平成6年の酒税法一部改正により、ビールの年間最低生産量が60kリットルに引き下げられたことに伴い、全国各地でその土地の味が染み込んだ地ビールが誕生している。今年9月現在で地ビール会社の数は約300社。秋田市大町にある地ビール製造業鰍くらは、醸造所と飲食店などで構成する小粋な自遊空間「あくらフォー・スクエア」を展開し、造りたてのおいしいビールを提供している。今号では、同社の代表取締役社長高堂裕さん(52才)に話を聞いた。


(株)あくらの社長 高堂 裕 氏

 高堂さんの家業である酒類販売業「高堂酒店」は1860年創業の老舗。現代表の高堂さんで6代目となる。この高堂家に大きな変化が訪れたのは平成8年、大町1丁目地区の再開発に端を発する。地方都市の多くに見られるように、モータリゼーションの発達や郊外の道路整備等により空洞化現象が進み、当地区でも地盤沈下が余儀なくされていた。そんな折、地元業者個々の連動により、ヒューマンスケールの地域再開発ともいえる「パティオ事業」が隣地でスタート。再生と建設への槌音が響き始めるなかで、「小さな街づくりをしたかった」という高堂さんは、新たな醸造の道を拓くべく、新規事業に着手し、株式会社「あくら」を設立した。
 かつて造り酒屋だった同店の敷地内には4棟の蔵が並んでいた。米蔵は30年ほど前からジャズスポットとして活用されていたが、痛みが少なかった文庫蔵を改修してビアレストランとして再生させ、ビール醸造所は新築した。「地ビール生産の気運が盛り上がってきた頃は、観光地・テーマパーク等の副業であり、観光資源の少ない地方都市の真ん中で売るといったケースはまれだった」と当時を振り返る。


「日本酒造り」も「地ビール造り」も土地で息づく地酒という点では同じ。設立当時、秋田酒類製造株式会社(清酒高清水)の取締役だった高堂さんは設立後には非常勤取締役となり、日本酒造りで培われた技術と心を持って、当社の地ビール製造に精魂を傾けた。“人の手と酵母の大きさ”、これがあくらビールの基本。「酵母の活動を目で確かめ、手でアクを取りながらビールを見守り育む。出来得る限り人の手をかけること」にこだわった。そして地ビールへの関心の強さ、話題性を追い風に、あくらビールは好調に滑り出した。
 販売価格が、既存市販ビールに比べかなり割高であることや景況が芳しくないこともあり、「ここ最近 はやや苦戦を強いられています」と苦笑する。「高清水は秋田の酒販店でも売上構成が高いがゆえに置いてくれている。これがブランド力であり、50〜60年頑張ってきた勲章だと思う。その点、あくらビールはまだまだ無名。嗜好品なので飲んだり食べたりしていただかないと、評価につながらない部分もあるのでブランド力は絶対に欲しい」と語る。地ビールは、「作りたての新鮮さ」、「個性的な味わい」、「特定地域でしか飲めない希少性」など価格以外の魅力で成り立つ事業であり、基本的には、薄利多売の大手ビールメーカーと競合するものではない。しかし、「化粧品のブランドのように高くても使う、おいしいから高くても飲むというような人が出てこないと需要の伸びは期待できない」と強調する。


 「小さな醸造所のある小さな街」をコンセプトに、「あくらフォー・スクエア」が誕生して2年。当社直営の「ビアカフェあくら」は、ビール醸造所の2階にある。席数23席の小じんまりした見晴らしのよいお店だ。アンティークのヨーロッパのビール瓶や小物の並ぶインテリアの中で、工場直営ならではのビールの情報(仕込日、仕上がり具合、作り方等)を仕入れながらその日のビールを楽しむことができる。 リンデンバウム、カスターニエなど、味は全部で4種類。「牛舌を焼いて提供しているお店は結構あるが、煮込んだものをステーキとして日常的に提供しているお店は少ないはず」。当店は家庭料理の延長から始めたというが、ビールに合った食材にもこだわりを見せる。地ビール(プチ・グラス)付の日替わりランチもOLを中心に根強い人気だ。


 「蔵には建築的な素材として、何十年たっても魅力を失わない力がある。しかし、残念なことに、蔵本来の目的と離れた活用をしたことで、蔵の寿命を半減さ せてしまったという思いがある」。空調設備を導入したことで、内部が乾燥し、木材が収縮してしまったのだそうだ。しかし、「地域の住民をはじめ、多くの方々に見てもらいたいというジレンマもある。蔵の魅力を核に、ぶらぶらくつろげる空間を提供していければ」と語る。


 あくらフォー・スクエアは、このたび第16回市民が選ぶ都市景観賞を受賞した。高堂さんは、「地域に密着した新しい食文化」という地ビール本来の特性を生かしながら、空間、広場を活用した「にぎわいあるまちづくり」を目指している。

CORPORATION DATA

 ■社  名 株式会社あくら
 ■所在地 秋田市大町1-2-40
  ■電  話 018(862)1841
  ■醸造所のある<あくらフォー・スクエア>内
  には季節ごとの趣がある広場を囲むように、
  ビール工場と3軒の飲食店、小さなギャラリー
  がある。

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