企業変革をめざして
公認会計士・税理士 加藤 永久 氏


●中小企業の経営者、負けるな
 バブル崩壊後、日本経済の構造的不況がいわれて久しい。国際的な大競争時代のもと、価格破壊や産業の空洞化が浸透し、かつての高度成長は夢物語と化した感がある。
 とくに、中小企業の現状は厳しい。成長の行き場を失った大企業が、中小企業との共存関係に終止符を打ち始めているのである。流通業ではナショナルチェーンの地方進出が著しく、既存の店では黙っていればどんどん売上が落ちる。製造業においても消費低迷や円高による系列化の崩壊が業績に重くのしかかっている。今後、規制緩和が進めば、旧態依然とした経営ではますます衰退の道を逃れることはできなくなる。中小企業こそが生き残りをかけて企業変革を図らなければならない。
 ところで、中小企業が、資本力があり優秀な人材を集めた大企業に正面切って立ち向かうのは、並大抵のことではない。やみくもに戦いを挑んでも体力を消耗するだけである。しかし、大企業にも弱点はある。@人件費の面など高コスト体質になっているA承認関係が複雑で意思決定に時間がかかるB現場の意見が経営に反映しにくいC責任の所在が曖昧で面倒なことはやりたがらないなどである。マニュアル化されたサービスは提供できても、やはり官僚的で機動性がない。
 中小企業が、この弱点を克服できれば、大企業が対応しきれない分野、サービスへの参入はそう難しいことではない。価格とサービスで大企業を凌げる分野だってある。変革を遂げ、活力ある組織となって一点集中すれば、大企業にも負けない競争力が生まれる。現に成長を遂げ店頭登録をしている企業には、ある分野に特化したスリムな会社が多い。
●リエンジニアリングー顧客志向
 リエンジニアリングは、業務を根本的に立て直すことによって業績の劇的な向上をめざす経営戦略である。リストラに限界を感じた大企業で導入例が増えている。中小企業がリエンジニアリングを実施することはコスト的に難しいが、その考え方は不況に苦しむ中小企業が変革を図るうえで示唆に富んでいる。
1.抜本的改革…積上的な改善ではなく、ゼロベースで目標を設定し抜本的な改革をめざす。
2.顧客志向…顧客満足度を最大にするにはどの業務を重点的に改革すべきかを決定する。
3.プロセス志向…既成の組織や業界のルールにとらわれずに、業務の流れ自体を再編する。
4.権限移譲…人を変革に向けその気にさせる。
5.情報技術の活用…労働集約的な業務構造から情報集約的な業務構造へ変革する。
 顧客のニーズに合わせて組織を作り直していくことが、これからの中小企業に絶対に必要なことではないかと思う。
●信念、柔軟性そして運
 私は、仕事柄、株式公開を果たすような成長企業の経営者とお会いする機会に恵まれている。こわ面、やさ男など表面上はいろいろな人がいるが、共通しているのは、確固たる信念と柔軟性を合わせ持っておられることである。また、驚くほどの情報通が多い。自分の意見は徹底して通すが、手段は柔軟で臨機応変、決して過去にこだわらない。誰から教わったわけでもないだろうが、顧客のニーズに敏感なのである。頑固でいて頭が柔らかいという不思議な魅力がある。
 そして、成長企業の経営者は運を持っている。どのような優秀な経営者をもってしてもつまずく会社がある。大企業でもその人のツキをみてトップを選ぶべきという議論があるくらいである。しかし、成長企業の経営者をみていると、どん欲に自ら運をつかもうとしているという気がしてならない。経営における運は、求めても来るとは限らないが、求めないところには来ないのかもしれない。
 変革を求めない会社には、成長もやって来ないのではないだろうか。
 中小企業の経営者、変革を求めてがんばれ!

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