ヤシロ

秋田市


 商業地の広がりが著しい秋田市の駅東地区の一画に、“敢えて外界との接触を避けたような”デザインのお店「ボックス・イング」が、去る9月にオープンした。早くも若者からカリスマ的な支持を受けている同店の店長、八代秀一さん(昭和37年生まれ、34歳)に話を聞いた。


「ボックス・イング」の八代 秀一店長

 秋田市内で若者向けセレクト・ショップを6店舗営む(有)ヤシロは、本年9月に同社の“旗艦店舗”とも言うべき「ボックス・イング」を秋田城東消防署のそばに、「いっさい、広告やダイレクトメールをうたないで、ひっそりと静かに」(八代店長)オープンした。既存の固定客にさえPRをしなかったのは、「商売の原点に帰り、一人ひとりのお客様へ商品をじっくりと提案したい」からである。
 しかし、若者向けの雑誌・ポパイで「全国区でも通用するセレクトショップ」と称賛されたヤシロが、総力を挙げて開店した「ボックス・イング」は、口コミでたちまちの内に評判となり、休日は隣県からも若者が押し寄せるほど、にぎわっている。郊外型大型ショッピングセンターが全盛の経営環境下にあって、逆張りとも言える「単独の路面店」が“繁盛”している背景には、同社のたゆまない「変化対応」の歴史がある。

「ボックス・イング」の1階部分

「ボックス・イング」の2階部分

 同社は、初代が昭和14年3月に秋田市南通りで靴専門店として創業。2代目にあたる現社長の八代稔氏が、「ファッション性の高いお店」として女性客からの支持を集め、順調に店舗数を拡大した。
 しかし、婦人靴小売業界で地歩を固めつつあった同社にも、消費者の購買行動変化の波が、容赦なく襲った。それを端的に言うならば、「業種店」から「業態店」への転換である。同社がターゲットとするファッション・リーダーたちは購買経験を数多く積んでおり、経営環境が、「単に良い靴(モノ)を並べるだけでは反応してくれない」時代に変化したのである。
 ちょうどこのような時期に、東京での修行を終えて家業を手伝うことになった秀一氏は、「自分の皮膚感覚を信じて」、経営戦略を徐々に転換した。その第一弾が、昭和63年秋田市中央通りにオープンした、店舗面積8坪の「ベルナルド」。それまでの靴専門店ではなく、顧客のライフスタイル全般にわたって提案できるお店を目指した。
 「単に“モノ”を売るだけの商売から、お客様がワクワクする“コト”を売る戦略」へシフトしたのである。

 お客様を“ワクワク”させるために八代店長が取り組んだのが、品揃えの独自性である。折りからのDC(デザイナーズ・キャラクター)ブランド全盛時代に背を向けて、自分独自の“感性”で商品を探し回り、“他の店では売っていない”衣料品、靴、時計、アクセサリーなどの品揃えを充実させた。
 情報伝達のスピードが急速な現代においては、東京、ヨーロッパ、アメリカなど世界の先進国で、ファッション・トレンドが同時進行する。このことは、「ナイキ」の戦略に良く現れている。いち早くお客様に新鮮な商品をより安価に提供できる、本物の商売でなければ、マーケットからの退場を余儀なくされる。
 このため、八代店長は単身ヨーロッパに渡り、独自の仕入ルートを開拓した。最初の頃は、「トレンドを掴まえるのが早すぎて失敗もした」そうだが、経験を積み重ねるに従って顧客の支持が集まり店舗数も拡大。現在では中央通の本店のほか秋田フォーラスに5店舗構えている。
 同社は、急激な業績の伸展に合わせて、「人材育成」も怠りなく取り組んでいる。一例が、「仕入の権限委譲」。海外にも若手社員を同行し、仕入を経験させている。「本場の商品や雰囲気に触れることが、社員一人ひとりの接客能力の向上や感性を磨くことにつながります」(八代店長)。また、各人の頑張りをきちんと評価に反映させる人事システムを構築している。これらのことが、経営者と社員の想い、方向性などの一体化につながり、同社の発展を支えている。

 同社が培った商品力、接客力を武器に「お客様のあらゆるライフ・シーンを演出したい」と言うコンセプトで作られた「ボックス・イング」。同店舗は、デザインの面でもひときわ注目を浴びている。店舗デザインを担当したG・A・T鈴木デザイン事務所の鈴木恵一所長(当小売商業支援センター 専門相談員)は、「これからの小売業は『生活者主導で地域に根ざす』売り方が求められます。ボックス・イングは、このような新しい業態の願い(コンセプト)を明確に表現しています。また、八代さんが選択した立地は、シティ・エッジと言って文字どおり『街の周辺部』ですが、中心部が衰退する中で、街と商業の再生にさまざまな可能性を秘めた立地です」と語っている。

 最後に、八代店長へ商品がお客様から支持され続ける秘訣を聞いてみた。「やはり、お客様との会話などを通じて情報を集め、自分の目と耳を総動員して歩き回ることしかないですね」とのこと。商売繁盛の秘訣は、当たり前のことを徹底することにあるようだ。

CORPORATION DATA

 ■社  名 有限会社ヤシロ
 ■所在地  秋田市中通4-1-6
 ■創  業 昭和14年3月(1939)
 ■代表者名 八 代  稔
 ■電  話 0188(84)5167
 ■事業内容

  若者向けセレクトショップ。ボックス・イングのほかにベルナルド(本店・秋田市中央通り)、アットファースト(フォーラス2F)、ネービー(フォーラス3F)、トランスポート(フォーラス4F)、メイプルクリークス(フォーラス3F)、ポールスミス(フォーラス4F)がある。

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