経営探訪 秋田県貿易 株式会社
キーワードは「賑わいづくり」と「社会貢献」
秋田県貿易 株式会社
秋田港への想い
 嶋田さんは、去る平成11年に秋田市が提唱した「秋田港ポートルネッサンス21計画」に基づく多機能複合施設整備事業化企画コンペに参加し、秋田市から採択を受けている。ちょうど、ポートタワーセリオンがオープンした5年後のことである。
 「長年、地元土崎地区に居住している者として、セリオンのオープンは胸躍るところがありました。その反面で、セリオンだけでは何か物足りないという思いもありました」。
 もともと、秋田県貿易(株)は、ベトナム・タイ・中国などの民芸雑貨の輸入卸売を手がける会社であった。ちょうど新日本海フェリー(株)が敦賀港 - 新潟港 - 秋田港 - 苫小牧東港の定期便フェリーを就航させて間もない頃に、セリオンがオープンし、「秋田港に人が集まる下地ができた。あとは、それらの人が地元に『おカネを落とす仕組み』を考えればいい。そうすれば低迷する地元商店街も活気づくだろう。何をすればいいか、すぐにアイデアは生まれました」。嶋田さんの“航海”が始まった瞬間である。
ベイパラダイス立ち上げ
 「単なる通過点ではなく、フェリーの乗客、あるいは貨物船で立ち寄る船員などを秋田に滞在させること。そのためには、港湾機能、宿泊・商業地域が一体となった施設の整備が必要です。私は独自に首都圏のホテルチェーンと交渉し、秋田港周辺への進出が決定寸前のところまで進展しましたが、バブル景気の崩壊の時期で頓挫したのです」。総工費約70億円の大きなプロジェクトであり、事業計画の全てをリセットしてしまうのは「秋田県貿易のためにも惜しい」と考えた嶋田さんは、平成14年4月に、プロジェクトの一部である総合商業施設として「秋田ベイパラダイス」をオープンさせた。
 嶋田さんは、ベイパラダイスの建設について、「秋田県貿易史上、最も大きな仕事」と言って笑うが、実はその一方で、遠大な秋田港地域の開発事業とは全く別の、「もう一つの大仕事」のアイデアが涌いていたのである。
秋田県貿易 株式会社
新たな挑戦 〜アルコ・インターロック・プロ〜
 嶋田さんのもう一つの顔は、日の出運輸企業(株)の社長である。トラックによる運送業を営む者として、交通安全、特にドライバーの飲酒運転防止には「本当に気を遣っている」と話す。ここに来て、飲酒ドライバーによる悲しい事故が全国各地で多発している現状から、秋田県貿易(株)において「飲酒状態では、エンジンがかけられない仕組み」作りの検討に入った。まず、最初に着手したのが「情報収集」。全国の交通事故被害者で組織されたNPOや国土交通省から情報を集めて、中国に有望な製品があることを知った。さっそく嶋田さん自ら現地に飛び、日本国内における独占的な輸入契約を取り付け、日本で使用可能な状態にバージョン変更を行い、「アルコ・インターロック・プロ」を開発したのである。
 その仕組みは、次のとおりである。形状は、よくタクシーの運転席に取り付けられている(あるいは、バスガイドさんが持つ業務用の)無線マイクを思い描いていただければよい。その業務用マイク型の機器に、プラスチック製の管が付いている。エンジンは、ドライバーがこの管に息を吹き込まないと起動しない。息を吹き込んでも、この機器が呼気1リットル中のアルコール濃度0.047mg以上のアルコールを検知すると、やはりエンジンは起動しないのである。道路交通法に定められた酒気帯び運転に該当するアルコール濃度が呼気1リットル中0.15mgなので、少なくとも飲酒が原因の事故は撲滅できる。
アルコ・インターロック・プロ  トラック運送業を営んでから「ぼんやりとイメージしていた」アイデアを、多発する事故のニュースをきっかけに「やってやろう」と思い立ってから、製品化までの期間がわずか3ヶ月。嶋田さんならではの行動力である。また、全国への営業も積極的に行っており、すでに長野県と群馬県で販売代理店が決まっている。また、全国トラック協会と各都道府県トラック協会へ、車両にこの「アルコ・インターロック・プロ」を取り付けたユーザーに補助金を交付するよう求めており、こちらのほうも、埼玉県、群馬県、福島県のトラック協会から了承されたそうである。さらに全国の自治体からも問い合わせが相次いでおり、「評判はすこぶる良い」との感触を得ているという。「私どもは営利企業なので利潤を追求することが第一義なのだけれども、その行動が結果として社会に貢献できれば、とてもうれしいこと」と語る。
ポートタワーセリオンの指定管理者へ
 今後、秋田県貿易(株)の方向性は、この「アルコ・インターロック・プロ」をさらに普及させるための製品改良を行い「会社の主力製品」とすることと、「秋田港の賑わいづくり」に貢献することだと嶋田さん。
 実は、嶋田さんの“大航海”は、今も途中である。平成19年4月から公設運営となる秋田港の象徴的建造物、「ポートタワーセリオン」の指定管理者に名乗りを挙げており、長年の夢の実現へ少しずつ帆を進めているところである。

 良いものがあると聞けば、すぐにでも現地に飛び、契約事も“即決主義”と自負する嶋田さんは、現在は「秋田県貿易の次代の命運を握る」ロシア航路に注目しているという。今後のますますの活躍を応援したい。

CORPORATION DATA
秋田県貿易株式会社
代表取締役社長 嶋田 康子
本 社:011-0901秋田市寺内字神屋敷295-47
TEL:018-845-8832
FAX:018-845-8826