タイトル-経営さぷりメント
改正男女雇用機会均等法と企業対応 社会保険労務士 渡部 喜政
 男女雇用機会均等法(昭和47年法律第113号)の改定が、去る6月15日衆議院本会議で可決・成立しました。
 職場に働く人が性別により差別されることなく、また、働く女性が母性を尊重されつつ、その能力を十分発揮することができる雇用環境を整備するため、「性別による差別禁止の範囲の拡大、妊娠等を理由とする不利益取扱いの禁止等」を定めた改正法が、平成19年4月1日より施行されます。
1  改正法のポイント
(1) 性別による差別禁止の対象範囲の拡大
[1] 男女双方に対する差別が禁止されます。
 これまでも、女性に対する差別的取扱いは禁止されてきましたが、今回の改正で男女双方に対する性差別が禁止されます。改正後は、男性に不利な取扱いをした場合も、男性従業員から均等法違反を主張される(調停等を起こされる)ことが想定されます。
(注)これまで、例外として、女性の比率が4割を下回っている場合は、特別措置として「女性のみ・女性優遇」の取扱いをしても均等法違反には問われませんでした。現段階では定まっておりませんが、この特例措置は、女性の置かれている現状を考慮し改正後も維持されるものと思われます。
[2] 差別禁止の対象範囲が拡大されます。
 これまでの均等法は、募集・採用、配置・昇進・教育訓練、福利厚生、定年・解雇を差別禁止の対象項目としてきましたが、今回の改正により、降格、職種の変更、雇用形態の変更、退職勧奨、雇止めについても差別禁止項目として追加しました。
(注)配置について、業務の配分や権限の付与において男女で差がある取扱いをした場合は注意が必要です。(例:男性は外勤、女性は内勤)
[3] 間接差別の禁止が創設されました。
 これまでになかった新しい差別の法概念として、間接差別が創設されました。外見上は性に中立的な要件でも、省令で定める一定の要件については、業務遂行上等の合理性がない場合には間接差別として禁止されます。(職務との関連性や業務の必要性等に合理性が認められる場合は、差別とは判断されません。)想定される省令の内容は、募集・採用に当たり、一定の身長、体重又は体力を要件とすること、コース別雇用管理制度における総合職の募集・採用に当たり全国転勤を要件とすること、昇進に当たり転勤経験を要件とすること等です。
(2)妊娠・出産を理由とする不利益取扱いの禁止
[1] 省令で定める理由による、解雇その他不利益取扱いも禁止されます。
 これまで妊娠、出産、産前産後休業の取得を理由とする解雇は禁止されてきましたが、解雇以外の不利益取扱いについても、今後省令で定められることになりました。想定される省令の内容は、労働基準法の母性保護措置や、均等法の母性健康管理措置を受けたこと等。不利益取扱いは、退職勧奨、雇止め、パートへの変更等。
[2] 妊娠中及び産後1年以内の解雇は、原則無効とされます。
 事業主が、妊娠・出産・産前産後休業の取得や、その他の省令で定める理由による解雇でないことを証明しない限り、その解雇は無効となります。(妊娠・出産に起因する能率低下や労働不能があったことを理由とする解雇でないことを証明した場合は、解雇も可能と思われます。)
(3)セクシュアルハラスメントが「措置義務」に
 これまでは、女性労働者に対するセクシュアルハラスメントについて配慮が求められてきましたが、今回の改正では男性もその対象にすることとし、「雇用管理上必要な措置を講じなければならない」とされています。措置義務の具体的内容については、今後指針において明らかにされることになっています。
 (注)是正指導に応じない場合の企業名公表や、紛争にかかる調停等があります。
(4)その他母性健康管理措置(時差通勤、勤務時間の短縮、休業等)、ポジティブ・アクションの推進(男女間の格差解消のための積極的取組)、調停制度の充実、過料(20万円以下)の創設等があります。
2  企業実務への対応
(1)男性に対する長時間労働の多い職場への対応
 多くの事業所で男性に対する長時間労働が見受けられます。今後男性であることを理由とする差別があれば、均等法違反を主張される(調停等を起こされる)場合が考えられるので、男女間の雇用管理上の配慮が必要です。
(2)能率低下等を理由とする不利益取扱いへの対応
 妊娠・出産等に伴う労働契約の変更についてのトラブルが増加しています。妊娠・出産に起因する能率低下等を理由とする不利益取扱いは、企業側に「十分に客観的な説明材料」が求められますので、賃金の算定や能力評価等制度運用の対応が必要となります。
(3)母性健康管理措置に関わるトラブルへの対応
 母性健康管理措置に関わる個別トラブルは、均等法に基づく労働局長による指導、勧告、調停が受けられることになります。企業としては諸規定の整備等十分な対応が必要です。就業規則(例)を挙げますので、今一度自社の規定を確認して下さい。
就業規則