より高いところに向けての挑戦と革新
〜「秋田ものづくりビジョン」に思う〜

財団法人 秋田経済研究所
専務理事・所長
 高橋 庄四郎 氏


 本誌「企業情報秋田」3月号の特集で、「秋田ものづくりビジョン」(資源依存型からプラスアルファ型産業構造へ)最終案が掲載されております。
 2年がかりで進められたこの策定作業に委員として係わった立場から、進行過程の舞台裏模様や感想を若干報告致したいと思います。
 検討母体である「秋田県工業技術振興会議」はH9年7月14日を第1回にスタートしました。産業委員会(電気・電子、機会、アパレル、食品加工、木材木製品、情報処理、企画・デザイン制作、電子応用の各分野)を始め、学識経験委員、行政機関委員(県商工労働部、公設研究機関)の所謂、産・学・官による構成です。
 一貫して最も印象深いのは、夫々の立場で、歯に衣を着せぬ自由活発な議論、行政に対する要望ないし意見交換の中で、素案づくりの姿が出来上がっていったことです。特に、業界の現場で毎日鎬を削り競争に挑んでいる産業委員からの単刀直入な建設的意見が、ビジョンに大いに反映されたと思っています。
 併せて、行政や公設研究機関、大学等機関からの業界の現場の立場に立った対応、アドバイスが一層中味の濃いものにしたと思います。
 さらにつけ加えたいのは、県内全域にわたる444社に及ぶ各業界分野の企業に対して行なった現状認識のためのアンケート実施とそれをタタキ台とした、縦割りの「業種別研究会」、共通した横割りの課題をテーマとして「横断的調査会」(新規産業、産学官連携、情報化、国際化の各分野)による掘り下げが、ビジョンづくりの作業を机上プランでなしに、より地に足のついたものにしたと思います。
 要は、ビジョン・計画の着実な実行、フォロー、評価が最も肝心なところで、21Cに向けて、今後に期待したいと思います。
 踵を返すようですが、先程ふれたアンケートの内容から「経営者が抱いている戦略上の課題」を拾ってみました。
 業種によって、順位が若干入れ替わっていますが、全体として、意見の多い順番で列挙しますと、(回答は、複数回答、上位5つ)
(1)生産管理体制の強化(64.3%)
(2)優秀な人材の確保、人材の育成能力のレベルアップ(62.0%)
(3)自動化・省力化の推進によるコストダウン(60.7%)
(4)販路の拡大、営業力の強化(49.2%)
(5)従来の技術の応用範囲の拡大等技術の汎用化(46.6%)
(6)人員のスリム化(38.0%)
(7)受注業務の内容、範囲の拡大(32.8%)
(8)従来の技術を専門、特殊化させ特殊分野への専門化(27.2%)
(9)物流コストの削減(26.2%)
(10)新規事業分野への進出、事業展開(21.6%)等です。
 いずれの戦略をとりましても、優劣のない重要戦略であり、ビジョンにうたっている「付加価値倍増」に向けて欠かせない、強化すべき項目と言えます。
 「技術面」では、47.9%の企業が「得意技術を保有している」と回答しております。しかし、「特にPRしたい技術はない」が75.1%もあるのは、謙遜しているのでしょうか。それとも引込思案でしょうか。
 「新規分野への進出」については、56.8%の企業が必要としており、自社の技術の応用をその柱に据えて考えております。
 競争力のある自社のコア技術のスキルアップが大切と思います。
 また、「将来の研究開発部門の設置」については、「予定あり」が10.8%で、「予定なし、どちらとも言えない」が大半の89%となっており、独自で、研究施設、要員を抱える難しさをうかがわせます。
 しかし、研究開発費については、「伸ばしたい」という企業が41.3%に及び、何らかの形で研究開発に積極的に取り組んでおります。
 この誌面では、全てを伝えることが出来ませんが、自社企業だけの力には限界があります。そのことから、行政、各公設研究機関、大学、中小企業振興公社、中小企業情報センターなど各種支援センターによる経営資源を存分に利用することが必要でないでしょうか。

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