情報化社会に耐えうる人材教育の重要性

−人をみがき仕事の質を高める−


株式会社ドゥファイン

代表取締役 恩田 昭子 氏


 「テレマーケティング」という専門分野で故郷秋田県の役に立ちたいと考え、この2月ある計画を携えて県庁を訪れた。「コールセンターを秋田県に誘致する」という、プランである。今、首都圏に本社機能を持つ多くの企業は、「顧客接点の強化・拡大」を重要な経営課題に掲げている。これを実現するのがテレマーケティングの導入であり、コールセンターの構築である。顧客の開拓や接触機会の拡大に、電話の持つ威力を最大限に活用することでビジネスチャンスを獲得し、またそれらを継続していくことで顧客データベースを蓄積し、次世代の営業へつなげていくことができるのである。この誘致プランのもたらす効果は絶大で、秋田の永遠の課題である「雇用機会の創出」に直結するし、情報化社会の基盤となる「情報集中化の恩恵」にもつながる。しかし、このプランは、ほかの県の施策になってほしくないと願いながら、まだ私のカバンの中に眠っている。
 このようなことに始まり、ここ数ヶ月秋田のビジネス展開で感じたことは、秋田の人々はビジネスの拡大に必須であるチャレンジ精神とサービス精神をどこかに置き忘れてしまった、ということである。泊まったホテルでは、オープン早々とはいえ外線利用方法の問合わせと表示が全くの不親切。県外のお客様をもてなすための秋田名物を取り揃えた店も実に事務的な給仕、食事の電話予約も満席との事実説明だけで終わり。
 仕事のプロとしてお客を満足させる言葉の一つも出てこないのか、と言いたくなる。しかし、この人たちの怠慢と責めてばかりはいられない。経営者が、サービスの意味と重要性をわかりやすく社員に示し、人が代わっても質の高いサービスが継続出来るように、応対内容をマニュアル化しておくことが、品質維持にはとても重要である。さらにそのサービスを表現する人間に対しては、持ち前の人間性、スキルに磨きをかけて人前に出すための「教育」という最終仕上げが必要である。
 情報化社会がもたらす最大の変化は、「人がおこなうことに価値のある仕事」が一層クローズアップされ、人の力が必要ないものは、全てコンピューターにとってかわられる、ということである。従って、経営者がおこなうべきことは、人間でなければ出来ない仕事が、今以上に重要視されることを真摯に受け留め、人材教育の手を緩めないことである。情報化が進むほど、勝敗を決定づけるのは「人の力」にあるということを再認識しておきたい。
 折しも9月、秋田地区の電話応対コンクールの見学がかなった。長年この分野には情熱を持って取り組んできたこともあり、秋田の大きな課題をまた一つ発見した思いである。企業の代表選手が日頃の電話応対レベルを競い、企業全体の応対向上に寄与するという重要な目的を担っているコンクールである。「電話応対に、その会社の姿勢と質が見える」ということは、数多くの応対診断から得た結論である。従ってこのような機会を通じて、ビジネスの場における言葉の大切さや、話し方の影響力に気が付き、レベルアップを図ることは、大変意義深いことである。美しい言葉を話すことで、間違いなく行動が変わり、即ち商売にも多大なプラスをもたらす。わかりやすい例をあげれば校内暴力もしかり。先生のことをセンコウなどと呼ぶから暴力が増えるのであり、先生と呼んだら握り拳を振りかざすことなど到底できない。秋田県が目指す応対レベルの指針を示していくのがコンクールの理想であり、そのためには、いい応対をたくさん聞かせることも大事である。
 経営者も不景気だと嘆く前に、社員の電話応対に耳を傾け、お客様が満足できる応対がなされているかを把握してほしい。そして「人間の価値が見える仕事ぶり」でなければ、企業人として、存在価値のない時代であることを折にふれ話していくことが、必要ではないだろうか。
 急速な情報化は、間違いなく時間と距離を越えてパーソナルコミュニケーションを促進する。「日本」に止まらず、「アジア」のコールセンターを「秋田」に誘致する、というプランが実現したら、秋田がアジアの中心になる可能性も、十分考えられるのである。
 潜在的魅力にあふれた“秋田”だからこそ実現できることを一日でも早く発見し、微力ながらも郷土の発展に貢献したい、と願っている。

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