タイトル-ビジネスレーダー このコーナーでは、積極的な経営展開を図り市場から評価を得ている企業や、商業者の新たな取り組み、アントレプレナー(起業家)の挑戦などを紹介します。
株式会社  工房成瀬
株式会社  工房成瀬  もみ殻を特殊な製法で炭化した「くん炭」を使い、断熱材や体に優しい建具を開発してきた株式会社工房成瀬が、くん炭の断熱ボード化に成功、特許を取得し“くん炭ボード”として販売を開始した。同社の開発した“くん炭ボード”は、接着剤など化学物質は一切使用せず、くん炭に植物と水を加えるだけでボード状にしたものである。もみ殻を複雑に絡み合わせるため、コウゾやクワ、スギの樹皮など繊維が良く絡み合う性質のものを使用し、粘材として、ハナオクラ(トロロアオイ)という粘り気の強い植物の根から抽出した液を使用するなど、天然素材に徹底的にこだわった環境にやさしい製品が完成した。
 くん炭は、もみ殻炭特有の多孔質構造から、これまで土壌改良材として多く利用されてきたが、断熱効果のほか保温、保湿、有害物質吸着など居住環境を高める優れた働きを持つことが分かってきた。同社では10年ほど前から商品化を進め、有害物質を吸着する建具材として商品化したほか、断熱材としては直接床下に敷き詰めるという方法で施工・販売してきた。しかし、床下への施工では、くん炭が風で飛ぶなど作業性や効率が悪いという欠点があった。断熱材としての利用価値を高めるためボード化を模索していた中、偶然クワ系植物の繊維がボード状にするのに相性が良いことを発見。繊維の絡まり具合や、植物、水分の配合など、試作・実験の末ボード化に漕ぎ着けたという。
株式会社  工房成瀬  工務店も経営し、数多くの住宅を建築してきた藤原社長は、住宅の高断熱、高気密化が進み、建材や接着剤などから発生する化学物質が引き起こすと言われる「シックハウス症候群」など、環境や健康面に影響を与える材料の使用に疑問を持ち、保温・保湿能力も高い炭に着目し開発に当たってきたもので、”くん炭ボード“には住宅建築に精通した同社ならではのアイデアと工夫が活かされている。断熱ボードの生産はまだ始まったばかりだが、環境や健康に対する意識の高まりから、県内だけでなく県外建築業者からも高く評価され引き合いも多いのだという。
 藤原社長は、「コウゾやクワなど使用する植物の多くは県内では調達できず、現在は県外から取り寄せている。断熱ボードの生産が軌道に乗れば、将来的にはコウゾやクワなどを地元の農家の協力を得て調達したい。そうなれば原材料コストも下げることができ、販売価格も引き下げが可能となるほか、もみ殻も含め原材料を全て秋田産にできる。断熱材をもっと普及させることができれば、地域全体に恩恵をもたらすことができる」と、人と環境にやさしい自然派住宅の提供に意欲を燃やすと同時に、地域活性化にも思いを巡らせていた。 株式会社  工房成瀬

エール 株式会社
エール 株式会社  「何よりも同じ考えの同志が複数いたことが起業の後押しになりました。」
 このように語るのは、この5月18日に冠婚葬祭業「エール株式会社」を立ち上げた川村多恵子さんである。
 もともと冠婚葬祭業界の仕事に従事していた川村さんは、「何か商業主義」的なところを感じていたそうだ。
 「確かに一般家庭において、誰かが亡くなる、これは想像以上に大変なことだと思います。御遺体を自宅に引き取り、枕経をお願いし、納棺・出棺、火葬、御逮夜、葬儀・告別式、こういった行事を2〜3日で行わなければならないのだから、それはもう慌ただしい。故人を悼む、悲しむ暇もない。御遺族も、とにかく、無事に、滞りなく、これらの行事が執り行われることを最優先に考えてしまう。理解できないわけではないですが、もっと故人を尊び御遺族が中心となる葬儀をプロデュースするべきではないかと考えていたところ、3人の同僚が賛同してくれたのです。」
 川村さんが次々に出すアイデアに、賛同した3名の同僚が肉付けをし、ビジネスプランを固めてわずか1ヶ月で起業にこぎつけた。「うまくアイデアを文章化できたので会社設立は順調でしたが、事務的な作業は勝手が分からず戸惑いました」と話す川村さん。できるだけ少ない資金で株式会社設立するため、いわゆる1円創業制度(実際は資本金1万円で創業)を活用した。しかし、遺体を搬送するために必要な運送業の営業許可を申請した際、その許可基準に自己資本比率という項目があり、許可がおりないという苦渋を味わったという。また、各金融機関に運転資金の工面の相談をした際には、行く先々で少ない資本金に対して不安感をもたれたように感じられ、「このままでは社会的な信用が得られない」と実感したそうだ。「アントレプレナーシップを醸成しようとできた1円創業制度なのに、付随する社会環境がまだ整っていないと感じました。運送業の許可が下りないことには業務に支障が出るので、予定外だったのですが、思い切って資本金を1,000万円に増資しました」。
 数あるアイデアの一端を紹介すると、お客様の多様なニーズにその都度対応できる体制を保つため、いわゆる自社のセレモニーホールは持たない。「核家族が一般的になり、少子高齢化が進んでいます。他の分野と同様に葬儀も十人十色なんです。葬儀の場所についても、自宅でという人もいれば、ホテルでという人もいます。そういった多様なニーズにきめ細かく対応していきたいので、決まった場所は持たず利用者の希望する場所で葬儀が行える形をとりました」。また、福祉サービスと融合させた形でのビフォーケア、アフターケアを信条とするという。「一人暮らしの方の安否確認システムを構築しておりますし、お墓や遺品の管理などをシステム化して、少子高齢化時代に対応していこうと思っています」。
 エール株式会社のユニークな企画はまだまだ尽きないが、そういったサービス内容を逐次情報提供していき、「選択権はお客様」というスタイルを定着させたい考えだ。
 川村さんとサポートした3名が中心となって7名のスタッフで立ち上げたエール株式会社は、近く新たに20名を新規雇用し、ユニークで夢のある「オンリーワンの葬儀屋さん」を目指していく。