での評価は利潤証券の動きといえるのではないでしょうか。
谷藤
 
ライフサイクルが終わりかけの分野に取り組んでいる、競合他社が多すぎて成長が見込めないといった企業はIPOは望めない。事業を把握しビジネスモデルを見直し、数字で裏付ける必要があります。儲かる仕組みをもっと儲かる仕組みにしていくことが上場準備といえるのではないでしょうか。佐藤社長、IPOのメリット、デメリットの本音をお聞かせ願えないでしょうか。
佐藤
 
我々ソフトウェア業界は、担保も少ないような業界ですから、IPOを実現する効果が非常に大きい。知名度、信用度アップ、人材確保がしやすくなる、資金調達しやすい。デメリットは、膨大な資料の作成や情報開示責任など、情報の扱いの煩雑化・高度化などのほか、経営者が公に晒されるということもあります。
谷藤
 
社員にとってのメリットはどうでしょう。
野中
 
上場企業にお勤めということは、社会的信用力になります。IPOが従業員の方々の幸せにつながる要素は十分にあると思います。
谷藤
 
労働環境も間違いなく向上していますね。株主という厳しい目があることで、経営者が替わっても企業や事業がずっと継続していくことは素晴らしいですよね。
相澤
 
一概には言えませんが、IPOは最終目標ではありませんから、将来の青写真が見えていて、それに向けた飛躍のためにIPOという手段が出てくればいいかと思います。
上野
 
上場企業4000社の中から投資家に選ばれるポイントがないと、IPOを果たしても効果が得られないということもあります。ノウハウばかり追うのではなく、自社の現状を把握しIPOが自社のメリットになるか冷静に把握したほうがいいと思います。
今野
 
我が社は未だ社内体制を整備している現状ですが、全国で商売しておりますと、「秋田の企業がちゃんと仕事できるのですか」と言われることもありますので、上場していると非常に強い武器になるなと思います。
谷藤
 
野中さん、秋田県の企業と経営者を地元の金融機関としてどのようにご覧になっているでしょうか。
野中
 
県内の経営者の方々、大変なリーダーシップを持っていて人間的にも魅力的な方が多いと感じます。一方で奥ゆかしい方が多く、それが不利になっているように感じることもありますね。
谷藤
 
東北特有の風土としては、官民一体。山形県でここ数年上場が相次いでいるというのは、10年以上前からの官民一体となった取組の成果だと思います。ISOでは、複数の企業が集まり、みんなで頑張って取得を目指すという動きもありますから、IPOも同じようなことができればいいですね。
上野
 
投資家は全国、世界にいます。世界レベルの企業が地方にあると、地元企業の引き上げ役となるというようなことも期待できるのではないでしょうか。また、支援する側もより高い視点を持つことが重要ではないかと思います。
相澤
 
昨年上場した企業の8割以上は東京・大阪・名古屋の企業ですから、秋田だけでなく全国的に同じような現状なのです。秋田の皆さんは、奥ゆかしい県民性を乗り越えて積極的に動いて欲しいです。証券会社も積極的に支援します。
谷藤
 
昭和36年に、東北ではどこも単独開催できなかった国体を、民泊という起死回生のアイディアで秋田が成功させましたよね。つらいときこそ、この起死回生策を打てるようになれば、秋田の企業はもっと成長できます。そして、従業員、顧客を満足させることができるのです。
 
〈成長のキーポイント〉
@経営理念が会社や各種戦略の創り方に現れていますか?
A今、勝負している事業領域、これから勝負する事業領域は何ですか?
Bターゲット市場や業界の動向を把握して、対応策を講じていますか?
C市場における今のポジションは?競合状況は?対策は?これからの方向性は?
DSWOT(強み、弱み、機会、脅威)分析で課題と対応策を検討し、戦略や戦術に反映させていますか?
E価格・品質(技術)・サービスのどれをメインに勝負しますか?
F何に特徴がありますか?何で差別化してますか?
G何を、誰に、いくらで、どのようにして売るのですか?
Hどのようにして利益を獲得する(どうして利益が出る)のですか?それは「なるほど!」とうならせるような儲かる仕組みになっていますか?
I顧客は、何故?貴社から買うべきなのですか、買わなければならないのですか?
J成長のシナリオとその過程における変革課題は明確ですか?
K次に何をするのですか?私(投資家)は何に期待したらよいのですか?
  
 経営資源でもっとも重要なものはマインドです。強い決意を持って、それを声に出してください。皆様の夢、目標が叶いますよう願いまして、今日のディスカッションを終わらせていただきます。どうもありがとうございました。

(2007年11月 vol.316)

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