タイトル-経営さぷりメント
契約の基礎知識
1 はじめに
 現在の取引社会は、契約社会だと言われます。取引内容が契約によって決められ、当事者双方の権利義務が契約に基づいて発生することとなるからです。
 経営者の皆さんは、取引内容を定める契約がどういう性質のものであるかを知っておく必要があります。契約は最終的には法律的判断をなされるものですから、契約について一応の心得をもっていて、実際の売買契約等において失敗しないようにしなければなりません。
2 契約とは何か?
(1)一般的に契約というのは、法律上取り上げるのに値する合意をいいます。つまり、法律上のものとして取り上げてよいと判断される合意のことです。
例えば、友人同士で「明日遊ぼう」という合意をしたとしても、このような合意は、通常は、原則として、法律上の契約とは呼びません。法律上の権利義務が発生しない合意にすぎません。
(2) 契約が成立するためには、相対立する複数(2人とは限りません。3人以上の契約も可)の意思が合致することです。
Aさんが『この商品を100万円で売ります』と約束し、Bさんが『100万円でもこの商品を買います』という約束するのが売買をするという合意、すなわち契約ということになります。
(3) 契約は、種々の法的規制は存するものの、私的自治といって、原則として自由な内容で合意できることになっています(契約自由の原則)。
3 契約をするにあたっての注意点
(1)契約の相手方の確認をすること
[1]契約には、当然相手がいますから、この相手に関する確認(チェック)を怠れば、いくら立派で完全な内容の契約をしようと、例えば、売る権利がない人に代金を支払っても不動産は入手できず、お金も戻らないということになりかねません。
特に、見知らぬ人や例えば県外の初めての業者さんと取引をする場合には、注意する必要があります。会社の事務所もなく、単に登記簿上の会社と取引をして、相手方が不在となったり、連絡が取れなくなったりして、商品を売ったものの代金を回収できないという事例、あるいは代金を支払ったのに商品をもらえないという場合があとを断ちません。
初めての業者と取引する場合には、取引相手の事務所を訪問したり、相手方の信用情報を入手するなど契約の相手方をチェックすべきです。
[2]法人(会社も含む)が契約の相手である場合には、誰が代表権をもっているかチェックする必要があります(資格証明書等の確認)。
[3]相手方が本人ではなく代理人である場合は、本人からの委任状を確認(本人への照合)し、代理権の範囲内の取引かどうかチェックした上で契約する必要があります。
(2) 契約書面の作成のススメ
契約は、合意によって成立し、その合意は口頭でも成立しますので、理論上は、必ずしも書面を作成しなければならないというわけではありません。しかし、言った言わないの問題が生じますので、契約は書面で取引内容を定めて合意し、相手方からは、署名と実印をもらうよう心がけるようにした方が良いででしょう。正式な書面を作成できない場合でも、メモ程度のものでもよいので相手方の署名と印をもらっておいたほうが口頭による契約よりは後日の紛争を防ぐことができるでしょう。
(3) 契約の無効や取消の問題が生じる場合もあるので要注意
 [1]契約が成立しても、法がその内容の通り実行されることを認めない場合(無効となる場合)がありますから注意してください。
  (ア)意思無能力者が契約をした場合(認知症で物事の判断がよくできない人と契約した場合)
  (イ)法律違反の程度の強い場合(強行法規に反する場合)
  (ウ)公序良俗に反する場合(民法90条)
  (エ)契約が仮装である場合(虚偽の内容をあたかも真実であるように定めたりなどした場合・民法94条)
  (オ)契約の重要な事項に錯誤(思い違い)がある場合(民法95条)
 [2] 契約が成立しても取消される場合もあります。
  (ア)未成年者の法律行為など
  (イ)詐欺や脅迫を受けて契約した場合(民法96条)
(4)契約書の条項のチェック(契約内容の確認)の徹底
現実の取引社会においては、契約は、合意に基づいて締結されるため、民法で定められた売買契約など典型契約と呼ばれる契約の他にも様々な内容の契約が存します。契約する場合は、これらの契約の各条項について一つ一つチェックしていくことが大切です。契約条項を読まないで、署名や印鑑を押して、後悔先に立たず状態になる場合もあります。逆に、相手方に契約内容を検討させる時間を与えず、取引内容の説明義務があるのに相手方に説明しないで契約書を作成してしまった場合、相手から、錯誤(思い違い)があったとか、騙されたとか言われて、契約の無効や取り消しを主張される場合もあります。
ですから、契約条項は、契約当事者双方が十分に検討した上で契約書に署名・押印する必要があります。
(5)契約条項に疑義や不安が生じた場合は、法律専門家に相談されるとよいでしょう。転ばぬ先の杖として、弁護士を顧問としておいて、契約書を作成するにあたり弁護士と相談できる態勢があればよりベターですね。
4 結び
 いずれにせよ、契約社会といわれる現代社会において、企業人(経営者)としては、盲目的に代表印もしくは個人の実印を契約書に押すことだけは避けて、契約書の条項を十分検討されるよう心がけたいものです。