免許制度という保護政策の恩恵を受け、比較的安定した経営環境であった酒小売店。しかし、規制緩和の流れの中で、2003年9月1日、この免許制度も完全に撤廃されるなど、業界を取り巻く状況は激変。こうした中、独自開発の地酒、直輸入ワインを武器に、県内外に数多くファンを持つ(資)後藤酒店。今号では、同社代表の後藤彰さん(44歳)に話を聞いた。


後藤酒店の代表 後藤 彰さん

 当社は、大正元年に、現在地、秋田市保戸野通町で創業。現代表の後藤さんで4代目となる。
 創業当時、酒販小売免許制度はなく「誰でも酒店を開業できる」状況であった。免許制度が導入されたのが昭和13年。施行当時は、全国で40万軒の申出があったが、2年後の昭和15年には、10万件に激減したそうである。これをもってしても酒店経営の難しさが感じ取れる。
 「以前からこの業界には、国による締め付けと緩和が交互にやって来ました。今は、外国からの圧力などで、酒販小売免許の規制が、昨年度から段階的に緩和されており、緩和の波が強い時です」。「現在、秋田市で年2、3先、全県では年20〜30先、免許交付先が増加し、そのほとんどがスーパー、コンビニ、ディスカウントストアです」と後藤さんは語る。
 規制緩和の波にさらされ、ディスカウントストアや24時間コンビニ等、他業態との競争が激化する中、既存の酒小売店は、従来型の営業では生き残れないほど、取り巻く経営環境は厳しさを増している。規制緩和の波にさらされ、ディスカウントストアや24時間コンビニ等、他業態との競争が激化する中、既存の酒小売店は、従来型の営業では生き残れないほど、取り巻く経営環境は厳しさを増している。

 後藤さんが店を任されてから約25年。現在、着実に自分の理想に近づきつつあるが、任された当初はつらいこともあったそうだ。
 日本酒は元来、米と米麹のみによって作られるものだが、戦時中、物資不足のため、米以外の原料をまぜ、増量させることを国が認めて以来、それが受け継がれ、主流になっていた。日本酒に限らず、他の酒類も同様であった。こうした流れの中で「いつかは消費者が“本物”を求める時代が来る。その時のために“本物”のお酒を追求したい。そのために今、何をなすべきか」を考え続けた。
 当時「20代の青年が、お酒に対する夢を語り、酒店経営の理想を話しても相手にしてもらえなかった」そうである。「酒店は、20歳になって始めて味わえる商品を扱う商売。20代の私は周りの人たちにとって、赤子同然だったのでしょう」。
 しかし、後藤さんは負けずにアクションを起こした当時、海外旅行者が増加しており「家庭に本物のお酒が浸透している、良き欧米の文化に直接触れた人たちが増えることで、日本の家庭の欧米化が進む。お酒の飲み方も、これまでの晩酌から、ファミリーで楽しみ、ホームパーティーでわいわいやる方向に転換して行く。必ずワインが支持される。そういう時代になる」と、ドイツワインアカデミーの研修を受講、続いてフランスワイナリーへの蔵巡りを試みた。
 研修終了後、ワインの取扱量を増やしても「一日1本売れればいいという状態」が長く続き、また、日本酒で、昭和40年代の後半にオリジナル純米酒の開発を試みたが、様々な理由で発売から2、3年で断念せざるを得なかった。「結局、私の時流の捉え方が早かったのだと思います」。後藤さんにも紆余曲折があったのだ。
 苦しく、つらい時代を味わいながら、後藤さんの「酒」に対する考えは変わらなかった。逆に、この時期の「蔵元、問屋めぐり」、「文献」、「仲間との意見交換」、「勉強会への参加」など「酒」に関するたゆまぬ情報収集の集積が、他を寄せ付けぬ「本物の品揃え」を可能にした。


 平成元年、バブルも陰りを見せはじめていた時期に、後藤さんは秋田県内の3人の同志と新たな試みを始めた。オリジナル清酒「出羽の雫(刈穂)」の開発である。
 日本酒離れが叫ばれている中「純米酒」という名称も無かった、米と米麹のみで当たり前に酒が造られていた時代の「本物の酒」で「本当に日本酒は時代に合わないのか?」を世に問うたのだ。
 発売当初は900本を用意したが、NHKから「本物を求める、地元酒店有志の情熱が創り出した酒」と紹介され、全国から注文が殺到。瞬く間に完売した。その後も、毎年11月に発売。現在では、6,000本を発売しているが、発売から2ヵ月で約8割を売り切り、間もなく完売する状況。発売から11年目を数える現在も好調を持続している。その他にも「一の渡り(千代緑)」、「大吟醸・雫酒(秀よし)」などの開発に取組み、現在、当店オリジナル酒は17種を数え、店内には後藤さんの舌が厳選した秋田の地酒が150種ほど並んでいる。
 また「今、ワインは“第4次ブーム”と言われていますが、今回はブームではなく、ワインが日本のスタンダードに定着したと考えています」と、昨年11月からはフランスワインの自社輸入を開始、種類にとらわれない、良質な酒の提供を続けている。
 「限られたお金で、良質なもの」を求める舌の肥えたお客様たちのために、今後も「自分が消費者、飲み手の代表となって良いものを厳選し、提供していくつもりです」。後藤さんの意欲は旺盛だ。


 先手先手の「時流を読み取る経営感覚」、また「秋田の米」で作った「秋田の酒」づくりにこだわり「出羽の雫」の売上の2%を契約農家の方々に還元、有機栽培米の品質向上、安定生産に努めるなどの「本物の日本酒を求める情熱」で、先頃、第8回食品優良小売店全国コンクールにおいて、栄えの「日本経済新聞社社長賞」を受賞した。
 「飲むこと自体は文化ではありません。酒自体に文化があります。これからもアルコールで酔わせるのではなく、心を酔わせる品揃え、入ってきて豊かさを感じさせる店づくりを心がけます」。この言葉どおり「地酒」、「ワイン」の2コーナーにテーブルと椅子を置き、しばしばお客様と酒について語り合う場も設けた。
 今年44歳、酒の道に入って、はや成人も過ぎた後藤さん。これからが働き盛り、今後もバイタリティー溢れる経営を期待したい。

CORPORATION DATA
 ■社  名 合資会社後藤酒店
 ■所在地  秋田市保戸野通町2−27
 ■電  話 018(862)2185
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当社の屋号は、まるじゅう。これは創業者の後藤重助氏の「重」を重ね合わせ、付けられたものだという。

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