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リーダーシップとは何か

中小企業診断士  本間 良一 氏


謹啓 社長様
新年あけましておめでとうございます。
 貴社のますますのご発展を心からご祈念申し上げます。
 早速ですが「目標達成のために、社員の気持ちを一つにまとめることは難しい」と 日夜腐心しているあなたにとって、うってつけの話しと思いますのでここでご紹介 しましょう。
 この話しを伺ったのは昨年のこと、この若社長は、前社長の父を突然亡くし、父の跡を継いだのですが、もとより経営については経験が不足、社員との信頼関係も不十分と、不安がいっぱいの状況でした。よくいうことですが、“子は親の背を見て育つ”といっても彼の場合、親の背から学ぶことはなかったと言います。
 この若社長に私は言いました。「リーダーとしてほんとうの意味でリーダーシップを発揮すれば組織は変わりますよ。野球だって、サッカーだって、ましてや会社組織は変わりますよ。あなたはリーダーになったのだから、リーダーとしての人格をもつ事ですよ。それにはどんなささいなことでも何かをしてみせて、若社長やるな、という事実を見せる事ですよ。」
 私は、彼に1つ、2つの具体例をあげて彼の実行を促して別れました。3ヵ月後再び彼と会う機会を持つ事が出来ました。会って驚いた事は、もともと勉強家であった彼は一回り大きくたくましく、自信に満ちた面差しで現われ、「自信がつきました。社員がついて来てくれる確信を得ることが出来ました。」りりしい若武者にも似た姿が今も目に浮かびます。この若社長のした事はこうです。彼は翌日から朝早く出勤して、仕事をする前に一人で男女のトイレ掃除をはじめたそうです。2、3日すると、誰がいうともなく、男子3人が参加し、5人が出て来る、そうしているうちに、女子の方も気づいたらしく2、3人と参加してトイレがいつの間にかきれいになったといいます。若社長は、社員を引っ張っていく自信を付けたその余勢で、頓挫していた5S活動(整理、整頓、清掃、清潔、躾)もすぐに復活させるなど、新しい動きを社内に創ったということです。
 これがリーダーシップですよ。自分が変わらないでいて、人を変えることは極めて困難だと思いますよ。
 小生の大好きな人、元師山本五十六さんは、言っています。「してみせて、言ってきかせて、させてみて、ほめてやらねば人は動かず」とな。
 これですよ、リーダーは。人の動きを待っていても問題の解決は図られませんよ。
 自ら動いて、他を動かす力のある働きをするこれがリーダーシップではないでしょうか。
 もう一つ話したことは、社員の気持ちを、力を束ねる道具は何か。小生は桃太郎さんの話が大好きです。非常にわかりやすいので紹介しましょう。
 桃太郎は鬼ヶ島へ鬼を退治に出かける。目的がはっきりしている。しかし自分一人では目的を達成することが出来ない。お母さんがつくってくれた「一つ喰べれば十人力の日本一のきびだんご」を「犬」「猿」「きじ」の三人に与えて信頼関係をがっちりと結んだ。島へ着いて、「きじ」に城の様子(情報)をさぐらせたら頑丈な錠で門が開かないという。それを聞いた「猿」は、すかさず俺がいくと言ってするすると登って門を開き、「犬」はかみつき、「猿」はひっかき、「きじ」は空からつつきと大暴れで鬼退治をするという昔話ですが、桃太郎社長の偉大さは、自分にない力を外から借りる、協力者を集める、それぞれの役割分担を明確にする、しかも犬猿は仲悪の代表格に例えられるほどの仲ですが、これらを集団の力として発揮できるようにまとめるリーダーシップの確かさだと思います。
 昭和の時代、経営の神様と言われた松下幸之助さんも言っていますが、自分は体が弱かったので他人様の協力が目的(志)を達成するために必要であった、これがうまくできたので今日があるのだ」と。
 組織のリーダーシップは目的をはっきりする、社員との信頼関係をきちんと構築する、伸び伸び安心して働きがいのある環境を作ることが必要のようです。
 長々となりました。どうですか。勉強家の社長ですからご叱声がありそうですが、それはまた、お会いの節お聞かせ願えれば幸いに存じます。

十年一月一日

敬具

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