革新は「しくみ」から

中小企業診断士(商業・工業・情報)
マネジメント・サポート・オフィス

代 表 高橋 正典 氏


 情報化、経済のサービス化の進展で顧客と企業の関係が大きく変わりつつある。情報化の進展により、顧客と企業の距離は接近し、時空を越えて瞬時に情報交換できるようになった。インターネットによるリアルタイム・グローバルな情報交換はこの良い例である。また、経済サービス化も企業と顧客の関係を大きく変容させている。サービスの特質は、生産即消費である。このため、サービスを受ける顧客と顧客と直接接しサービスを提供する従業員の質が顧客の評価や企業業績に直結してきている。このことを簡単に言うと、化けの皮が剥がれやすくなった時代が来たと言えるだろう。経営の本質は顧客の支持であることは、これまでも多く語られ耳にタコがでるほど聞いている。しかし、企業の現場、末端の全員に浸透せず、絵に描いた餅で終わる場合があまりにも多かった。これからのリーダーは本気で、顧客主導で経営の仕組みを作り、これを企業内の隅々まで浸透させ定着させていくことが求められている。しかも、仕組みを上手に動かし、十分な成果を得るためには、従業員の参画などで社員満足を高めながら表裏一体の経営の仕組みを作っていくことが大切となっている。
 経営リーダーに今求められていることは、グローバル規模での情報化、経済のサービス化が急速に進展する中で、企業と顧客と関係が急速に変化しつつあることを直視し、実感することである。これが、企業が今後、展望を切り開けるかどうかの折り返し点となろう。折り返し点を越え、存続や成長を可能とする条件は、経営リーダーが、顧客の期待・要求を経営に正確にしかも素早く取り込み、顧客の満足を高めていく「経営のしくみ」を構想、設計し、構築に際しても積極的に関与し、絶えず仕組みをレビューし、この仕組みの上でリーダーシップを発揮していくことである。顧客志向の経営のしくみを作るためにリーダーがまずなすべきことは、次ぎの4点に要約されよう。
(1)顧客の評価に影響をする要因を全て洗い出す。
(2)洗い出された顧客評価要因を重要度、緊急度で評価する。
(3)優先順位を決め、取り組むべき重点課題を明確にする。
(4)取り組みの状況や効果を把握する測定尺度を設定する。
 多くの企業に先行き不透明の閉塞感が漂っている。これは、取り組むべき優先課題を決めあぐねているためである。自らの優先課題を明確に出来ない企業が、その存在基盤を失うのは、古今東西のならいである。重要度や緊急度の評価のベースとなるのは、その企業が持つ経営理念である。顧客と企業との関係が大きく変容している今、「顧客が評価するクオリティの実現」を経営理念として、顧客満足と事業成果を実現する「経営のしくみ」を見つめ直すことが大切である。
 ある企業では、取り組むべき経営課題の優先順位を決めるために、外部の第三者の意見を聞くことを重視している。以前は経営者がひとりで重点課題を決めていたが、絵に描いた餅に終わることが多かった。今は、決定までのしくみを工夫し、数名の経営幹部に外部の第三者を加えて信頼性の高い情報を得て、客観的なアドバイスを活かして決定している。この結果、第一線の実行が伴うようになり成果に結びつく割合が高くなっている。これは、市場や顧客の期待や要求を第三者を通じて冷静に把握し、重要な政策や戦略に取り込む工夫をすることで、経営者自身が「リーダーシップ発揮のしくみ」を自ら改善した良い例である。また、パートタイマーを主力とするある企業では、直前の休日申請や当日の急な欠勤が多く、その都度、店長や売場主任が入荷業務や商品補充、レジの精算業務に忙殺され、本来業務であるP0Sデータの活用、販売促進やイベント企画、商品企画に本腰を入れて取り組めない状況にあった。時折、できるだけシフト計画に従って出勤するように要請してもなかなか改善しなかった。そこで、職場単位で「1人当たり勤務シフト修正回数」を測定し張り出すことにした。修正回数が少ない職場を商品券付きで月間表彰する工夫を加えたこともあり、修正回数は激減し、店長や売場主任は本来業務に専念できる状況となっている。これは、職場に明確な測定尺度を設定し「基幹業務のしくみ」を変えた良い例である。

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