我が社の情報化戦略
-情報化モデル企業育成事業指導事例より-


 県内企業の情報化投資は、バブル経済崩壊後だいぶ押さえられてきたが、パソコンの低価格化やインターネットの普及、西暦2000年問題への対応等が引き金になり、ここ1〜2年積極的な情報化投資が目立つようになって来た。最近の情報化の特徴は、パソコンLANやパソコン通信等のオンライン技術を活用して、これまでの仕事の仕方を大幅に見直し、全社的に情報化を進めようとする点である。
 昨年、当中小企業情報センターでは、情報化によって経営革新を図ろうとしている企業に対して、継続的にアドバイザーを派遣し情報化を支援する「情報化モデル企業育成事業」を実施した。今回は、この事業をきっかけに積極的に情報化を進めている2社を紹介する。

       プロジェクトチーム編成し
        全社的に情報化を推進
              ―秋田酒類製造(株)―

 大きなテーブルを囲み、一つの帳票をめぐって活発な意見が交換されている。「この表は本当に必要なの?、別な表にも同じ項目があるじゃない」「そのデータは壜詰製品部で入力すべきですよ」と言った具合だ。
 秋田市の清酒メーカー秋田酒類製造(株)(取締役社長 野口周治郎氏)は、全国ブランド清酒「高清水」を生産する社員数138名、年商83億円、全国シェア14位、東北1位の清酒メーカー。現在同社では、新しい情報システムを構築するため、社長、各部門の代表者、専任者で構成されるプロジェクトチームを編成し、各課業務の内容や入力作業等の役割分担の見直し、帳票や画面の設計等を行っている。

         厳しさ増す清酒業界
 清酒業界は酒税法の改正や、消費者の清酒離れ、ディスカウント・ストアやコンビニエンス・ストアの台頭による流通機構の変化など、荒波に揉まれる厳しい時代が続いている。
 国税庁統計年報書によると、平成5年度に全国に2,344あった清酒製造者数は、平成7年度には2,293に減少(▲51)、また、販売数量も平成5年の1,362千キロリットルから7年には1,262千キロリットル(▲7%)と大幅に落ち込んでいる。
 また一方では、各地のうまい酒や造りたての地酒を入手したいという声や、潜在している需要に応じるため、蔵元120社、卸売50社、小売店3,000社が加盟する地酒VANが出現し、厳しさが増す環境にネットワーク化で対応しようとする動きもある。

         全社的な経営課題
 現在同社では、オフコンを利用して販売管理を行っているが、システムは古く拡張性も無いことから、システムを抜本的に見直し、変化の激しい時代に対応できる新たな販売管理システムを構築したいと考え、当モデル事業の活用を申し込んだ。
 当情報センターでは、流通業の情報化に詳しいグループCFG 代表 北澤正一郎氏(東京都)をアドバイザーに委嘱し、延べ10日間指導してもらった。
 同社では、1.受注情報管理、2.出荷管理3.経理・財務、4.販社とのオンラインシステムの4点について、重点的に指導して欲しいとのことであったが、これらの問題に取り組む前に捉えておかなければならない全社的な問題(経営課題)と、情報化に関する問題を整理してもらうとともに、それらの解決策を提示してもらった。
 数日に渡る調査の結果、北澤氏は同社の経営課題を下記の3項目にまとめ指摘している。
1)危機感がうすい
 清酒の需要は減少し同社の売上高も伸び悩むなど、予断を許さない状況になっているにも拘わらず、危機感があまり持たれていない。
2)12社体制の弊害が潜在している
 同社は昭和19年に「国家総動員法」により当初24名(現在12名)の創業者によって設立されたが、現在も、営業部・製造部などの各部門を創業者12家の出身者が担当している。このため、人事の硬直化や全員合意による決断の遅れ、縦割りの弊害等が散見され、このままでは危機管理や様々な変化への対応に遅れをとってしまう心配がある。
3)情報化が遅れている
 明らかに「非効率的」「コスト高」「迅速でない」処理が行われており、激変する環境変化のスピードに追い付いていけない。
 この3つの経営課題は、「危機感がうすい」ので「12社体制の弊害が潜在している」のにそのままにしている。「12社体制の弊害が潜在している」ので「情報化が遅れている」。「情報化の遅れをそのままにしている」のは「危機感がうすいためだ」の様に、お互いに関連を持っていると北澤氏は指摘する。

       経営課題に対する改善案
北澤氏はこれらの経営課題に対し、下記の提案を行っている。
1)危機感の薄さに対する改善案
 現在、清酒製造業界が厳しい中にあって、同社は利益を出しており、社員の給料も高いレベルにある。従って「危機感が不足している」という経営課題は馴染みにくいテーマであるが、「他社が仕掛けてきている」現実を直視すべきである。
 意識改革や視野を広げるために、外部のデータをもっと集めたり外部の研修会等に参加したり、人員配置の見直しを行うなど、あらゆる面で意識改革を課題に掲げていく必要がある。
2)12社体制の弊害に対する改善案
 同社はこれまで、新規工場建設や「東京ローラー作戦」など、先見性のある大きなプロジェクトを幾つかこなしている。こういう大きな計画を実現するために、背水の陣の状態にすることが12名をまとめるコツ。今回の情報化もそのような位置付けにすべきである。
3)情報化の遅れに対する改善案
 現在、同社が行っている情報化は、全社的な視野で組み直す事が必要。「メーカー、卸、小売が一体となってお客様に対応する必要がある」と言われている昨今において、現状ではその役割を果すことができない。早急に関連企業や主な取引先との間にネットワークを構築するくらいの情報化を実現すべきである。効率化や迅速な処理、コストの削減のためには情報機器は必要。同社の場合は、情報化を実現させる体質は充分あるので、あるべき姿を策定し継続的に取り組むことで見込める効果は大きいとしている。


プロジェクトチームの検討風景

       情報化に関する問題点
 また、情報化に関する問題点としては、下記の事項を指摘している。
1)各担当者に「積極的にコンピュータを活用し事務処理を改善していくのだ」とする認識が低い。
2)コンピュータの活用についての学習がなされていない。
3)事務処理コスト削減(固定費削減、販売管理費削減)への認識が低い。
4)コスト・パフォーマンスの考え方が浸透していない。
5)事務処理の迅速化やコストの削減が時代の要請となっている中にあって、旧態依然の感覚で事務処理が行われている。
  そして、現状のままで業務をすすめると、
1.迅速に経営内容(財務内容等)が把握できない ため、突発的な問題(取引先の倒産、社内事故の発生、地震などの災害等)が発生した場合に対処(Action)が遅れ、大きな問題を発生させかねない。(経営管理サイクルPlan=Do=See=Action」のSeeが遅いため、Actionがおこせない)
2.各部署の状況を把握するのに時間と労力を必要とするため、ビジネスチャンスを逃したり、危機を回避することが難しい。
3.今以上に高いコストの事務処理体制を作ってしまう。

        情報化に関する改善案
 北澤氏は同社の情報化について、「あるべき姿」と「直ちに実現すべき姿」および「その中間」の3つに分け、段階的に進めることを提案している。
 この理由は、同社は今まで情報化が遅れていた分、慣れておくべき事柄や行うべき事項が多く、一気に「あるべき姿」に到達することは難しいと判断したからだ。また、第3ステップでは可能な 限り「計算や事務処理の効率化」のレベルを越えて、戦略的な展開レベルの情報化を実現すべきだとしている。
 基本的には、第1ステップにおいて先ずは販売管理システムを構築するほか、資材部、経理部、総務部はパソコンにより部内業務の効率化を進め、第3ステップ段階で社内LANによりそれら情報の統合化を進めるべきであるとしている。

        第3ステップ
     (あるべき姿:2年以内)

    社内外とのネットワークによる処理
    (ネットワークを活用する情報化)
        第2ステップ
        (1年以内)

 媒体を使用した部門間のネットワークによる処理
 (フロッピーによるデータ・情報のやりとり)
        第1ステップ
    (直ちに実現すべき姿:6月以内)

   情報機器(コンピュータ)を利用する処理
  (いくつかの部門の業務処理のコンピュータ化)

       受注センターの設置を指摘
 北澤氏は、各部署が行うべき改善案も具体的に提示しているが、特に大きな指摘事項が受注センターの設置である。これは、現在営業部で行われている受注業務を、壜詰製品部に移す事によって、受注担当者の在庫把握が迅速になり大幅な生産性の向上が期待されるというもの。センターの設置には、クレーム処理対策や営業担当との情報交換など解決しなければならない事項も多いが、大きな効果を生むと指摘している。

 同社では、今回の指導を受けてこれまでプロジェクト検討会を6回開催、第一ステップ到達を9月に設定している。全社一丸となっての取り組みだけに、情報化以外においても大きな効果を同社にもたらすものと思われる。

       後継者自らがシステム開発
            ―三和コンクリート工業(株)―

 「日常業務の中でのシステム開発なので、苦労しています。開発ノウハウがないので一から勉強しなければならないし、近くに指導してくれるところが無いので大変です。」「でも、今回の指導があったお陰でスムーズに情報化を進めることができました。開発に取り組むことによって、会社の業務の流れが見えてきましたし、社員とのコミュニケーションも取れたような気がします。できれば、指導期間をもっと長くして欲しかったですね」と語るのは、羽後町にある三和コンクリート工業(株)(代表取締役 金祺次氏)の二代目金孝行氏。
 同社は、積みブロックや側溝、マンホール側塊等のコンクリート製品メーカー。昭和43年に社長の金祺次氏が創業して以来順調に業績を伸ばし、現在社員数45名、年商7億6千万円をあげる中堅の企業である。また、昨年には間伐材を原料にしたコンクリート化粧型枠「ウッド・カット」の製品化に成功し、積極的に多角化を進める企業として県内外から注目を集めている。


三和コンクリート工業(株)

       原価管理に力を入れる
 コンクリート業界は、伸びが見えない公共工事、県外企業の参入など業界の競合は激化する一方である。当社は競争時代に生き残るため「コストの削減」をここ数年来テーマに掲げ、原価管理の充 実に力を入れてきた。一方、平成5年に約600万円をかけてオフコンを導入し、仕入、販売、給与計 算に活用してきたが、その内容は充分なものとは言えなかった。
 そこで、現在コンピュータ処理している管理の充実と生産管理のコンピュータ化を進め、それら管理と原価管理を連携させた情報システムを構築することによって、戦略的な営業展開や生産性の向上を図りたいとのことであった。

        全社的な経営課題
 生産管理システムや原価管理システムの構築には、生産管理はもちろんのこと経営管理やシステム開発のノウハウを必要とすることから、当情報センターでは鹿角市の精密板金メーカー十和田精密工業(株)常務取締役工場長 畠山有正氏をアドバイザーに委嘱し、三和コンクリート工業(株)を指導してもらうことにした。
 指導は秋田酒類製造(株)と同様に、全社的な課題と情報化に関する課題を整理してもらい、それらの課題について改善案をアドバイスしてもらった。指導は延べ10日間行われたが、内3日間は孝行氏へのシステム開発の指導に当てられた。
 畠山氏は、全社的な経営課題として下記の事項を指摘している。
1)後継者の経験が浅く経営参画が難しい
 後継者が後を継ぐべく入社したが、経験、実績とも浅く、問題意識はあるものの経営に切り込んで行けない。
2)在庫が非常に多い
 保有在庫が数量・金額ともに非常に多く、在庫管理コストの増大や、生産性の低下を招いている。
3)生産計画に問題がある
 受注に促した計画的で効率的な生産計画が立てられていない。また、営業部隊と生産部隊の連携が充分取れていない。の3点を特に強く指摘している。

       経営課題に対する改善案
 そして、これらの課題に畠山氏は下記のようにアドバイスしている。
1)後継者自らが自社の情報システムを開発すること
 企業の情報システムを構築することは、企業の経営管理システムを構築することと同じである。また、システムを構築するには、社内の色々な情報を収集しなければならず、現状の社内の仕組みや問題を把握するまたとない機会である。
 更に、社内開発はシステムのヴァージョン・アップを恒常的に行える上、一度ノウハウを身に付ければ開発コストは非常に安く済む。
2)販売促進等により在庫を処分すること
 在庫の負担を数字でハッキリさせ、不動在庫については経営者が処分価格を決定し処分に踏み切ること。また、在庫置き場の区分けを明確にし、棚番管理を行うこと。
3)生産計画の立案方法を見直すこと
 生産計画を立てる人、情報源、決定権等を見直すこと。受注・生産・在庫を天秤にかけコントロールする経営管理システム(情報システム)を構築することとしている。

       情報化に関する問題点
 また、情報化に関する問題点としては、
1) システム上にはある程度必要な処理および帳票類は揃っているが、コンピュータの力を一番発揮できる受注処理がない。また、在庫管理システムはあるものの、定期的なデータ更新が行われていないため、結局手書きで在庫を管理している。
2) 請求処理を日時処理ではなく、締日間近になって処理しているなど、常時処理を行う躾がなされていない。
3) コンピュータを活用する人たちが、システム全体の流れを理解していない。
4) 蓄積されたデータを予測データとして活用するなど有効に活用していない。
5) 現有のコンピュータは、システム上多くの問題を抱えている。主な問題は下記のとおりである。
 1. メモリー容量が足りない。
 2. 拡張性のあるファイルレイアウトになっていない。
 3. 現在のシステムを拡張しようとした場合に多額の経費がかかる。
 4. データの信頼性は高いが、拡張性が低い。
 5. 開発言語がCOBOLのため簡単に開発できない。

        情報化に関する改善案
 畠山氏は、上記の理由から現状のシステムによる開発は、デメリットが多いと判断。パソコンLANによる自社開発が妥当であるとし、その内容はシステム開発に当たる孝行氏と検討し下記のようにした。
1. 当初開発するシステムは、孝行氏が現在担当している営業業務とし、見積り、受注、納品、請求業務とする。
2. 開発する言語は、リレーショナル・データ・ベースとして最も普及し、しかも、廉価なマイクロソフト社の「アクセス」を採用する。

今回の指導により導入したパソコンLANシステム


システム開発を進める孝行氏

         7月から稼動予定
 現在、孝行氏はこれまで原価管理によって求めてきた製品別の製造原価等のデータを取り込んだSANWA.TSS(三和・トータル・サポート・システム)(見積積算・受注管理・販売管理等)を大方完成させたことから、7月からテスト稼動させる計画である。また、今年中には生産管理と在庫管理を盛り込み、一段落つけたいとしている。
 一方、在庫の削減について孝行氏は、「現在営業が中心になって在庫削減運動を展開しています。システム的には、受注情報と在庫情報をうまく連携させて、精度の高い生産管理・在庫管理システムを作り、在庫を何とか減らしていきたいと思います」としている。
 日常業務と平行した開発であるため歩みはゆっくりだが、三和コンクリート工業の情報化は一歩一歩着実に進んでいる。高性能なパソコンの普及やより開発し易いソフトの出現によって、同社のように社内で自社用システムを開発するケースは今後益々増えてくるものと思われる。同社の事例はそうした企業に非常に参考になるであろう。

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