タイトル-特集1
事業承継への取組のすすめ
 企業の経営者、事業を管理されている方は、ご自分の引退後をどのように考えていますか? 事業承継は業種や規模に関わらず、どの企業にも当てはまる事項ではないでしょうか。大事に育てた会社や事業を存続させることで、地域社会の雇用や潤いを維持・拡大させることができます。今号の特集1では、中小企業にとって避けて通れない課題である事業承継への取組方をご紹介します。

1 事業承継を取り巻く環境
■従業員規模別社長交代率(2006年)
資料:株式会社帝国データバンク「企業概要データベース」再編加工
出典:中小企業白書 現在、中小企業で行われている事業承継について、2006年度に社長が交代した企業は120万社のうち3.08%と過去最低であったというデータがあります。右側の図は、2001年以降5年間に社長が交代した企業の、後継者の内訳を企業規模別に示したものです。規模が小さいほどこの社長交代率は低いことが分かります。
 小規模企業においては、創業メンバーや親族への承継が約7割を占め、後継者を決めている企業の割合については、規模が小さくなるほど低くなっています。中小企業において事業承継が円滑に行われていない実態が伺えます。

■社長交代企業の社長就任経緯
資料:株式会社帝国データバンク「企業概要データベース」再編加工
(注)1. 2006年末時点のデータと2001年末時点のデータを比較し、社長が交代している企業について社長就任経緯を集計。2. 中規模企業とは、中小企業のうち小規模企業を除いたものを指す。
出典:中小企業白書
2 事業承継への取組を先送りにしていると…
 経営者の高齢化が進む一方、ビジネス形態や家族形態の変化、労働人口の減少などの様々な要因により、後継者の確保は困難になってきています。また、事業承継がうまくいかず紛争化や業績悪化などが生じるケースも多くあります。計画的な事業承継に早期に取り組むことで、それらのリスクを減少させることができるのです。

【計画的な事業承継対策】
やる!
●後継者の経営がスムーズ
●事業は発展
●従業員の雇用確保
●家族円満
●取引先との信頼関係が良好
やらない…
●株式が分散し経営権が他の人へ
●事業が不安定
●従業員の生活が脅かされる
●お家騒動の危険性
●保証や担保の問題で資金繰り悪化
3 事業承継の手順
 事業承継への取組の必要性・重要性を理解し計画づくりをスタートさせる際、まず、現状を認識することが何よりも大事です。ヒト・モノ・カネの現状、経営者自身の希望やライフプラン、後継者候補のリストアップを行いましょう。その上で、最善の承継方法、後継者を選択。次に具体的な事業承継計画を立てていきます。
★事業承継の手順★
 事業承継を円滑に進めるためのステップは、次のように@「事業承継計画の立案」とA「具体的対策の実行」の2つのステップに分かれます。

ステップ@
事業承継計画の立案
事業承継対策の重要性、計画的取組の必要性の理解
現状の把握
@会社の現状(ヒト・モノ・カネ)
A経営者自身の資産等の現状
B後継者候補のリストアップ
承継の方法・後継者の確定
事業承継計画の作成
中長期の経営計画に、事業承継の時期、具体的な対策を盛り込んだもの
ステップA
具体的対策の実行
親族内承継
1.関係者の理解
@事業承継計画の公表
A経営体制の整備
2.後継者教育
@社内での教育
A社外教育・セミナー
3.株式・財産の分配
@株式保有状況の把握
A財産分配方針の決定
B生前贈与の検討
C遺言の活用
D会社法の活用
Eその他手法の検討

従業員等への承継外部から雇い入れ
1.関係者の理解
@事業承継計画の公表
A現経営者の親族の理解
B経営体制の整備
2.後継者教育
@社内での教育
A社外教育・セミナー
3.株式・財産の分配
@後継者への経営権集中
A種類株式の活用
BMBOの検討
4.個人保証・担保の処理

M&A
1.M&Aに対する理解
2.仲介機関への相談
3.会社売却価格の算定と会社の磨きあげ
4.M&Aの実行
5.ポストM&A

	親族内承継	従業員等への承継外部から雇い入れ	M&A
メリット	●内外の関係者から受け入れられやすい●後継者の早期決定、後継者の教育のための長期準備期間を確保することも可能●相続等により財産や株式を後継者に移転できるため、所有と経営の分離を回避できる可能性が高い	●会社の内外から広く候補者を求めることができる●特に社内で長期間勤務している従業員に承継する場合は、経営の一体性を保ちやすい	●身近に後継者に適任な者がいない場合でも、広く候補者を求めることができる●現経営者が会社売却の利益を獲得できる
デメリット	●親族内に経営の資質と意欲を併せ持つ後継者候補がいるとは限らない●相続人が複数いる場合、後継者への経営権の集中が難しい(後継者以外の相続人への配慮が必要)	●親族内承継の場合以上に、後継者候補が経営への強い意志を有していることが重要となるが、適任者がいないおそれがある●後継者候補に株式取得等の資金力が無い場合が多い●個人債務保証の引継ぎ等に問題が多い	●希望の条件(従業員の雇用、価格等)を満たす買い手を見つけるのが困難である
●経営の一体性を保つのが困難である
4 事業承継計画の作成
 事業承継の方法、後継者を決定したら、具体的な計画の作成に取りかかりましょう。中長期の経営計画に、事業承継の時期、具体的な対策を盛り込んだものです。例として、T社社長の中小太郎の事業承継計画表をご覧ください。長男への親族内承継を行います。社長交代は7年後。会社の収益、定款・株式などの管理、現経営者と後継者のアクション・財産などを大ざっぱで良いので書き込んでいきます。この計画表は、計画を進める中で適宜変更を加え、最適なモノに作り込んでいくとよいでしょう。
【T社社長の中小太郎の事業承継計画表】(事業承継ガイドライン20問20答より)
(※)上記の例では、現経営者及び後継者の特殊割合は、議決権割合ではなく、発行済株式総数に対する保有株式数の割合を示しています。
「事業承継ガイドライン20問20答」は財団法人あきた企業活性化センターで配布しています!
 事業承継計画表を作成する際、また、計画を進める中で計画表に変更や追加を加える際など、事業承継の各段階で進捗状況をチェックしながら一歩一歩確実に実行することが重要です。
これらを漏らさずに計画をすすめると良いというチェックリストを活用しましょう。中小企業庁で作成・配布している「事業承継ガイドライン20問20答〜中小企業の円滑な事業承継のための手引き」には、「後継者候補に意思を確認しましたか?」「経営理念の明文化、社内への浸透へ向けた取組を行いましたか?」等々、詳細なチェック項目のリストと、それに対応するアドバイスなどが載っていますのでご活用いただけます。
5 事業承継税制が変わります
 平成20年10月1日に適用予定の税制改正要綱によると、非上場株式等の相続税が80%納税猶予に大きく軽減され、対象となる企業も大幅に拡充されます。事業承継の妨げともなっている相続税が実質軽減されることとなり、事業や雇用を存続させる環境が整ってきていると言えるのではないでしょうか。
事業承継税制( 平成20.10.1適用予定)
○事業承継の際の障害の一つである相続税負担の問題を抜本的に解決するため、非上場株式等に係る相続税の軽減措置について、現行の10%減額から80%納税猶予に大幅に拡充するとともに、対象を中小企業全般に拡大する。なお、本制度は、平成21年度改正で創設し、事業継続円滑化法(仮称)の施行の日(平成20年10月予定)以降の相続に遡って適用する。
○事業承継税制の抜本拡充は、単に事業承継の円滑化を実現するのみならず、事業継続要件の設定により、真の意味で地域の雇用確保、更には経済活力の維持に向けた特効薬となる。

改正の概要
自社株に係る10%減額措置(現行制度)
主な要件
〈対象会社要件〉発行済株式総額20億円未満の会社
〈軽減対象の上限〉相続した株式のうち、発行済株式総数の2/3又は評価額10億円までの部分のいずれか低い額

軽減割合を80%に大幅拡充

主な要件
自社株に係る80% 納税猶予(改正後)
○対象会社は中小企業基本法上の中小企業※株式総額要件は撤廃
○軽減対象となる株式の限度額は撤廃※但し、発行済株式総数の2/3以下の限度有り。




「取引相場のない株式等に係る相続税の納税猶予制度」の概要
被相続人
○会社の代表者であったこと。
○被相続人と同族関係者で発行済株式総数の50%超の株式を保有かつ同族内で筆頭株主であった場合。
株式の相続
○後継者が相続又は遺贈により取得した自社株式の80%に対応する相続税の納税を猶予。
相続人(後継者)
○会社の代表者であること。
○相続人と同族関係者で発行済株式総数の50%超の株式を保有かつ同族内で筆頭株主となる場合。
○5年間の事業継続。具体的には、
・代表者であること
・雇用の8割以上を維持
・相続した対象株式の継続保有
会社
中小企業基本法の中小企業であること
5年間
経済産業大臣によるチェック
○死亡の時まで保有し続けた場合など一定の場合に、猶予税額の納付を免除
(中小企業基本法における中小企業の定義)
	資本金 従業員数
製造業その他	3億円以下又は300人以下
卸売業	1億円以下又は100人以下
小売業	5千万円以下又は50人以下
サービス業	5千万円以下又は100人以下
(1) 講演:円滑な事業承継の進め方

日時:平成20年1月21日(月)
場所:仙台市(ホテルモントレ仙台)
主催:独立行政法人中小企業基盤整備機構東北支部

(1) 講演:円滑な事業承継の進め方
講師:城所弘明(税理士・公認会計士・行政書士・AFP)

時間と労力がかかって当然。現経営者が元気なうちに計画を立て、後継者との併走期間をしっかりと持つ!
専門家を活用することが有効!
すべての段階において、現状・課題・進捗状況を紙に書く!


(2)事業承継を支援する様々な支援策
中小機構東北支部事業承継コーディネータ 市川昭男

【中小機構の支援策】
@事業承継ネットワークの構築
A普及啓発活動
B事業承継協議会の運営
無料相談窓口
 東北支部 〒980-0811 仙台市青葉区一番町4-7-17小田急仙台ビル3階
 TEL.022-716-1751 FAX.022-716-1752
Eメール相談 http://e-sodan.smrj.go.jp/

(3)パネルディスカッション〜事業承継を円滑に進めるために、経営者が今やるべきことは何か!〜

【コーディネーター】
 城所弘明(前述)
【パネリスト】
・桜井武寛(株式会社一ノ蔵 代表取締役会長)
・佐藤友信(株式会社斎藤板金工業所 代表取締役社長)
・鈴木忠司(官澤法律事務所 弁護士)
・高井正昭(住友信託銀行プライベートバンキング部 主管財務コンサルタント)
城所先生に聞く ここ数年の事業承継の特徴は、親族内承継が減少し、従業員への承継やM&Aが増加している点です。均分相続の浸透やビジネスの合理化など、社会変化が承継を困難にし、承継の形を変えているようです。日本の廃業率の高さを食い止めなければ雇用の確保はできません。税理士や弁護士等の専門家、支援機関などの支援態勢も整ってきています。「リタイア後には夫婦で温泉旅行にゆっくり出掛けよう」というような希望、計画の中で承継の計画を立てることから始めていただければイメージしやすいと思います。まずは、希望も不安も紙に書き出してみてください!
(2008年3月 vol.320)

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