タイトル-経営さぷりメント



地域資源活用と企業連携による、県外市場への事業展開及び新分野への進出について[企業と地域の活性化を図るために]



中小企業金融公庫 秋田支店 支店長 猪瀬 洋
はじめに
 平成19年版「あきた100の指標」によりますと、県の「製造業従業者1人当たり製造品出荷額」は全国最下位、また、「同付加価値額」は46位となっております。また、あきた21総合計画(第3期実施計画)によれば「本県の経済力が力強さに欠けるのは、景気の波及効果が各分野に浸透するまでに時間がかかり深く行きわたらないという本県の製造業が持つ構造的な問題が大きい…付加価値の低い業種が多いことが要因として挙げられる」としております。
 司馬遼太郎はその著「街道を行く」において、「秋田藩は名だたる米作地で、日本有数の杉の産地であり鉱山国であった。恵まれた米・木材・鉱山のおかげで殖産興業という藩ぐるみの産業化をやらずにすんだ」と評しているほか、会員制総合誌「原点」の中での座談会参加者の発言の一部を引用し「百年の間、付加価値づくりを我々は怠って来た、ノウノウと資源の上にのっかって何もしないで来た」と記しています。
 また、奈良洋氏の著書「秋田の地域づくり」の中で、同氏は「かつては日本一であった非鉄金属鉱山、無尽蔵とされた天然秋田杉…(秋田は)他県人がうらやむ豊かな資源県であった。その資源は今や見る影も無く衰退し〈素材放出型産業〉としてしか生きてこなかったツケが〈秋田はどうも元気がない〉という声に現れている」とおっしゃっておられます。現在の秋田県は産業基盤・経済基盤ともに脆弱であり、従って企業の経営革新への取り組みや新分野への進出等により競争力を強めて域外マーケットへの事業展開により、これらの基盤強化を図って行くことが急務とされています。
 余談ではありますが、秋田県には国の重要無形民俗文化財が14(竿燈、なまはげ、西馬内盆踊等々)ありまして、この数はダントツの全国第1位です。これ以外にも1月から3月にかけての小正月行事、各地の梵天行事などをはじめとする数百年も続く様々な伝統行事等々、また、田植えの前などに行われる各地の神社の祭典など、どれをとっても素晴らしい、感動の一語に尽きる歴史ある伝統行事が県内には非常に数多くあります。これらは後ほど申し上げる地域資源とも一部関連するのですが、秋田県の誇るべき潜在力と言うことができるのではないかと思われます。

1.地域資源の活用について
 余談が長くなりましたが、平成19年6月に「中小企業地域資源活用促進法」が施行されました。
 これは、本誌の2007年7月号の特集記事にも載っていますが、中小企業が地域の強みである地域資源【@産地技術A農林水産品B観光資源】を活用して新商品や新サービスを開発し、域外マーケットへの進出、市場化に取り組む際に、ノウハウ面と資金面の支援を行っていくというものです。
 秋田県には特色ある伝統工芸品や日本酒、全国有数の生産量を誇る農林水産物、また、豊かな観光資源が多数存在し、県としても「これら秋田の強みを生かした中小企業の取り組みは活力ある秋田の創造に必要不可欠で、地域経済を活性化させるためには、これら地域産業資源を有効に活用し、創意ある工夫の精神で事業化にチャレンジする取り組みを推進することが重要である」として力を入れています。
 これまでに指定された県の地域資源としては、例えば、@産地技術としては、川連漆器、曲げわっぱ、清酒、秋田仏壇、がっこ等々、また、A農林水産品では、米、大豆、秋田杉、秋田蕗、とんぶりなど、B観光資源では、なまはげ、白神山地、角館、各地温泉などとなっております。地域資源に係る支援スキームの概要については、下の図の通りです。
 前掲のあきた21総合計画によると、秋田県の県際収支〈他県との財貨・サービスのやり取り(輸移出−輸移入)〉は、平成15年時点で、5,100億円の赤字となっており、このままではますます本県の活力が失われていくことになるため、どうか1社でも多くの企業がこの制度を活用し、県際収支のマイナスをできうる限り減らし、県内の経済活性化、企業活性化に貢献されることを大いに期待している次第であります。

2.企業連携について
 全国に比べての秋田の景況感の厳しさ、脆弱な経済基盤等々、マイナスイメージの話が多いようですが、個々の企業で見ますと決してそんなことはありません。私は秋田に着任してから数百社の県内の中小企業を訪問してまいりました。特殊な技術力や素晴らしい設備を有している企業もたくさん拝見させていただきました。
 例えば、鋳造工場としては日本で初めてISOを取得し東北では1台しかない大型旋盤を有する鋳鋼品メーカー、世界的に見てもトップクラスの技術力・ノウハウを有するサファイアガラスの研磨業者、世界に例のない微細加工用エンドミルを日本で初めて実用化した企業など、数多くの素晴らしい企業があります。
 「中小企業新事業活動促進法に基づく新連携事業」は、複数の中小企業者がお互いの強みとなっている技術等を持ち寄り、企業が連携することで新たな事業分野の開拓を図るものです(現在までの東北地区における認定件数は38件、うち秋田県は3件)。現在、本県では輸送機関連のコンソーシアムが発足しておりますが、今後、更に企業連携を活発化させて新分野への進出等を図り、県の産業基盤強化を行っていくことが急務とされています。

おわりに
 最後になりましたが、地域資源の活用と企業連携は秋田県の経済活性化にとって非常に重要なことであります。秋田魁新報社の夕刊に掲載された石川好氏の「眼と芽」の中で同氏は、藤田嗣治の作品のコレクターとして有名な平野政吉氏(平野政吉美術館)等の例を挙げ「地方都市には人知れず社会に貢献する人物や永々と築き上げた地力がある。これを皆で再発見し、これを励まし再利用する意欲が地域を豊かな生活の場に変えるのである」とおっしゃっておられます。地域資源と企業連携を一つのきっかけとして、各々の企業が持っておられる潜在的な能力を顕在化させることにより、企業と地域の活性化が実現されるように切にお願いするとともに、私どもとしましてもお役に立てることがあれば精一杯努力してまいりたいと思っておりますのでよろしくお願いいたします。
中小企業地域資源活用促進法に基づく支援のスキーム
(2008年1月 vol.318)