タイトル-経営さぷりメント



マーケット・セグメンテーションとブルー・オーシャン戦略



中小企業診断士 佐藤善友

有限会社ジー・エフ・シー代表取締役
中小企業診断士・ITコーディネータインストラクター・秋田大学登録講師
主な著書「分かる戦略!できる戦略!」イー・ピックス出版
選択と集中
 今、多くの中小企業が取り組まなければならないのが、「事業分野の選択と集中」です。自社の活動の事業分野を絞り込み、他社に無い個性的な「製品・商品・サービス」をどのように提供するかが、企業の収益を決定付けます。大企業においては、「不採算部門を切り捨て、高収益事業へ集中すること」を「選択と集中」と捉える企業が多いようですが、創業企業や経営革新を目指す企業にとっては、「選択と集中」は自社の生存領域を決める極めて重要な事項です。本稿では自社の事業領域を定める手法をご紹介します。

マーケット・セグメンテーション
 ビジネスで重要なことは、「他社との違いを明確にして、その違いを顧客に提示すること」です。「他社との違い」は、企業の独自性であり強みであり戦略展開の原動力になります。企業が持っている「人・もの・金」を経営資源と呼びますが、個々の企業の経営資源には限りがあります。多くの事項に資源を分散すると事業の特徴は薄れ、独創的で個性的な事業展開は難しくなります。
 例えば、経営資源の少ない衣料品店が、子供から若者、成人、高齢者までの商品を揃えようとすれば、特徴のある商品を揃えたり、特徴あるサービスを提供・展開することは難しくなります。様々な衣料品やサービスが市場に溢れている今日、お客様は他人が着ていない商品やこれまでに経験したことのないサービスを求めています。衣料品店が個性的な商品やサービスを提供できなければ、価格でお客様を惹き付けなければなりません。そうなると企業の収益性は低下し経営が成り立たなくなります。
 そこで、「特定のお客様の特定のニーズ(要求)に応える」ことに事業分野を絞り込み、そこに集中的に経営資源を投資し、他社とは一味も二味も違う経営を展開することが重要となります。このお客様の絞り込みを、マーケット・セグメンテーションと言います。マーケット・セグメンテーションとは「市場を同質的な消費者グループに分類する」ことです。お客様のニーズを的確に把握し、何らかの尺度によって市場を分割し、企業の強み・弱みや競合状況に応じて、経営資源の投資対象を絞り込み、投資を効果的に行おうとするものです。(図1)

図1 マーケット・セグメンテーション

 お客様を分類する方法には様々な切り口がありますが、地域別、年齢別、所得別などの統計的区分が最も基本的です。しかし昨今では、同じ地域、同じ年齢、同じ所得でも違った消費スタイルを持つ人が増え、統計的区分では十分説明できなくなり、むしろライフ・スタイルによる区分が盛んになりました。米国のマーケティング経済学者のP・コトラーは分類する条件として、@測定可能なこと、Aアプローチできること、Bビジネスとなる市場規模があることの3条件をあげています。
 マーケット・セグメンテーションの考え方は、インターネット販売を考えている企業の方には特に重要です。図2は現在の秋田県の人口(112万人)と昨年12月時点の国内のインターネットの利用者数を円の大きさで比較したものです。我々はインターネットに接続することにより秋田県人の78倍の人にアクセスする機会を得られるのです。インターネット上ではマーケットセグメントしても多くのお客様がターゲットになることが理解できることでしょう。ちなみに、ビジネスの世界では、市場の5%のお客様をターゲットにすると、20%のお客様は全く反応を示さないが75%のお客様は何らかの反応を示すと言われています。

図2 秋田県の人口と全国のネット人口

ブルー・オーシャン戦略
 3年ほど前から話題になっている言葉に、「ブルー・オーシャン戦略」があります。「ブルー・オーシャン」の反対は何でしょうか?それは「レッド・オーシャン」すなわち「血の海」を指します。ブルー・オーシャン戦略は、フランスの欧州経営大学院教授のW・チャン・キム氏とレネ・モボルニュ氏により、2005年2月に発表された著書『ブルー・オーシャン戦略』により提唱された戦略構築の考え方です。生き残るために既存の商品やサービスを改良することで血みどろの争いを繰り広げる「レッド・オーシャン」市場から、競争相手のいない未知の「ブルー・オーシャン」市場を創造し、そこで独占的な市場を確保し収益の最大化を図ろうとする戦略です。
 例えば、ネットカフェは「低価格+空間提供+情報提供」という3つの要因で、100円ショップは「低価格+バラエティー(豊富な選択肢)」の要因で新たな市場を創造したと言えるでしょう。このように、特定の競争要因に絞り込み、そこに経営資源を重点的に絞り込んだ差別化を突き詰めることで、競争の無い新たな市場を創造しようとする戦略がブルー・オーシャン戦略です。詳細は、両氏の著書に任せますが、このブルー・オーシャン戦略の中で、企業が選択と集中を進める上で、非常に役に立つ二つのツールを取り上げているのでここで紹介いたします。

●戦略キャンバス
 その一つが、戦略キャンバスです。競争要因を横軸に、縦軸にはそのレベルを表し、自社と競争相手とのレベルを比較し、競争する土俵(ステージ)を競争相手と変えることにより新たな市場を明確にしようとするときに使用するものです。各競争要因の点を結び合わせた線が、競争相手の線と異なる線を描くことにより新たな市場を創造しようとするものです。


●アクション・マトリックス
 戦略キャンバスを基に、何を「取り除く」べきか?何を「増やす」べきか?あるいは、何を「減らし」「付け加える」べきか?を四つのセグメントで明確にして、現状の競争要因に対して、自社にどんな変化をどれだけもたらせば、ブルー・オーシャンを創造できるかを整理する道具です。


 この戦略キャンバスとアクション・マトリックスは、選択と集中をする際に極めて有効なツールです。是非とも自社の戦略キャンバスとアクション・マトリックスを描き、自社の選択と集中の分野を明確にしていただきたいものです。

(2007年9月 vol.314)