介護老人保健施設というのを聞いたことがあるだろうか。 老人福祉施設と同じと思われがちだが、介護老人保健施設は、介護を必要とする高齢者の自立を支援し、家庭への復帰を目指すために、医師の管理の下、充実した看護、作業療法士や理学療法士等によるリハビリを受けながら栄養管理・食事・入浴などの日常の介護サービスを提供する施設をいう。 今回は、その介護老人保健施設として、平成18年度秋田県経営品質賞『優秀賞』を受賞した「医療法人正和会 介護老人保健施設ほのぼの苑」をご紹介したい。 この医療法人正和会の理事長で、「ほのぼの苑」の医師でもある小玉敏央氏は、20年前に病院の待合室で70代の患者さんが倒れ亡くなるという経験をした。病院内に除細動器があれば治療の手段ももっとあったのではないかという無念の思いが強く、それ以来“必要なときに最高の医療サービスを提供する”を念頭に医療体制の整備を行ってきたという。潟上市の同一の敷地内に小玉医院(内科・小児科・循環器科・呼吸器科・消化器科)、南秋田整形外科医院、おおくぼ歯科診療所、南秋田眼科医院からなる総合医療エリアを構築し、その中にほのぼの苑、南秋田訪問看護ステーション、南秋田在宅総合ケアセンターを開設し、必要な医療サービスを必要なときに最高の水準で受けられる体制を確立したそうだ。ほのぼの苑は、平成8年4月に医療法人正和会の関連施設として開設された。 この「ほのぼの苑」の入苑者のうち、約1/3が経管栄養(※)などによる治療が必要な方で、全体でも医療処置を要する方がかなり多い。しかし、その入苑者の48%が在宅復帰し、秋田県内の介護老人保健施設の中では在宅復帰率がトップクラスとなっているそうだ。この理由として、全ての職員が入苑者に対し“如何にすれば良くなるのか”、“良くなって、家に帰るにはどうしたらいいのか”を念頭に、常に入苑者の気持ちになって考えているということが上げられるのではないか。 「ほのぼの苑」で特徴的なものは、職員の離職率の低さがある。介護労働者の離職率が全国平均で21%に上っている中、「ほのぼの苑」の離職率は平成18年度で5%(20名のうち1名が離職)と非常に低い。また、その離職の理由も自己の能力向上のための離職で、厚生労働省の調査でいう肉体的負担ではなかった。反対に、「ほのぼの苑」を辞めない理由を調査したところ、「やりがい」、「仲間の励まし」等が挙げられ、職員の資質と職場環境の良さが離職率の低さに繋がったといえる。この職員の力が入苑者の苑での生活と在宅復帰を支えている。 また同苑では、入苑者の在宅復帰を支えるもう一つの側面である入苑者の家族による、「家族会」を発足させ、苑の運営についての意見交換会を定期的に開催している。その際、家族側から苑に対して不利益な意見が出ても、個人が特定できないようにグループを構成するなど、厳しい意見でも真摯に受け止め、改善に努めようする姿勢が窺われる。機関誌「ほのぼの苑だより」へ議事録を掲載するなど、参加できなかった家族への報告も行っている。 その結果、同苑が行ったアンケートによる顧客満足度調査結果が満足度80%と非常に高い数値を示したそうだ。 また、小玉理事長によれば、「入苑者の整容を見れば、職員の入苑者に対する意識向上度が判る」という。 今回の秋田県経営品質賞の受賞は、日本経営品質賞アセスメント基準書に基づく8つの視点から審査を受け、その中で@トップの地域貢献への強い思いが生み出すリーダーシップ、A職員の利用者に対する献身的で現場に即応したスピード感あふれるサービス、B委員会・プロジェクトチームによる組織活動、C正和会グループ内外のネットワーク の4項目が評価されたものだ。それは、小玉理事長の介護・医療に対する思いと、経営者としてのリーダーシップ、また職員が自ら問題提起しプロジェクトチームを立ち上げるなど常に改善に向け努力した結果によるものだろう。 ※口からの食事が困難なため、胃や腸にチューブを通し、直接栄養剤等を注入する栄養管理。 |
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