タイトル-経営さぷりメント
ビジュアルな会計のお勧め 税理士 武田 亨
 8年ほど前のベストセラー、京セラ創業者の著した「稲盛和夫の「実学」」(日本経済新聞社)の帯に「会計がわからないで経営ができるか」というコピーが踊っていた。我々会計に携わる人間にとっては、まさに我が意を得たりというところであった。「会計は、経営に役立つ」という当たり前のことを、お客様である経営者に今ひとつお伝えしきれずにいた私に、確固たる自信と勇気とを与えてくれた言葉(お墨付き)だった。
 にもかかわらず、会計は、かわいそうなことに、現場の経営者からは相変わらず敬遠されている。毛虫のように忌み嫌われているように思われる。これは、会計情報が、経営に直接お役立ちできるようには、提供されていないからである。即ち

(イ)提供されるタイミングが遅すぎる。
(ロ)数字の羅列にしか見えず、わかりにくい。わけが分からない。
(ハ)過去の数値の分析だけで、これからどうすればいいかのヒントになっていない。シミュレートできない。

等々の理由による。従って、

(イ)翌月5日位には提供できるように、月次決算の体制を整備する。
(ロ)数字を加工し、図や表を使ってわかりやすくする。
(ハ)現状の分析と共に、これから会社をどう導いていけばよいのか、そのための数値はどうなっていればよいかをシミュレートできるようにする。これによって、これから行うべきアクションプランのヒントになりうる。

以上のように会計情報システムを構築し、会計情報の提供がなされれば、なるほど「会計は、経営に役立つ」ものなんだということになろう。
2 シンプルとト−タル
 これからご紹介する <ステップ式PQ図(変動損益計算書と簡易キャッシュフローシート)> は、まさに経営に役立つ道具である。非常に単純で、かつ、将来のキャッシュを総合的に把握することができる。経営者のなかには、

(イ)複雑なことが役に立ち、単純なことはあまり役に立たない。
(ロ)ものごとは専門化(細分化)していくほどうまくいく。

と考えていらっしゃる方々が多いが、これは、大いなる誤解と言って良い。私は、

(イ)Simple is best (シンプル イズ ベスト)
  単純化した情報ほど、社員に速く正しく伝えるのに有利である。
(ロ)経営はトータルで考えた方がうまくいく
  会社で行われている会議は、売上の話も、原価の話も、人事労務・人件費の話も、経費の削減の話も、設備投資の話も、銀行借入れ・金利の話も、それぞれの分野ごとに議論されていることが多い。しかし実際の会社の活動は、実はこれらがすべて連動しているので、全体を見渡すことができて初めてうまくいく。部分最適よりも、全体最適が優先される。

と考えている。
3 ステップ式PQ図による利益計画の策定
 それでは、経営に役立つ会計の最強の道具である<ステップ式PQ図(変動損益計算書と簡易キャッシュフローシート)>を使って「利益計画」を策定してみよう。
☆増やしたい資金から見た利益計画の策定
ステップ式PQ図
A 利益計画の策定手順
(1) 増やしたい資金の額(設備投資・内部留保) 2,400千円と借入返済額 4,800千円 を記入
(2) 価償却費 3,000千円を記入し、(1)の合計から減価償却費を差引いて税引後利益を算出
(2,400千円 + 4,800千円)− 3,000千円 = 4,200千円
(3) 税金(法人税等の税率50%として)として、税引後利益と同額 4,200千円を記入
(4) 税金と税引後利益を合計して必要な経常利益を算出し、
4,200千円 + 4,200千円 = 8,400千円
人件費(ヒト) 28,000千円
その他(モノ) 16,600千円
減価償却費 3,000千円
固定費 計 47,600千円 を記入
(5) 固定費計と必要な経常利益とを合計して必要な粗利益を算出
47,600千円 + 8,400千円 = 56,000千円
(6) 必要な粗利益を粗利益率で除して必要な売上高を算出
56,000千円 ÷ 80% = 70,000千円
B 利益計画の妥当性のチェック
(7) 人員 6人 を記入
(8) チェック項目
(イ)一人当たり年間粗利益(前期より↑か)
56,000千円 ÷ 6人 = 9,333千円
(ロ)一人当たり年間人件費(前期より↑か)
28,000千円 ÷ 6人 = 4,666千円
(ハ)労働分配率<ヒト分配率>(前期より↓か)
28,000千円 ÷ 56,000千円 = 50%
(ニ)損益分岐点比率<F分配率>(前期より↓か)
47,600千円 ÷ 56,000千円 = 85%
C ポイント
(i)
  • この計画は、当期の経常利益により、長期借入金の元本を返済し、かつ、資金を増加させることができるようになっている。
  • 会社は、平常時でも、新規の設備投資をするときでも、あるいは再構築をはからねばならないときでも、「当期の経常利益から、長期借入金の元本を返済できる状態にあること」が非常に重要である。
  • G − G × 50% + 減価償却費 > 長期借入金元本返済額
     これを超えた部分が増加資金である。
(ii)
  • 利益計画は、売上から考えるのではなく、増やしたい資金と借入返済から考えた方がスムーズに策定できる(後ろから決定していく)。
  • 増やしたい資金を決定すると、今期の予定額は、前期の数値を基礎として、ほぼ自動的に予想できる。
(iii)
  • 一度たたき台を策定し、チェックをし、何度もシミュレートしながら納得できるまで繰り返す。
(iv)
  • なお、今回は、*必要運転資金についての説明は省略した。
 どうか、<ステップ式PQ図>によって、「利益計画」を策定していただきたい。
そしてさらにそれを「経営計画書」としてまとめていただきたい。
 「目標とは夢に日付と数値を入れることである。」
 「人間というものは、目標があると、それに向かって努力するという不思議な動物である。」
参考文献;
 (1)稲盛和夫著「稲盛和夫の実学−経営と会計」日本経済新聞社
 (2)西順一郎・藤井義信著「人事屋が書いた経理の本2上、下」ソーテック社
 (3)和仁達也著「脱★ドンブリ経営」ダイヤモンド社
 (4)一倉定著「一倉定の経営心得」日本経営合理化協会