秋田比内や株式会社



代表取締役専務
柳澤 正彦

  鹿児島の「薩摩鶏」や愛知の「名古屋コーチン」と並び日本三大地鶏と言われる秋田の「比内地鶏」。鹿角市十和田に本社がある秋田比内や株式会社は、この比内地鶏を生産するとともに、焼き鳥やスープなどに加工し、東京今井屋をはじめ全国約60の姉妹店に食材を提供している。またその他の取引店やインターネットによる販売を合わせ、出荷は年間約25万羽と、県内屈指の出荷量を誇る。今号では、比内地鶏のブランド力向上に先進的に取り組みながら、販路を拡大してきた当社の代表取締役専務 柳澤正彦さんに話を伺った。


百貨店勤務を経て起業
 柳澤さんが比内地鶏に注目したのは、今から遡ること10年前。当時大館市の百貨店にバイヤーとして勤務していた柳澤さんが、九州の百貨店で開催された物産展で秋田の物産品を販売したとき、「きりたんぽ」用の比内地鶏の肉とスープが売れていることに気づいた。また東京都内の百貨店で、比内地鶏が名古屋コーチンなど他の地鶏より高値で売られていたのを目にし、ショックを受けた。「地元ではきりたんぽ鍋の食材の一部でいわば脇役。しかし東京では高級食材として扱われている」ことを認識した柳澤さんは、本物の地鶏を全国に通用するブランドとしてアピールしていきたいと考え、勤めていた百貨店を退職、平成7年12月に当社を設立した。

発想の転換
秋田比内や  元々、比内地鶏は秋田県内で冬場の「きりたんぽ鍋」用として出荷されていた。冬場の出荷が主体だったことから、出荷の時期に合わせて生産が行われるため生産の時期も片寄っていた。また値段が高いために地元ではあまり消費されることが無いことも生産量が少ないことの原因だった。柳澤さんは、バイヤーとして日本全国を歩いた経験から、各地方にはいろいろな鶏の食文化があることを知り、全国に通用する最も普通の鶏の食べ方が焼き鳥であることに気づいた。そこで発想を転換し、焼き鳥用として加工・出荷しようと決意。この季節性がない需要の発見により生産・出荷の季節的な片寄りが解消され通年化が可能となった。

日本三大美味鶏
 比内鶏は多くの日本地鶏のなかにあって、ことさら美味であったため、鹿児島の薩摩鶏や愛知の名古屋コーチンと並ぶ日本三大美味鶏のひとつとして知られたが、昭和17年に国の天然記念物に指定され食用できなくなった。このため昭和48年に秋田県畜産試験場が比内鶏のオスとアメリカ原産のロードアイランドレッドのメスとをかけ合わせて一代雑種を生産し、これに「秋田比内地鶏」という名前をつけ、現在市場に流通させている。こりこりした食感と、歯ごたえのある肉質が特徴だ。
 当社で生産し、全国へ流通させている鶏は100%がメス。これは、メスの方がオスに比べて肉の味が良いためで、肉質の良いメスの比内地鶏だけを自然の中でゆっくりと放し飼いをし、充分な運動をさせて育てている。育ちにくい体質のため、飼育期間は160〜180日に及び、ブロイラーの60日、名古屋コーチンの130日と比べても、かなり長い。

全国初の比内地鶏料理専門店
 平成8年2月大館市に全国で初めての比内地鶏料理専門店「秋田比内や大館本店」を直営店としてオープンさせた。メニューは、串焼き、親子丼、刺身、きりたんぽ鍋などの単品メニューから宴会用のコースメニューまで当社が加工製造した比内地鶏を使ったものばかりで構成されていて、「秋田のほんもの」の味を堪能することができる。なかでも比内地鶏の卵3個と肉、秘伝のタレでつくる、半熟とろとろ親子丼や、ミネラルたっぷりの天日塩だけで食する比内地鶏のもも一枚焼きは絶品だ。
 当社では、現在モデル店として大館本店のほか、「村の駅トプカイ」を運営し、当社工場で製品開発した食材をもとにメニューづくりを進めている。今後新たに店舗展開を考えている方や、既存店への新規食材導入の方の為、このモデル店を通して具体的な店舗提案やメニュー提案、そして研修・指導を行っており、現在では東京都や横浜市などの関東圏を中心に姉妹店の数は約60店まで増えた。
徹底した品質管理
 鶏は地面の石や土を食べる習性があることから、鶏舎の土壌管理を徹底したり、餌に野菜を混ぜたりしている。また、数年前から乳酸菌や酵母菌、光合成細菌など約80種類の有用微生物を含む「EM活性液」を飲み水に混ぜた結果、抵抗力が付いて病死する鶏が激減したという。また比内地鶏はストレスが味を大きく左右するというので、直営農場では、放し飼いの比内地鶏にモーツァルトなどのクラシック音楽を毎日聴かせて育てている。その結果、鶏は喧嘩をしなくなり、卵も多く産むようになった。

『愛・地球博』で食を提供
親子丼  新たな取り組みとして、東京近郊の小田急線沿線エリアで「親子丼」に特化したお店の展開を図っている。またこの3月25日から愛知県で開催されている愛・地球博(愛知万博)の会場内にあるレストラン「アジアンヌードル 麺場【めんば】」で、親子丼とラーメンを提供。名古屋コーチンの本場でも、その価値を証明し、新たな需要を掘り起こしたい考えだ。
 フードビジネスの世界も価格指向で安いものを求める消費者層と本物、安全指向で高くても美味しいもの、良いものを求める層との二極化が顕著に現れているといわれるが、比内地鶏は安易な商業ベースに乗らず、“本物の味”でその価値が認められてきた。全国にマーケットを開拓してきた柳澤さんが見据える次の目標は海の向こうだ。この地で培った地鶏ブランドが世界へと羽ばたくことを夢見て同氏のチャレンジは続く。



CORPORATION DATA
秋田比内や
<本社>
〒018-5337 鹿角市十和田末広字中平61
TEL:0186-35-5779 FAX:0186-30-3351
<秋田比内や大館本店>
〒017-0841 大館市大町21
TEL:0186-49-7766 FAX:0186-49-7767
<村の駅トプカイ>
〒018-5601 大館市十二所字中野96-3
TEL:0186-47-7030 FAX:0186-47-7031
URL:http://www.akitahinaiya.co.jp/