ビール起業寸感

清酒「高清水」醸造元
秋田酒類製造株式会社 取締役

秋田地ビール「あくら」醸造元
株式会社あくら 代表取締役


ビアテイスター/マスターイバリュエイター(JCBA/シーベル醸造科学技術研究所認定)       高堂 裕 氏



 桜の季節を迎え、昨年初冬にビール醸造会社を立ち上げてより、早や半年が経ちました。「地ビール」という判ったような判らないようなものの定義はおろそかにしながら、慣れない起業実務に追われたその半年を思い起こせば、資金調達や経理処理、人事や交渉事の経緯諸々が我が心身を鞭打つ段、非常なものがあった気が致します。およそビールを造る「楽しい苦しみ」に比べ、それらは何ともしんどいことでした。多くのシュールレアリストたちがいうように、不安や恐怖が人をつくり喜びが人を鍛えるとしたら、まさにそのような日々でした。そして自らは出来得ぬ多くのことを代わってしていただく人に恵まれた果報をしみじみ有り難く思っております。
 さて、一昨日上京の折り某氏と銀座の氏の店(所謂「毎日行列が出来る店」ですが)でお話を聞いたのですが、彼曰く、「店が巧くいくか否かは、事業開始前にその店の賑わいぶりを十全にイメージ出来るかに懸かっていて、集う顧客や飛び回る従業員の顔、仕草、内装や運営システムの隅々までをありったけの想像力で考える。最初の店は自分も厨房に立ち無我夢中だったが、20店を越えた今、約月一のペースでの出店はそのイメージ力無しでは不可能と思う」。
 イメージ力というものは、現実把握能力と密接な相関関係にあるものですから、氏も地域リサーチや自己分析を十分にしておられる訳ですが、それら情報や計数を具体的イメージとして結実しうる能力こそが氏の現在をあらしめていると思ったことでした。
 翻って我が身を思うとき、ビール醸造についてはどうにか頑張っているなァと「自分を少し誉めてやりたい」のですが、こと肝心な販売や経営となると、融資担当者殿がよくぞお貸しくだされたと思わざるを得ません。
 未来に向かって自らを鞭打ち、多くの方々の更なるご指導を虫良く願っております昨今でございます。

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