タイトル-経営さぷりメント



企業のメンタルヘルス対策1
管理職が行うメンタルヘルス
〜生産性アップのために〜



産業カウンセラー 寺田 誠
 昨今、働く人たちのメンタルへルスケアの取組が盛んになってきました。県内でも最近は積極的に研修会を実施している事業所が増えているようです。しかしながら、実際に「メンタルへルス研修」を導入するにあたり、どこから始めてよいのかよく分からないというのが実情ではないでしょうか。年間計画に研修を盛り込んではいるものの、「継続性に欠ける」「効果が目に見えない」という声をよく耳にします。外部の講師に“おんぶにだっこ”という研修会も少なくないのが現状のようです。ということで今回はメンタルヘルスケアを効果的に進めていくにはどうすればよいのか、特に労働者を管理する組織の立場からお話してみたいと思います。

 「メンタルヘルス」は日本語では「心の健康」「精神衛生」などと訳すことができますが、企業にとっては、労働者が健康でも業績が上がらないというのでは意味がありません。よって、メンタルヘルスケアというのは、労働者のメンタルヘルス不調を予防すると同時に、仕事に対するモチベーションの維持向上ができる職場環境づくり、と捉えて頂くとよろしいかと思います。つまりメンタルヘルスケアは福利厚生ではなく、生産性アップのためのツールでもあるのです。
 厚生労働省は2000年に「心の健康づくり」のための4つの指針を打ち出しています。

1.労働者自身がケアをする「セルフケア」
2.管理監督者が職場環境の改善や部下に対する縦のラインをケアする「ラインケア」
3.事業場内の産業保健スタッフによるケア
4.事業場外の専門スタッフによるケア

 現在、県内では「事業場外専門スタッフによるケア」を積極的に活用している事業所はごく少数です。「負担コストが大きい」もしくは「それに見合う費用対価が見込めるかどうか疑問」という意識によるものが大きな要因と言えるでしょう。
 確かに、この点は大きな課題とも言えますが、4つの指針はそれぞれ段階的に関連しながら1つの「メンタルへルスケア」を構築しているので、事業場の現状に照らし合わせ、どの段階から始めていくか検討することが可能です。初めからすべてのケアを充実させなくてはならない訳ではなく、徐々に効果的なメンタルヘルスケアを推進していく方が費用の面でもリーズナブルと言えるでしょう。
 たとえば、労働者が少数であり個人の管理が比較的やりやすい企業では、一般労働者向けの「セルフケア」研修に力を入れる、大規模で部署ごとの管理を中心とする企業は、その事業場内スタッフが率先して管理監督者向けに、ストレスチェックやカウンセリングなどが必要な人の相談体制を確立させていく、というのがよろしいかと思います。
 それでは具体的にどのようなことをすればよいのでしょうか。ポイントをいくつかまとめてみます。


1、セルフケアはすべての労働者が常に意識して行う
 雇用する側、される側に限らず、私たちは一労働者です。いつでもどこでも心身の調子を確認する必要があります。これを怠り、気づかないうちにうつ的な症状へとつながっていくケースは珍しくありません。原因がよく分からないと言われるメンタルヘルス不調の多くはここからきています。
 定期的な簡易ストレスチェック調査票による確認や身体のリラクゼーションなどが効果的です。

2、職場の長はメンタルヘルスケアの意識浸透も職務の一つとして捉える
 「ラインケア」は職場の管理監督者が率先して行う必要があります。けれどもメンタルヘルスを付加価値的に考えるのではなく、業務の一つとして遂行することが大前提です。部下への積極的な声かけはもちろんのこと、定期的な面接を行うなど、部下の調子をいつでも観察することです。それをすることによって、日ごろの部下の変化がよくつかめるのです。
 しかしながら、その長がすべてを抱える必要もありません。話を聴くことの限界や「何か変だぞ」と感じるのであれば、ためらわず専門家に依頼してよろしいかと思います。この場合、事業場内の診療所や医療機関を受診することを勧めるためにはふだんの信頼関係が不可欠である、ということをお忘れなく。

3、職場内での意識変容はまずトップから!
 「セルフケア」「ラインケア」に対して労働者がどんなに努力しても、事業場のトップの意識が低くては効果が上がりません。事業場内の産業保健スタッフが積極的に行動の意思を示しているのに、「その成果はいつ出るんだ?」とか、「コストがかかり過ぎる」などと一蹴されては次の段階に進めません。生産性アップのためのメンタルヘルスなのに、目先の成果にばかり目が行くようであれば、かえって非生産的になってしまいます。メンタルヘルスケアは量の変化ではなく、質の変化なのです。

4、事業場内の相談はしかるべき場所で行う
 上司が部下と相談(面接)する部屋(場所)には配慮が必要です。落ち着いて自分の話ができるかどうか検討しなくてはいけません。騒がしいところや人の目が気になるところは不適当です。「誰も見て(聞いて)いないだろう」という勝手な判断も面接後の対応を見誤らせてしまう原因になります。どうしても部屋が確保できなければ専用の相談スペースを確保しましょう。

5、メンタルヘルスは感情の世界〜よく聴く
 労働成果には常に数字がついて回ります。言い換えれば、そこには市場理論が存在するということ。しかし、メンタルの世界は感情ですから理論や数字では計れません。計れないからこそ「人の気持ち」を丁寧に聴く必要があるのです。
 話を丁寧にしっかりと聴くことを傾聴と言います。話を「聴いているつもり」でも実際は「聴くことができていない」ということはけっこう多いようです。現在、管理監督者の立場の方は、「積極的傾聴技法」などのスキルアップ研修をぜひ受講されてはいかがでしょうか。
 以上のように、ひとつずつ丁寧にケアを推進することで、生産性は必ず上昇していきます。メンタルヘルスケアを充実させるためには、経営者側の理解と労働者一人一人の意識が同じベクトルを向いていることが大事です。次回は、このことに関連した本質的事例を基にお話をさせて頂きたいと思います。
(2008年2月 vol.319)