タイトル-経営さぷりメント
起業家のためのゲーム理論(前編)競争の本質
 経済活動は、好むと好まざるとに関わらず、競争に直面しています。ですから、競争の本質を正しく理解し、不必要な対立にまで競争が発展しないように努力することは有益なことです。
 今回は、「ゲーム理論」の考え方を用いて、競争の本質を考えましょう。
 「ゲーム」にはいろいろな意味がありますが、ここでは「自分がある行動をとろうとするときに、他の人が自分の行動にどう反応するかを考えに入れながら、自分がとる行動を決めること」であるとします。「ゲーム」においては、相手も自分と同じように、「自分がこうしたら相手はこうするだろうから、こうしよう」と考えています。
次の例を考えてみましょう

例:

 あなたは、得意のIT技術を活用して「海テクノ」社を設立した。学生時代のライバルである山田君がやはりIT分野で「山ソフト」社を始めたことを知った。両社は同業ではあるが、使っている技術や業務範囲が少し異なっている。

 共通の恩師から、中堅商社の「ジュピター物産」がIT分野でアウトソーシングする計画があるという情報をもらった。当然、山田君もこの情報を知っているはずだが、まだジュピター物産に働きかけてはいないようだ。ジュピター物産もこの件を公にしていないので、どの企業もアプローチしていない。

 受注の見込みは次の a〜d の4つのパターンが考えられそうだ。
受注見込みの考えられる4パターン
 さて、あなたはどうしますか? 単独受注をもくろんで「ジュピター物産」にアプローチしますか? 
 それとも「山ソフト」と共同企業体を結成しますか? 
 自分が考えているように山田君も考えていますから、そのことも忘れずに。

 これは、「囚人のジレンマ」と呼ばれるゲームです。この例では、あなたと山田君が連携して「共同企業体を結成する」こと(aのケース)が最も有益であるはずなのに、お互いに相手を出し抜こうとして個々に「ジュピター物産」にアプローチした結果、どちらも受注できなくなってしまいます(dのケース)。

 つまり、連携することがお互いにとって有益であるにもかかわらず、自分の利益だけを追求して相手を出し抜くことを選択し、お互いにとって不利な状況になってしまうことを示しています。

 「囚人のジレンマ」は、ゲーム中に連携する要素のないゲームの例なのですが、状況を変えることによって連携することが可能になります。次号では、競争(コンペティション)から連携(アライアンス)に移行するために必要なことについて考えます。
 ここで宿題です。
 探検家たちや他の商人がどう動くかを考えに入れながら自分の行動を決めて下さい。次号で解答と解説をします。

問 題 :

 商人が5人、探検家が5人(アダム、ベッキー、チャーリー、ドナルド、エミリー)います。探検家は冒険の末にそれぞれ同じように見える宝石をひとつずつ手に入れて、それを売ってもよいと思っています。商人は探検家から宝石をひとつ買ってお得意さんに売り、ひと儲けしたいと思っています。

 商人達が見るところでは、アダムの宝石が最も良質で他の探検家の宝石は似たり寄ったりです。宝石の値段はどれも大差ありませんし、交渉しても探検家が値段を変えることはありません。ただし、探検家は皆とてもプライドが高くて、それぞれ自分の宝石が一番いいと思っています。探検家の機嫌を損ねると取引にならないでしょう。

 商人と探検家はある街の広場にいて、探検家たちはばらばらに広場の一角に座っています。商人は、それぞれ探検家の1人に商談を持ちかけます。どの商人がどの探検家と会っているのかはひと目でわかりますが、会話の内容までは聞こえません。

 商人も探検家も個人単位で動きます。もし、あなたが商人の1人だったら、どの探検家のところに宝石を買いに行きますか?
 また、それはなぜですか?