郊外への商業集積の伸展が著しい秋田市。そのような経営環境の中で、敢えて中心街区にこだわり企業規模を着実に伸ばしているのが、(株)ニュー東京靴店である。今号では、同社の専務 佐々木宗利さん(昭和26年生まれ、46歳)に話を聞いた。


「(株)ニュー東京靴店」の佐々木 宗利専務

 御所野ジャスコ、秋田サティ、中三デパートなど、大型店の相次ぐ開店。加えて、ロードサイドにもディスカウンターが、大規模な面積で軒をならべる靴小売業界にあって、(株)ニュー東京靴店は、“逆風”に負けることなく、毎期着実に売上を伸ばしている。
 地元の中小小売店が、押しなべてナショナルチェーンの脅威にさらされる中で、何故同社の業績は伸びているのだろうか?
 その理由を佐々木専務は、「大型店やチェーン店のやらないことをコツコツと我慢強く積み上げてきたからです」と、語っている。大型店やチェーン店のやらないこととは、つまり高密度でハイタッチな接客である。大型店やチェーン店は、売場の効率を重視するため、どうしても販売員の数が少なく、セルフ販売になってしまう。低価格帯の商品を販売する場合はセルフ販売でも売り上げを確保できるが、高価格帯の商品を売る場合は十分な商品説明などの接客が必要となり、それでは難しい。同社は、大手が参入したがらない価格帯に的を絞り、顧客満足を最優先する販売方法で、「地域一番店」の地歩を固めたのである。


 同社は、初代佐々木財吉氏が昭和25年に秋田市駅前銀座通で靴専門店として創業し、その後金座街に移転。小規模ながらも堅実な商売を営んできた同社は、秋田駅前地区の再開発事業をきっかけに本金西武の1階に紳士靴専門店を出店し、大きく飛躍した。当時の金座街は、小規模な店舗が軒を並べ、駐車場も少なく、経営環境の変化に対応を迫られていた。このため地元地権者等が行政の支援を得て、現在の秋田中央ビルディング(本金西武)を再開発事業で建設したのである。
 財吉氏は、金座街時代のやり方を続けても新しいショッピングセンターでは通用しないと考え、経営の一線から退き、舵取りを現専務の宗利氏に任せた。そこで宗利氏は、再開発事業にスタート時点からタッチすることとなった。佐々木専務は当時を振り返り、「再開発事業に積極的に取り組んだことが、とても勉強になりました。新しい建物に移れば、それだけで成功するような錯覚を持つ人が多いのですが、建物のコンセプトや客層に相応しい商売に変化しなければ失敗することを学びました」と、語っている。金座街時代よりも客層がアップすることをにらみ、レベルの高い客層に相応しい品揃え、接客応対に転換。この戦略をとったことが功を奏し、売り上げは順調に拡大した。


 大手や他店がやりたがらない、もう一つのことは、「売れ筋に偏らないサイズ構成(佐々木専務)」である。在庫商品の回転率を重視すれば、どうしても中心サイズに重点を置いた品揃えとなってしまう。いきおい、22cmや27cmのサイズは欠品をおこし、折角の販売チャンスを逃がしてしまうことになる。佐々木専務は、「販売チャンスを逃がすことよりも、お客様のストア・ロイヤリティーを失うことがもっと恐いです。在庫負担はあるものの、何時いっても自分に合う靴があるという、専門店としての安心感を大事にしたいのです」と、語っている。
 平成2年に婦人靴専門店「トキオ レディス コレクション」を公営駐車場1階に出店した際、店舗がビルの柱の陰となっており、目立たない立地のため苦戦が予想された。しかし、同社の基本戦略である、「高価格帯の商品をサイズ切れすることなく、対面重視で販売する」方針を貫いた結果、婦人靴部門でも成功を収めている。
 この2店舗で築き上げた品揃えや接客のノウハウを武器に、平成5年に満を持して開店したのが、「トキオ ウォーキング コレクション(本金西武地下)」である。
 歩くことが一番簡単な健康法として注目され、靴メーカー各社はウォーキングシューズを市場に投入したが、価格が高いことに加えて販売店側に専門的な知識と高度な販売技術が要求されるため、簡単には手が出せない分野となっており、その当時市場規模は小さかった。
 しかし、外反母趾のお客様の相談を受けたりしていた佐々木専務は、「はきやすくかつ歩きやすい靴を求める、消費者の潜在的需要は、きっと大きい。シューフィッターの知識を活かして、お客様によりレベルの高い満足を提供しよう」と決意し、開店の運びとなった。現在では当初の予想どおり、既存の靴では満足できない消費者が、全県から集まる繁盛店となっている。


「トキオ メンズ コレクション」本金西武1階


「トキオ ウォーキング コレクション」本金西武地下


 同社の歩みは一見順風満帆に見えるが、その陰には、本金西武に出店以来の緻密な経営管理の努力が、隠されている。せっかく高額なPOSレジを導入しても使いこなせない企業が多い中で、同社は「紙」と「電卓」でPOSレジやコンピュータと同等かそれ以上にレベルの高い、在庫管理や計数管理の仕組みを構築している。佐々木専務は、「小さい企業ですから、基本を守っているだけです」と謙遜するが、当たり前のことを徹底的にやる姿勢が、生き残りにつながっている。
 靴メーカーやショッピングセンターから出店の要請が多いものの、やみくもな店舗の拡大に走らないで、一店舗毎の更なるレベルアップを追求する方針である。

CORPORATION DATA

 ■社  名 (株)ニュー東京靴店
 ■所在地  秋田市中通2−6−2
 ■創  業 昭和25年(1950)
 ■代表者名 佐々木 千代
 ■電  話 0188(31)5661
 ■事業内容

  紳士・婦人靴専門店。店舗はトキオ メンズ コレクション(本金西武1階)、トキオ レディス コレクション(公営駐車場1階)、トキオ ウォーキング コレクション(本金西武地下)、トキオ シューズ コレクション(大曲駅前)の計4店舗。

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