秋田県民であれば能代セキトの “志んこ” “だまこ餅” と言えば甘党ならずとも知らない人は、少ないかもしれない。近年、宅急便や高速交通網の発達に伴い、全国に顧客が広がり、もはや秋田銘菓と呼ぶにふさわしい、能代市民の自慢お菓子となっている。
 そして昨年4月には、能代バイパス店をオープン。「常に美味しいお菓子を食べてもらいたい」そんなお菓子作りに込める熱い想いを社長の関戸 實さん(56才)に聞いた。


セキトの代表 関戸 實 氏

 お菓子屋さんにとって、自分の定番商品を持つことは夢だが、その実現は難しい。セキトの「志んこ」は半世紀を経て、セキトの代名詞と言えるほど定番商品になっている。その地位を築き上げた秘密はどこにあるのだろうか。
 材料を吟味するのは当然だが、米粉を碾くところから自社内で独自の方法をとる。日持ちがしないため朝作り、売れ具合を見ながら作り足す。特に夏場は時間との戦いとなる。敢えて効率の悪い方法をとることに「その場で作ったものを売りたい」という創業時から連綿と受継がれる熱い想い、創業者の強い個性がみてとれる。

 昭和12年、社長の両親、関戸啓治さん、キサさんが、地元で主婦がおやつとして作っていた「おやき」の上に更に餡子をのせて売出したのがセキトの出発点。昭和24年の大火に遭い、現在地(上町)に移転。春は「志んこ」、夏は「アイスキャンディ」、秋冬は「おやき」を製造販売。
 人一倍努力家で仕事に厳しかった両親は、新しいお菓子の研究にも熱心だった。ゆべし菓子「杉の肌」、これからは洋菓子が伸びるとみるや、昭和37年いちはやく東京から職人を招いての洋菓子製造と、その行動力は素晴らしい。
 子供時代の社長は両親の眠る姿を見たことがなかった。そんな両親を見ていたから、自分自身は全く家業を継ぐ気はなく、高校卒業してすぐに上京した。しかし、事業が順調に拡大するにつれて人手が足りず、呼び戻されてしまった。
 ところが、後を継いでいたお兄さんが急死したため、図らずも自分が継がざるを得なくなった。


 社長が東京から呼び戻された頃「志んこ」の人気が高まり生産が追いつかなくなる。それなら「機械 化できるものならやろうじゃないか。」と機械を導入。当初は失敗したが研究と工夫を重ね機械化に成功するのである。出来た製品も手作りを上回る出来栄えだった。この経験が、勘に頼るのではなく科学的なノウハウの重要性を認識させた。「手作りは原点だが、常に最良とは限らない」という教訓である。
 「自分は菓子職人として本格的な修行はしてこなかった。」と言う社長だが、このことが逆にプラスとなった訳だ。
 昭和61年、二つ目の定番商品「だまこ餅」が誕生する。この商品の誕生にも意外なドラマがある。最初から冷凍するつもりだったのではなく、余った試作品を冷凍保存して後日食べたら意外にも美味しくなっていたのである。まさに“瓢箪からコマ”。当初は客側 の“冷凍”に対する抵抗感もあったようだが、今では逆に“冷凍”であることが珍重され、宅配便で全国へ出荷される。この「だまこ餅」は専用のクールライン工場で製造されている。

 現在、長男の優さん夫妻が社長の右腕として経営に参加。若い新鮮な感覚を生かし、昨年4月、能代市字下内崎に能代バイパス店をオープンした。この店の建設にあたっては、神戸、岡山、福岡などの有名店を見て歩いた。建物は木の街能代にふさわしく、ふんだんに杉を使った暖かみの感じられるもの。店内も広々として明るく、従業員の女性も楽しそうに働いている。色とりどりのケーキや焼き菓子、新商品の「贅沢まんじゅう」などが並べられ、「買うつもりでなかったのについ…」そんな雰囲気の店である。
 この店のもう一つの特徴は、店の一角にある広いテーブルの喫茶コーナー。「ケーキは食べたいが、1個だけは買いにくい」そう感じている客は意外に多いのではないだろうか。そんな客や外出の途中にちょっと寄って一息いれる、肩肘を張らない身近な憩いの場となっている。郊外型店舗の特色を生かし、車で来店する若い人達も多く、客層も大きく拡大している。

 セキトの創業者、いつも店先で「おやき」を焼いていたキサばあちゃん。『味と心を大切に』というキサばあちゃんの教えは、脈々としてセキトの暖簾に受継がれている。
 そんなキサばあちゃんの心をお客さんに知ってもらおうと、毎月7日を「キサばあちゃんの日」と決め、その日だけの限定品お菓子を販売する。「志んこ」の量り売りといい、限定品のお菓子といい、心憎い演出である。
 こんなセキトであるが、老舗の看板だけで商売は続かない。社長は「能代市民の口は肥えていて手強いが、お客様のアドバイスが現在のセキトを築き上げた。」と、これからも謙虚な姿勢で美味しいお菓子を提供しつづけたいと言う。
 全国に知られるセキトは能代市民の誇りでもある。

CORPORATION DATA
 ■社  名 株式会社セキト
 ■所在地
  本   店/能代市上町12-2
  バイパス店/能代市下内崎63-13
 ■電  話
  本  店/0185(54)3131(代)
  バイパス店/0185(52)1230

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