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![]() 「ヒツジヤ」の社長 森川 博文 氏
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現社長の森川さんは入社以来、「これからは婦人既成服の時代が到来すると確信していた」という。先代の生地に対するこだわりに配慮しながら、仕入から販売までの全てにおいて責任を持つということで、現在の核となる婦人既製服の取り扱いを始めた。当時、地元には複数の競合店がすでに存在し、当社は後発であった。主力を転換することについて、先代との軋轢はなかったのだろうか。「親子って同じ仕事をしていれば毎日けんかでしょう」。商売(あきない)を通した毎日の意見、理念のぶつかり合いは、企業の繁栄という同じ目的の前でも、避けて通れない問題であったろう。 当社の多角的経営がスタートする。秋田、青森などのショッピングセンターへの婦人服テナント出店が第一弾。これに加えてドラッグストアーへの進出がそれであるが、その理由は明確だ。婦人服市場は全国2兆円規模であるのに対し、ドラッグ市場は全国30兆円規模。その中で大型店の占める額は6兆円とまだまだ魅力がある市場であることが「外に打って出るしかない」と、森川さんを動かしたのである。 自社を取り巻く経営環境に関する情報収集、将来のビジョンを明確にした取り組みが、現在の当社を築き上げたのだろう。 多角的・多店舗展開によって順調に業績を伸ばしてきた当社だが、現在、森川さんは専門店としての当社の今後をどう展望されているかお聞きしてみた。「大型店に出店してみて、本店の大切さを痛感した」という。テナントを出し、売上が増加することと反比例して商売の面白味は減少していく。自分の考えで、婦人既成服に主力を移した今も、創業の出発点である「オートクチュールコーナー」をしっかりと残している森川さん。生地一枚の行商から始まった、先代の「商人魂」を受け継ぎ、今後も本店を基本として、地元大館を大事にしていく方針に変わりはないようだ。
![]() 生地専門店の面影も残す店内
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本店の店内では、服に加えて、靴、バック、小物、化粧品が各コーナーごとに見やすく、触りやすく、買いやすく陳列されている。30代から50代の女性にターゲットを絞ったトータルコーディネートファッションも提唱されている。その商品群と寄り添うように「ヒツジヤのお約束」が掲げられている。内容は次のとおりである。
日本の衣料品専門店で、返品OKを明文化して提示するのは珍しく、当社の取り扱い商品に対する自信と、お客様を大事にする姿勢が窺える。
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![]() 固定客を大事にすればするほど、他の顧客は差別感、疎外感を持つことが多い。それを、「いかにして固定客となっていただくか」。その時着目したのが「苦情はがき」の採用である。「苦言を呈していただけるのは、お店に対する期待が大きい証拠。苦情を寄せていただいた方こそ本当のファンである」と考え、顧客にDMを出す際は、必ず苦情用のはがきを入れるようにしているという。この反響は予想以上で、当社の取引顧客数は、年々増加しているにも係わらず、固定客の割合は変わっていないという。「苦情は大切な情報源であり、お客様が悪いと指摘したことをすぐに改める、当たり前のことを実践する。これが商売繁盛の秘けつ」という。 現在、森川さんは、ヒツジヤの社長であるとともに、3年前に設立された大館中央商店街振興組合の理事長として商店街活性化に取り組まれている。公私ともに多忙であるが、自分にできることを精一杯やるしかないと、日々奮闘されている。
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