経営さぷりメント
温故知新「老舗」に学ぶ企業経営

 1.老舗の看板とは?

 今年に入り、さまざまなメディアで「老舗特集」が組まれています。これには、昨年来菓子メーカーや外食産業などで、世間でも有名な老舗の不祥事が相次いで発覚したという背景もあります。しかし老舗の不祥事が「老舗の看板に泥を塗った」という論調で報じられるのは、日本独特の表現ともいえます。これは日本人がそれだけ老舗の看板を大切にするメンタリティを持っていることの表れでもあるでしょう。そこで、「創業または設立100年以上の営利法人を老舗の定義」として、帝国データバンクの企業概要データベース「COSMOS2」収録の約124万社のうち、非営利法人などを除いた118万5,905社のなかから上記老舗の定義に該当する企業を抽出してみました。

老舗は全国で1万9,273社

 抽出した内容をみると、100年以上の老舗は全国で1万9,273社となります。つまり、企業全体の約1.6%が100年以上の歴史を持っているといえるのです。また、200年以上の非営利法人は893社、300年以上となると391社になります。これほど老舗が多い国はほかに例を見ません。建国して約230年のアメリカは言うに及ばず、ヨーロッパ各国も老舗の数はそれほど多くありません。そもそも企業数がそれほど多くはないことと、ブランドが継続していても、実際は他の企業に売却されるなどして創業者が経営から手を引いているケースが多いためです。これに対して日本では、多くの企業で創業者一族が長く経営に携わるケースが多いといえるでしょう。
 ちなみに、秋田県ではCOSMOS2収録10,311社に対して、242社が上記老舗の定義に該当しています。全国の老舗企業率(1.63%)と比較しても、秋田は2.35%と比較的高い比率となります。

 2.アンケートに見る老舗の姿

  アメリカのサブプライム問題に端を発した金融不安が世界に広がり、大企業の経営不振や各国の株価の乱高下が生じています。しかし過去にさかのぼってみると、二度の世界大戦や金融恐慌などによる社会情勢の大変化がありました。また、刻々と変化する消費者ニーズや経済動向など、幾多の困難を乗り越えて老舗企業は今日を迎えているわけです。これら老舗に特有の強みと、老舗ゆえの弱み、さらに重要視している事を通じて老舗の姿に迫りたいと思います。(老舗4,000社に対する調査票郵送による回答。回答814社)

家訓、社訓、社是

 老舗企業に対して「家訓、社訓、社是」の有無を問うたところ、「明文化」もしくは「口伝されている」と回答した企業が4社に3社以上となる77.6%に上がりました。家訓、社訓、社是の役割は「基本的な経営指針」、「共通価値観の醸成」と考えている企業が多く、「そう思う」と「ややそう思う」を合わせると80%を超えています。このことから老舗は、創業時の理念を経営指針として今日に伝える社風を重要視しているともいえるでしょう。

 

 

老舗の強み・弱み

 老舗が創業時から一部、もしくはすべてを変更したものは「販売方法」が78.7%で最多となり、「商品、サービス」が72.4%と続きました。さらに「主力事業の内容」や「製造方法」においても50%以上の老舗が変更に踏み切っています。企業を継続するには、時代に則した対応を自ら取りながら事業展開を進めている姿が浮かんできます。また老舗の「強み」については、「信用」を選択した企業が73.8%となり圧倒的な選択率でした。次いで「伝統」、「知名度」と続いています。長年の業歴に裏打ちされた無形の財産が、老舗の強みと認識されていることがわかります。一方で、老舗の「弱み」として「保守性」が54.9%の選択率となり最多です。今日まで事業を継続してきた実績から、「今までのやりかたで今後も過ごせる」と考えて変化への対応が遅れてしまうことは、老舗企業の多くが抱える悩みでもあり危機感ともいえるでしょう。

 

 3.老舗が重要視していること

今後、老舗が生き残っていくために必要なものとしては、「信頼の維持向上」が65.8%で最多選択でした。次いで「進取の気性」45.5%、「品質の向上」43%、「地域との密着」38.6%と続きます。
 また、現在重要視していることは、「顧客からの信頼」が92.1%の最多選択となっています。次いで「商品・サービス」57%、「販売方法」45.6%と続きました。
 今日までに築いてきた信頼を重んじる姿勢は鮮明で、さらに生き残るためには時代に則した変化を続けなければならないという決意の表れを感じることができます。老舗企業が重視するものは、老舗だけではなく、あらゆる企業にも通じる企業存続の秘訣ともいえるでしょう。

信、誠、継、心、真

 最後に、老舗企業として重要視すべきことを漢字一文字で表現してもらいました。この結果は、信用・信頼の「信」が圧倒的な支持を集めて1位となりました。次いで誠実の「誠」が2位となり、以下は「継」「心」「真」と続きました。顧客や関係先との信頼関係を築くこと、そのためには心を込めた誠実な商いをすること。そして事業を次の世代へと引き継いでゆくこと。アンケート結果からは、そんな老舗の想いが伝わってきます。
 どの老舗も最初はベンチャー企業であり、創業者はベンチャースピリットを持って開業したはずです。現代の老舗経営者も先のアンケート結果に見られるように信頼の維持向上と同時に、進取の気性を重要視しています。このことは県内の企業経営にも通じることでしょう。取り巻く経営環境は厳しさを増していますが、老舗企業から学ぶものは多いはずです。

 

 


(2008年11月 vol.328)

 
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財団法人秋田企業活性化センター